最近よく彼女の演奏が耳に入ってくる。

・・・・決して盗み聞きしているわけではない。

室内は好きではないらしく、練習室では滅多に練習しない。

だから俺にも聞こえるのだ。

今日も、森の広場で何かを弾いている。

結構なギャラリーができていた。

普通科が弾いているから、物珍しいのだろう。

彼女の演奏に耳をすます。

何だあの曲は?と思ったら、クラシックじゃないらしい。

歌いながら弾いていたから(器用な奴だ)ポピュラーソングなのだろう。

しかし、どうせ歌うのなら伴奏を弾けばいいのに。

どうしてメロディーラインを弾くんだ?

「ちょっと香穂子〜。同じメロディ歌ったって面白くないわよ?」

「分かってるよぉ。でもアレンジとかできないんだもん」

「じゃあ歌うのやめなさいよ・・・」

「やだよ!歌いたいもん」

「それならカラオケ行きなさい!」

友人にたしなめられ、彼女は頬を膨らませていた。

ギターの弾き語りなら分かるが、何故わざわざヴァイオリンで・・・

友人とはそのまま曲の話に移行していた。

どうやら彼女が好きなバンドの新曲らしい。

聞いたことのない名前だった。

もっとも俺はクラシックかジャズしか聴かないけれど。


気づいたらCD屋にいた。

曲名が分からなかったので、店員に歌って伝えた。

顔から火が出るほど恥ずかしかったが。

俺は一体何をやっているのだろう。


学校でCDを聴いていると、クラスメイトが声をかけてきた。

「月森君。何を聴いているんだい?」

「え?い、いや・・・」

「あ、この前発売されたカールベーム指揮のやつだろ?飽きたら貸してくれよ」

「あ、ああ。分かった」

ロックバンドだとは言えなくて、俺は冷や汗が出た。

勝手に勘違いしてくれて助かった。

・・・思ったよりいい曲じゃないか。


バンドの曲をヴァイオリン一本で弾くのは難しい。

メロディだけでは味気ないし、伴奏だけでは何の曲だか分からない。

重音を駆使して、主旋とコードとを同時に弾くしかないか。

こんなに本気で曲に取り組んだのは、初めてかもしれない。

・・・こんなに面白いと思ったのも。


数日後。

彼女は懲りもせずに、同じ曲を同じように弾きながら歌っていた。

もう足を止める人間もいない。

弾き終わるのを待ってから、俺は声をかけた。

「少しいいだろうか」

「へ?あ、月森君!?ご、ごめんなさい!」

日野は何故か急に謝りだす。

「何故謝る?」

「ヴァイオリンでこんなことするなって怒りに来たんでしょ?」

「・・・違う」

「じゃあどうしたの?」

「・・・・君に一曲聴かせようと思って」

「ホント?嬉しいな」

彼女は笑顔になると、楽器をケースにしまって俺の前に座った。

さぁ、本番だ。

こんなに緊張しているのは、生まれて初めてかもしれない。

ゆっくりと弓を乗せ。

そして力強く音を紡いでいく。

彼女は最初怪訝そうな顔をしていたが、すぐに俺が何を弾いているのか気づいたようだった。

パチパチと惜しみない拍手と、ブラボーという声。

日野の瞳は、輝いていた。

すごいすごいを連発している。

どうやら成功したようだ。


「月森君も好きなの!?今度一緒にライブ行こうよ!」

予想もしていなかった事を言われ、驚いて楽器を落としそうになった。

「え!?」

「あ、ごめん・・・つい・・」

「いや・・・かまわない」

「ホント!?じゃ、約束ね」

彼女は満面の笑みでそう言って。

思い出したように付け加えた。

「今の演奏には、大事なものが欠けてると思わない?」

「・・・・何だ?」

びくびくしながらそう問うと。

彼女はいたずらっぽく微笑んだ。

「私の歌!ね、もう一回弾いて?」

「・・・ああ」


曲が終わった後で、彼女が不思議そうに尋ねてきた。

「ね、どうして私にこの曲弾いてくれたの?」

「それは・・・」

「それは?」

「な、なんとなくだ!」



君の気をひくためだなんて、言えない。

とりあえず、CDを全部買わなくては。


ちょっとストーカー気味?(笑)
香穂子の気をひこうと必死なつっきー。
でも自分じゃ認めたくない。
そんな二人。