庭の木々もすっかり紅葉したある日。
あかねはめずらしく屋敷の中で何かを作っていた。
「神子。いるか?」
急に姿を現したのは、陰陽師の泰明。
「わっ泰明さん!驚かさないで下さいよー」
「すまない。・・・神子」
「はい?」
「それは何だ?」
泰明が指したのは、部屋中に散らばったかぼちゃ・・らしきものだった。
「かぼちゃです!」
「かぼちゃには見えぬ。かぼちゃの皮は緑だ。それは朱色だ」
「そんな意地悪言わないで下さいよぉ。私の世界ではこの色なんです」
「本当か?何か顔らしきものもついているが・・・」
「これはハロウィンの飾りなんです。だから顔がついてるんですよ」
「はろ・・うぃん?」
「あ、10月の終わりにあるお祭りの名前です。顔をくりぬいたかぼちゃを飾るんですよ」
「かぼちゃの収穫を祝う祭りか?」
「違いますよ。うーん、何て言えばいいのかなぁ?おばけのお祭りみたいな・・・」
「おばけ、とは怨霊のことか?神子の世界ではそんな面妖なことをするのか?」
「怨霊っちゃー怨霊なんですけど・・・子供がお化けの格好をして、色んな家を回ってお菓子をもらう日なんです」
「なぜ?」
「なぜ?って言われても・・・何ででしょうね?とにかくそーゆー日なんです!」
「神子は菓子が食べたいのか?」
「え?いやそーゆーわけじゃないですよ。ただ毎年飾りを作ってたから・・・」
あかねはどことなく寂しそうだった。
「・・・手伝う」
「いいんですか?じゃ、一緒にやりましょう!」
泰明も部屋に座り込んで、紙でかぼちゃの形を作っていく。
「うちはかぼちゃでランタンも作るんですよー」
「らんたん?」
「提灯みたいなものです。大きなかぼちゃをくりぬいて、中に明かりをいれるんですよ」
「それは面白そうだな。作らないのか?」
「本物のかぼちゃがないんで無理ですね。紙だと燃えちゃうし」
「そうか。これはどうするんだ?」
部屋は大量のかぼちゃでいっぱいだった。
「うっ・・作りすぎたかな?あ、そーだ!みんなにあげにいきましょう!それでこれと交換に何かを貰いましょう」
「これを欲しがるものがいるのか?」
「泰明さんヒドイ・・・・」
藤姫の部屋の前。
かぼちゃを持ったあかねと泰明が立っている。
「藤姫ちゃん!ちょっといい?」
あかねが声をかける。
「神子様?どうぞ」
藤姫のお許しが出たので、二人は中に入った。
「まぁ泰明殿もご一緒だったのですか?」
「失礼している」
「ほら、泰明さん」
あかねが泰明をつっつく。
「あ、あぁ。・・・・・お菓子をくれないといたずらしちゃうぞ」
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
「は?」
シーンと静まり返る部屋。
泰明は、さっきあかねからこう言えと言われていたのだった。
あわててあかねが喋りだす。
「これはね、私の世界のお祭りなの。このかぼちゃあげるから、何かちょうだい」
「まぁそうでしたの?びっくりしましたわ。かわいらしいかぼちゃですね。私の部屋に何かあるかしら?」
藤姫は喜んで不細工なかぼちゃをもらってくれた。
やはり10歳。こういったものが嬉しいようだ。
変わりに綺麗な赤い紐をくれた。
あかねはさっそく髪に結んでいる。
「泰明さんにも結んであげますー」
「・・・遠慮する」
「そんなこと言わないでくださいよー。せっかく貰ったんだし」
結局あかねに押し切られて、泰明も紐を結ばれてしまった。
「次はどうしましょうか。やっぱりお菓子が欲しいなぁ。友雅さんなら持ってるかな?」
「内裏に行くのか?」
「はい。暇だし、行きましょうよ」
「分かった」
一仕事終えて友雅が庭にいると、後ろから可愛らしい声がした。
「あ!友雅さーん!」
「あかね。・・・・と泰明殿か」
泰明も一緒だと分かると、友雅は一瞬嫌な顔をした。
「ちょっといいですか?」
「ああ、いいよ。おや、可愛らしい髪型をしてるね」
「藤姫ちゃんに貰ったんですー。泰明さんもおそろいなんですよ」
友雅が泰明を見ると、あかねと同じ赤い紐をつけていた。
「・・・そうか。何か用があってきたんだろう?」
「あ、そうです。泰明さんいきますよ」
「またやるのか?」
「そうです」
「何を話してるんだい?」
「せーの」
「「お菓子をくれないといたずらしちゃうぞ!」」
「・・・・何だい?それは」
「友雅。菓子を神子によこせ」
泰明が冷静に言う。
「ちょっと泰明さん!盗賊じゃないんですから。友雅さん、お菓子を下さい」
言い方は丁寧だが、言ってることは同じだ。
「いまいち状況がつかめないんだが・・・」
友雅がめずらしく困ったような口調で言う。
「泰明さんと、私の世界のお祭りをやってるんです。このかぼちゃをあげますから、お菓子をくれませんか?」
「よく分からないが、神子殿の頼みは断れないな。ちょっと待っておいで」
あかねに菓子をやった後。
貰ったかぼちゃを眺めて、友雅は苦笑していた。
「私にこれをどうしろと?・・・・泰明殿があかねに付き合ってるのも可笑しいな」
「お菓子もらえてよかったですねー」
「そうだな」
あかねはにこにこしていた。
つられて泰明も微笑む。
すると背後から声がした。
「神子殿と泰明殿?」
「あ、鷹通さん!」
「こんな所で何をしておいでです?」
「友雅さんに会いにきたんです。あ、泰明さん。鷹通さんにもやりましょうよ」
「分かった」
「?」
「「お菓子をくれないといたずらしちゃうぞ!」」
「・・・・意味がわからないのですが」
「このかぼちゃをあげますから、代わりに私達に何かを下さい」
「わらしべごっこでもやっているのですか?」
「これは神子の世界の祭りだそうだ」
「そうなんです。鷹通さん何かくれませんか?」
あかねに頼まれて嫌とも言えず、鷹通は困った顔をした。
ちょっと待っていて下さいと言い残して、建物の中に消える。
戻ってきた時、手には可愛らしいかんざしを二つ持っていた。
「どうぞ」
「わー可愛い!こんないいもの貰っていいんですか?」
「はい。最初から神子殿に差し上げようと思っていましたし」
「ありがとうございます!はい、泰明さん」
あかねが一つを泰明に差し出す。
「何だ?」
「一つは泰明さんのです。二人の戦利品だし」
「私はいい」
「だめです」
またもや嫌がる泰明に無理やりかんざしをさすと、自分の髪にもつけた。
「じゃ、鷹通さんさよならーお仕事がんばってくださいね」
「え、ええ」
にこにこと手を振りながら、あかねは鷹通に別れを告げた。
呆然と二人を見送った鷹通に、友雅が声をかけた。
「鷹通」
「友雅殿・・・・」
「その顔じゃ、二人組みに会ったのかな?」
「はい・・・事態がよく飲み込めないのですが」
「ははは。君らしいね。しかし私も驚いたよ。君も菓子をねだられたのかい?」
「いえ、私は何でもいいと言われたので、かんざしを差し上げました」
「ほう、人を選んで変えているのかな?君はよくかんざしなんて持っていたねぇ」
友雅がそう言うと。鷹通は顔を赤くした。
「神子殿に差し上げようと思っていたので・・・しかし・・・」
「どうしたんだい?」
鷹通の頭に、かんざしをさした泰明の顔が浮かぶ。
「二つのうち一つを、神子殿は泰明殿に渡したのです」
「どういう意味だい?」
「二人の戦利品だから・・・と。神子殿は泰明殿の髪につけておられました」
そう聞くと。友雅は笑い出した。
「はははは。本当に神子殿は面白いねぇ。藤姫にもらった髪紐も、泰明殿と分けておられたよ」
「あの赤い紐ですか?」
「そうだよ。おそろいだと言っていた。これは私もうかうかしていられないな」
「友雅殿?」
「泰明殿はああ見えて結構やるな」
「・・・・そうですね」
屋敷に帰ると、外は夕闇だった。
縁側で、友雅に貰った菓子を食べる。
「おいしい〜」
あかねは幸せそうだ。
半分こにしようと言ったのだが、泰明は断った。
食べたかった者が食べろ、と。
「泰明さん」
「何だ?」
「はい。あーん」
いきなり口の前に菓子を持ってこられて、反射的に食べてしまう。
「おいしいでしょ?」
「・・・・そうだな」
「今日は楽しかったです。ありがとうございました」
「なぜ礼を言う?」
「だって、一緒にやってくれたから。無理やりやらせてごめんなさい」
「そんなことはない。貴重な体験だった」
「本当ですか?よかったー」
「・・・神子」
「はい?」
「かぼちゃを貸せ」
「え?あ、どうぞ」
かぼちゃを受け取ると。
泰明は小さく呪文を唱えた。
ボっという音がして、かぼちゃが明るく輝く。
「すごーい!」
あかねが歓声を上げた。
「らんたん、とやらはこんなものなのだろう?」
「そうです!綺麗ですねー」
「そうだな」
かぼちゃを下に置いて。
二人は静かにそれを眺めていた。
この日からしばらく、泰明の髪には赤い紐とかんざしが揺れていた。
はずすとあかねが怒るからなのだが、異様な光景に誰もが驚いていた。
八葉の面々は面白くなさそうにしていたが。
泰明への風当たりが強くなったのは、言うまでもない。