君はどうして、私の心をこんなにかき乱すのだ。
まったく・・どうしたものか。
気づくと、あの子のことばかり考えている。
クラスの問題児。大滝 蓮。
気になってしょうがない。
教師としてあるまじき感情。
私はこの想いをどうすればいいのだろうか。
恋というには淡く、生徒への気持ちとしては度がすぎている。
きちんと話したこともないのに・・・・
そうだ。あの子はほとんど私と話さない。
言葉を交わすのは、遅刻を咎める時だけ。
私が教室に入る直前、彼女が私を追い抜いていくのが日課になっていた。
寝坊する理由を聞こうと思うのだが、うまくはぐらかされてしまう。
深く聞くのを許さない雰囲気。
それは、どうやら私にだけではないようだった。
教師に対して、全員。 彼女は関わるのを拒む。
何か理由があるのだろうか?
「ふぅ・・」
ため息をつく。 考えてもしょうがない。
「ピアノでも弾くか・・・」
人気のない廊下を通って、音楽室に向かう。
気晴らししたい時、私はピアノを弾くことにしていた。
両親はピアニスト。だから私も自然に覚えた。
一通り、弾き終わった後。 なぜかジャズがやりたくなった。
いつもはクラシックばかりなのに。
あれにしよう・・・前奏を弾き始めた、その時。
カタンという音が聞こえた。
「誰だ?」
「あ、ごめんなさい。ピアノの音が聞こえたからつい・・・」
ドアの前に立っていたのは・・・・大滝だった。
「こんな時間まで何をしている?」
「え?教室で寝ちゃって・・・」
「風邪をひくだろう。気をつけなさい」
「はい・・・あの、先生はピアノ弾けるんですね」
大滝がめずらしく会話を続けてきたので驚いた。
いつもなら早々と終わらせてしまうのに。
「あ、ああ」
「さっきの曲、Fly me to the moonですよね?」
「そうだ。よく知っているな」
「私あの曲好きなんです。最後まで聴かせてもらえませんか?」
「・・・・・」
「だめですか?」
「・・・かまわない」
「やった!」
本当は断ろうと思った。生徒に自分の演奏を聴かせたことなどなかったから。
しかし大滝が見たこともない表情をしていたから・・・
私が弾き始めると、大滝は嬉しそうに聴いていた。
が、途中からピアノにあわせて歌い始めた。
綺麗で、せつなく、少し甘い声。 大滝はこんな声をしていたのか。
「in other words please be true. In other
words I・・・・」
最後の最後で。
彼女は歌うのをやめてしまった。
「どうした?」
「あ、いえ・・・」
顔を伏せてしまう。
最後の歌詞は・・・・思い浮かべて苦笑する。
「・・私には言えない、ということか?」
「え・・・?」
「・・恋人にしか歌わないのか?」
彼女は一瞬悲しそうな笑顔を浮かべ、またいつもの表情に戻った。
「私は・・・誰にも言わないし、言えないでしょう」
「・・・」
「わがままいってすいませんでした。先生のピアノ聴けてよかったです。失礼します」
「大滝!」
彼女はそのまま行ってしまった。引きとめさせない何かをもって。
なぜそんなに拒絶する? 過去に何があったんだ?
私はその壁を壊してみせる。
いつか。
きっと。
大滝が言わなかった最後の歌詞は。
「I love you」
私に聞かせてくれる日が、くるだろうか。
先生視点で書いてみました。なんか分けがわからなくてすいません(汗)
話に出てくる曲は、ジャズで有名な曲ですね。
某アニメのEDでも使われていたので知ってる方も多いんではないでしょうか。
最初聴いたのは小学生だったので、あまりよさが分からなかったのですが、年とともに味わいを深める曲だと思います。
なんか先生にあうかもと思い、書いてみたわけです。