ある日の夕方。
藤姫の屋敷の庭先で、あかねと泰明が並んで座っていた。
あかねは何を話すわけでもなく、足をぶらぶらさせている。
さっきから無言なのだが、用がないのなら帰る、と泰明が言うたびに「えー」と文句を言うので泰明も帰れないのであった。
あかねがやっと口を開く。
「・・・ねぇ泰明さん」
「何だ?」
「こうやって1日って終わってくんですね」
「今日が不満だったのか?」
「そういう意味じゃなくって・・・毎日変わらず朝が来て夜になって終わるんだなって」
「それが世の理だ」
「もー!どうしてそんな身も蓋もない言い方するんですか!」
あかねが拗ねて頬を膨らませた。
「なぜ怒る?」
泰明にはあかねが何を言いたいのかさっぱり分からない。
「別に怒ってはないです。ごめんなさい、わけがわからないですよね。時がたつのは早いなって言いたかったんです」
「なぜそう思う?」
泰明が訊ねると、あかねは庭を見やった。
「この前まで暑くて仕方なかったのに、今はもう秋の草が咲いてる。私は夏が好きだから名残惜しいんです」
「そうか」
「でも移り変わるから美しいのかもしれませんね。泰明さんはいつが好きですか?」
「特にない」
「本当にないんですか?」
「ああ」
「じゃあこの季節は過ごしやすいな〜とかは?」
「なぜそんなことを聞く?」
「さっきからなぜなぜばっかりー!私が聞いてるんです!」
「神子は怒ってばかりだな」
泰明がめずらしく微笑んだ。
「だって泰明さんが教えてくれないんだもの」
あかねはまた拗ねている。
「・・・・夏は暑い」
「・・?」
「好きなのには理由があるのか?」
「夏がくるとわくわくしてくるんです」
「わくわく?」
「嬉しくなってくることです。私の世界では、夏には長いお休みがあるんですよ。それに花火もあるしー」
「はなび?」
「うーん。何て言えばいいのかなぁ?火薬を空で爆発させるんですけど、花みたいなんです」
「よく分からないが、面白そうだな」
「すごく綺麗ですよ。でもそれがなくても、雰囲気が好きだな。元気な感じがして」
「神子の話を聞いていると、夏もよいものだと思えてくる」
「本当ですか?嬉しいな」
あかねが笑顔になる。
「・・・神子は不思議だな」
「え?あ、蛍だ!泰明さん蛍ですよ!」
いつのまにか空は濃い青になっており、蛍の光がついたり消えたりしていた。
「そうだな」
「蛍なんて何年ぶりかなぁ」
懐かしむように見つめている。
「もう夏も終わりだ」
「・・・・そうですね」
泰明がそっと腕を上げた。
あかねが不思議そうに見ていると、蛍がどんどんと集まってきた。
2人の回りが明るくなる。
「すごーい!すぐ傍に星空があるみたいです」
喜ぶあかねを見ながら、泰明はこんなことを考えていた。
蛍が消えて、夏が終わらないように。
せめてもう少しだけ。
この気持ちは何だと神子に聞いたら、また怒るだろうか?