春が来て4月になって。
また新しい1年が始まる。
ここで春を迎えるのは、今年で最後だ。
そわそわした新入生の華やかな雰囲気とは対照的に、私の気分は暗かった。
春は好きじゃない。
別ればかりあるから。
一体何人の人が去っていったのだろう。
いつも見送ることしかできなかった自分。
今年は誰が私の前から消えるのだろうか。
そう思いながら外を見やると、藤が見えた。
校庭の隅にある藤棚。
まるで葡萄のように沢山垂れ下がっている。
毎年、この音楽室からよく眺めた。
誰が世話しているのかわからないが、いつも美しく咲いていた。
藤の花なんて中学で初めて見たけれど、毎年見ているうちに好きになっていた。
紫色の少し高貴な感じがする花。
いつのまにか咲いていて、そしていつのまにか枯れてゆく。
この藤をずっと見続けてきたけど、藤も又私を見ていたんだろう。
この風景も、もう見ることはないのだと思うと。
胸が少し締め付けられた。
私はぼんやりと藤棚の下のベンチで座っていた。
校庭ではテニス部が練習をしていて、時折傍までボールを拾いにくる。
そのうちの一人が、じっと花を見上げていた。
好きなのだろうか?
ボールを拾いにくる度に、藤を見る男の子。
花を見た後、下にいる私を見て不思議そうな表情を浮かべた。
毎日藤棚の下に行く。
花を見るというより、あの男の子を見ることに目的が摩り替わっていたが。
きっとこれは藤からのプレゼントなんだろう。
今日こそ声をかけよう。
藤が枯れてしまう前に。
あの人とのつながりがなくなってしまう前に。
別れなんて、出会いで帳消しにしてしまえばいい。
それを教えてくれたこの花に、感謝しよう。
彼がボールを拾いに来る。
私は立ち上がった。
「藤が好きなんですか?」
