見慣れてしまった光景
今日も彼女は部屋を抜け出して庭にいる
そして私はそこに通う
彼女が消えてしまわないように
「そんなに月が恋しいのかい?かぐや姫」
彼女はぼんやりと空を眺めていたが、私の声にびっくりしたようだった。
「友雅さん!また屋敷を抜け出してきたんですか?」
「抜け出してるのは君だろう?神子殿」
「だって眠れないんだもん・・・」
頬を少し膨らませていつもの言い訳をする。
そんな仕草が可愛らしくて、思わず笑みがこぼれた。
「しかし、毎日毎日よく飽きないねぇ。本当に月からのお迎えを待っているのかい?」
そう聞きながら、隣に腰掛ける。
彼女は毎晩庭に出ては、空を眺めているのだった。
それも丑三つ時に。
「違いますよ。私はかぐや姫じゃないですってば。・・・同じように見えるのに、ここは私のいた世界じゃないんだなぁって」
「どういう意味だい?」
「同じ空、同じ月なのにここは京で、私のいた世界じゃない。不思議になりませんか?」
「うーん。私は君の世界は知らないからねぇ・・・・・帰りたい?」
私がそう聞くと。
彼女は困ったように微笑んだ。
「帰りたい気持ちが半分と、ここにいたい気持ちが半分。八葉のみんなと別れたくないし・・・」
「私と、とは言ってくれないんだね。まぁいいか。私は君が月に帰ってしまわなければ、それでいいよ」
「さっきからそればっかり。友雅さんは毎晩何しにここに来るんですか?誰かに会いに行く途中?」
「おやおや意地悪だね、君は。私は月光に輝く花を愛でにやってくるのだよ」
「花?」
「そしてその花が風邪をひかないようにね」
「え?」
びっくりしている彼女に上着をかけてやる。
「君との夜の逢瀬は楽しいが、もう少し上に何かを着なさい」
「あ、あの。友雅さんが寒いじゃないですか」
「私は大丈夫だよ。でも神子殿がそう言うなら、暖めてもらおうかな?」
「きゃっ!」
後ろから抱きしめると、彼女は赤くなって固まってしまった。
「ふふ。可愛いね。さぁもうそろそろ眠りなさい。また藤姫にねぼすけと言われてしまうよ」
「じゃ、は、離してください」
消え入りそうな声で彼女が言う。
「だめだよ。そう言って寝ないんだから。君が眠るまでこうしている。何もしないから安心してお眠り」
本当はもっと強く抱きしめたい。
でも、もうしばらくは我慢しようか。
「・・・友雅さんはあったかいですね」
「そうかい?毎晩添い寝してあげようか?」
「もう・・・」
2、3言交わした後。
静かな寝息が聞こえてきた。
安心しきった表情で、私の腕の中で眠る少女。
瞼にそっと口付ける。
「お迎えがきても、月へは帰さないよ。私のかぐや姫・・・・」