姫条は赤組の人間に連行されたが、一応放免ということになった。
彼がやっていない証拠もないが、やった証拠もなかったからである。
怪我をした当人は気を失っていて、病院に運ばれた。
目覚めるまで真犯人は分からない。
白組にもこの事件は知れ渡り、赤と白の仲は最悪になった。
「ぜってーヤラセだぜ!信じらんねー」
「マジでやっちまうか?」
そんな声まで聞こえる。
姫条は憂鬱そうなため息をついた。
次の日。
「昨日隣のクラスの黒須が、3組の姫条に怪我をさせられて・・・」
体育委員がそこまで言った時。
「・・・本気で言ってんの?」
後ろから蓮の冷たい声が響いた。
腕を組んで、前を見据えている。
「そっそれは・・・・」
びびった委員が、言いよどんだ。
大滝を怒らすと命にかかわる・・・
そんな暗黙の了解が1組にはあったが、もう後にはひけない。
「珪君も何とか言ってよ!」
「・・・・・・」
葉月は黙ったままだ。
「もう!まどりんはそんなことしないの!」
「でもあいつしか一緒にいなかったし・・・」
「勝手に足滑らせたんじゃないの?」
「敵の肩持つのかよ?」
口を挟んだ生徒を一瞥する。
「敵も味方もないでしょ。まどりんが犯人じゃなかったらどーする理由?」
「じゃああいつがやってたらどーすんだよ」
「私が殴る」
蓮の答えに、相手は一瞬あっけにとられた。
「・・・本気か?」
「もしやってなかったら、あんた坊主ね」
「ハァ!?」
「男ならそんくらいの落とし前つけなさいよ!」
「よ・・・よし、分かった。ぜってーあいつが犯人だって証拠見つけてやるぜ!」
引くに引けなくなった相手に、蓮は薄い笑みを浮かべた。
「望むところよ」
「あんな約束していいのー?」
奈津美が呆れた声で聞いた。
「だーいじょーぶだって。坊主になんの私じゃないし」
「よく考えたらさ、あの条件不公平だよね。あんた痛くも痒くもないじゃない・・・」
「あ、バレた?気づかない方が馬鹿なの」
「・・・・悪魔」
「そんなこと言ったって、なっちゃんだってまどりん信じてるんでしょ?」
「あ、あたしは・・・」
奈津美が顔を赤くした。
「すーぐ解決するよ」
能天気に蓮が言う。
「すごい自信ね」
「まどりんを信じてるもう一人が、なんとかしてくれるから」
「・・・?」
校舎裏の指定席で、葉月は猫に餌をあげていた。
「ニャー?」
ぼんやりとしている葉月の顔を猫が舐める。
「俺も・・・何か言ってやるべきだったのかな」
さっきの教室でのことだ。
あいつがやったんじゃないことは、分かってた。
でも、口に出せなかった。
「信じてる」と、たった一言言えばいいだけだったのに。
蓮のように。
俺がもし疑われたら、あいつはどうする?
そう考えて、葉月は小さく笑った。
猫を地面に降ろして立ち上がる。
答えはもう、出ていたのだ。
