雨の日恒例。
恐怖のゲーム大会がまたやってきた・・・・
「もう、やめようぜ・・・・」
「あの・・・私もできればやりたくないのですが・・」
天真が疲れた声で言い、永泉が控えめに同意した。
「えー何で?楽しいじゃない」
「楽しいのはお前だけだ。泰明もよく来る気になったなー」
「問題ない」
「この前の被害者の泰明さんがこう言ってるんだから、いいじゃない」
「加害者のお前が言うなよ」
「まぁまぁ、やる前から喧嘩しないで?それより二人足りないんだけど・・・」
詩紋が不思議そうに辺りを見回した。
確かに八葉が六人しかいない。
「あぁ。重鎮白虎だろ?今日は出仕だってさ」
「重鎮って、天真君・・・」
「あいつら逃げたんだぜ。罰が嫌だからさ」
イノリが不貞腐れたように呟く。
「おい頼久。さっきから黙ったまんまでどーしたんだよ?」
「頼久さん。気分でも悪いんですか?」
「い、いえ・・あの気分が悪いのは確かなんですが・・辞退することは・・」
「駄目です」
あかねがにっこりと、しかしきっぱりと却下した。
「鬼だな。お前は」
「今日は藤姫の似顔絵大会です!」
あかねは聞いちゃいない。
「似顔絵って、絵描くの?」
「うん。絵って言っても水墨画だけど」
「私は武士なので、絵は描いたことがないのですが・・」
「大丈夫ですよー。私も下手だしー。味があればいいんです!」
「味、ねぇ」
「似顔絵ってことは、これから藤姫んとこ行くのか?」
「ううん。自分の記憶だけで描いてもらいます。モデルはなし!」
「そ、それはちょっと難しいんじゃないかな?」
詩紋が苦笑した。
「見ないで描いた方が後々面白いじゃない。はい!みんな筆を持ってー!」
「もう何を言っても無駄なのですね・・・」
「一番下手な人が罰ゲームです!選ぶのは藤姫ちゃんです」
「藤姫も、とばっちりだよな」
「恐ろしいことになりそうだぜ」
イノリの額に一筋の汗が流れた。
「神子は面妖なことが好きだな」
「それだけで終わらせられる、お前が羨ましいぜ」
「ごちゃごちゃ言ってないで、はじめまーす!」
部屋に八葉の(六人だが)の溜息が溢れた。
「みんな描けましたー?」
「うーん」
「問題ない」
「・・・・・」
誰一人として自信がありそうな者はいない。
頼久に至っては、顔が青ざめていた。
「主にこんな・・・!」
「よ、頼久。そんなに気にしなくても大丈夫だって」
天真が気休めのように声をかけたが、効果はなかったようだ。
「じゃ見せに行きましょう。誰が描いたかは教えないことにします」
あかねは他人事のように言って、立ち上がった。
「藤姫ちゃ〜ん?ちょっといいー?」
「神子様?どうぞ」
「八葉のみんなもいるんだけど、いーい?」
「えっ・・・ど、どうぞ」
藤姫の頭に、今日は雨の日だという事実が浮かんだ。
そして前回のことが思い出された。
まさか、また神子様が何か・・・?
八葉もいると言っているし・・・
了承するべきではなかったかしら。
でも相手は神子様だし・・・
これらのことを一瞬のうちに頭に巡らせた。
しかし、どうぞと言ってしまった手前もう取り消せない。
そしてあかねはもう入ってきていた。
「あのねーみんなで藤姫の似顔絵描いたの!」
「まぁ私の絵でございますか?」
「うん。今から見せるから、一番下手なの教えて」
「普通上手いやつだろ」
イノリが突っ込む。
「そしたら罰ゲームにならないでしょ?お互いに見てないから、一緒に見よ?」
「藤姫・・・覚悟はできたか?」
「えっ・・・・?」
絵を見るだけなのに、何故覚悟が?と思ったが、それはすぐに理解することになった。
「じゃ、まず1枚目〜」
裏になっていたのを、ぴらっとひっくり返した。
「おー特徴捉えてるな」
全体的にデフォルメされているが、一目で藤姫とわかる。
アニメっぽい絵だ。
「まぁ可愛らしいですわね」
後ろで詩紋がほっとしているのを見ると、彼が描いたものらしい。
「本番はこれからだぜ・・・・」
天真の言葉通り、絵はめくるにつれて酷くなっていった。
線がぐにゃぐにゃしているのはまだいい方で、幼稚園児が描いたのかと思う絵もある。
藤姫が気を失いかけたところで、うまい具合に上手な絵が現れたりして、何とか最後まで見終わった。
意外に一番上手かったのは泰明だった。
写真のように精巧である。
普段冷静に相手を見ているからであろうか。
次に永泉。
線の細い、幻想的な風景画のようなタッチだった。
芸術面は玄武が強いらしい。
一応は作者は言わない形式になっていたが、絵を見た時の反応でバレバレだった。
「じゃ藤姫ちゃん。結果をお願いします」
「・・・・言ってよろしいのですか?」
「これも真剣勝負だから」
こんな真剣勝負嫌だ・・・!と八葉達は思った。
勿論口には出さない。
「では参ります・・・・敗者はこの絵です!」
藤姫が一枚を指差す。
みなの視線がそっちに動き、あーやっぱりなと全員が思った。
それは髪が長いだけの、他の生物だった。
いや、生物ですらなかったかもしれない。
伸びまくった長い髪は、昆布のようにうねっており、体は着物の構造が分からなかったのか、いったんもめん(鬼太郎参照)になっていた。
「じゃ、これ描いた人が罰ゲームです!」
あかねが言った途端、頼久が「あぁっ!!」と断末魔の叫びを残して倒れこんだ。
「ご愁傷様・・・・」
「頼久さん、可哀相」
「彼に御仏の加護がありますように・・・」
一斉に同情の目が集まる。
「藤姫様、申し訳ありません!武士の身分でこのような・・・・」
「いいのです。頼久。神子殿をお守りできるのなら、絵が悲劇的に下手なことくらいどうでもいいのです」
さらりと酷いことを言っている。
「藤姫も気にしてないし、元気だして下さい!罰ゲーム発表しますよ」
頼久が更に落ち込んだ。
「今回のはすごいですよ。友雅さんの前で悩ましげに倒れて、ナンパされる、です!勿論女装で!」
「あぁぁっ」
今度こそ頼久は息絶えた。
いや、息も絶え絶えだった。
「うわ、きっつー」
「俺ぜってー嫌だな」
「女装だけならまだしも、友雅さんにナンパなんて・・・」
「神子殿・・・そのような姿を晒したら、これ以上武士として生きていけません!」
「そーだぜあかね。少し軽くしてやれよ」
「武士に情けはありません」
「!」
あかねはまさしく鬼だった。
そして神だった。
神の前ではひれ伏すことしかできないのだ。
「用意できましたよー」
頼久の腕を掴んで奥の部屋に篭った後、あかねが部屋から出てきた。
「裾引きずってるぞ・・・・」
「だって頼久さんとじゃ足の長さが違うんだもん」
例によって例のごとく、あかねは頼久の服を着ていた。
刀も引きずっている。
「頼久も災難だな」
「そーだ。頼久さん、早く出てきてくださいよー」
「私は生きていけません・・・」
奥から頼久の声がする。
「こんなんで死んでたら鬼になんて勝てませんよー」
理不尽なことを言いつつ、あかねは頼久を引っ張りだした。
「・・・・・」
全員が押し黙る。
結んであった髪は垂らし、薄っすらと化粧もしてある。
服はあかねのではなく、女房衣装だった。
あかねのスカートでは短すぎて、パンチラどころではなかったからだ。
頼久は少し泣いていた。
「綺麗でしょー?」
「ひ、否定はしないけどな・・・」
「これだけ大きいと、女性ではないとバレてしまうのでは・・・?」
永泉がもっともらしいことを言う。
「バレたっていいんですよ。友雅さんにナンパされて屈辱を味わうのがメインなんですから」
「お前が龍神の神子だって、疑わしくなってきたぜ・・・」
「黒い気が溢れている」
「ひどーい!これは戦いなんだから。負けたものが辛酸を舐めるのは道理!」
「悪役のセリフだぞ」
「さーみんな行きますよー!」
あかねが勢いよく右手をあげた。
夕刻。
朝から降り続けていた雨は、いつの間にか止んでいた。
友雅は仕事を終え、帰る途中だった。
真面目な鷹通は、まだ仕事をしている。
「鷹通は熱心だねぇ・・・・おや?」
朱雀門の下で、女が一人倒れていた。
内裏に仕えている女房だろうか?
こんな刻限に一人とはおかしい。
友雅はつい声をかけた。
「こんな地面に座り込んでどうしたんだい?女性が一人でいるのは危ないよ」
「友雅様・・・お待ちしていました」
女が呟く。
女性にしては低い声だ。
友雅は訝りながらも、女を抱き起こした。
「随分大柄な女性だねぇ・・・。私に何か用かい?」
女は顔をあげない。
「友雅様・・・私は前々から貴方様を、お、お、お慕い申し上げていたのです」
女は搾り出すように言葉を紡いだ。
少し体が震えている。
恥ずかしがっているのだろうか?
「情熱的な人だね・・・しかし俯いていては顔が分からないよ。さぁ見せておくれ」
女の顎に手を添えて、顔をあげさせた。
そして、友雅は女が震えていた理由を知った。
「・・・・・」
女が目線を逸らす。
数分の沈黙の後、友雅が口を開いた。
「・・・屋敷に行こうか。姫君」
「えっ・・・?」
女が驚くのも構わず、友雅は肩を抱くようにして歩き出す。
あかね達は草むらで、それを呆然と見送った。
気づかなかったのだろうか?
否、化粧をしていると言っても頼久を知るものには一発で分かる。
分かっていて連れて行ったのか?
まさか、頼久のセリフ(あかねが考えた)を本気に取ったのか?
真相は頼久と友雅にしか分からない・・・・
性懲りもなく、女装ネタ第二弾(笑)
頼久さん・・・・ごめんね・・・