「黒塚を知っているかい?」
と友雅さんに唐突に聞かれた。
必死に思考を張り巡らすが、それらしきものは思い当たらない。
「黒・・・塚ですか?この辺にありましたっけ?」
「京の話ではないよ。安達ヶ原という所にあるんだ」
「へぇ・・・黒塚なんて少し怖い名前ですね」
「そうだね。ここにはね、鬼女の伝説があるんだよ」
「鬼!?」
つい叫んでしまう。
「ああ、鬼の一族ではないよ。元はどこにでもいる娘だったんだ」
「じゃあどうして鬼に?」
友雅さんは、ふっと笑った。
「女は山奥に住んでいた。そして迷い込んできた旅人を殺すのだ。何故だと思う?」
「えっ?鬼だから・・・?」
「ふふっそれじゃ答えになっていないよ。女は愛する男のために人間を殺すのだ」
「どうして・・?」
「女は体を必要としていた。なぜなら恋人には首しかなかったからだ」
思いも寄らない言葉に、息をのむ。
首だけなんて・・・
「でも・・・首だけじゃ生きてられないじゃないですか」
「普通の人間ならね。しかし女と男は死ねない体だったのだよ」
「首だけになっても?」
「そう。男にあう体を探して、女は人を殺したのだよ・・・」
「・・・・・・」
「そして女は鬼と呼ばれた・・・後に二人は追われることになるんだけれどね」
「それだけ・・・相手を愛していたんですね」
「そうだね。少し羨ましい気もするよ。そこまで人を愛せて、ね」
「愛してたのもあるだろうけど・・・女の人は寂しかったんじゃないですか?」
「・・・どうしてそう思うの?」
「もし男の人が死んでしまったら、自分は一人になっちゃうじゃないですか。一人で永遠に生き続けなきゃいけないんですよ」
気も遠くなるような長い時を、一人で過ごすなんて耐えられない。
「だから男を必死で助けたと?」
「そうです。友雅さんは永遠に生きたいですか?」
「おやおや、急に話が変わったね。人は限りがあるから生きていけるのだよ。永遠なんて退屈で死んでしまうだろうねぇ」
「それでも死ねないんですよ。きっと、女の人もこんな気持ちだったんじゃないかな」
私がそう言うと、友雅さんは驚いたような顔をした。
「・・・神子殿にはかなわないな。そんな風に考えるなんてね。普通は鬼は怖い、で終わってしまうのに」
「だって・・・きっと鬼になりたくてなったわけじゃないと思うから」
「・・・もし私が首だけになったらどうする・・・?」
「もう、友雅さんはどうしてそんな答えに困る質問ばっかするんですか?」
「ふふ、興味があるのだよ」
少し考えてから、口に出す。
「・・・・そのまま死ねる方法を考えます」
「・・・何故?」
「永遠の苦しみを終わらせてあげたいから」
「自分が一人になっても?」
「はい。・・・好きな人には苦しんでほしくないもの」
友雅さんが目を見開いた。
「おやおや、自分が何を言ったか分かっているのかい?」
「好きな人にはって・・・あ!」
いけない、つい言っちゃった・・・・
どうしよう!
友雅さんがニヤニヤと笑っている。
「今日は素直だね」
「い、今のは聞かなかったことにしてください!」
「ふふ、どうしようかな?」
「もう友雅さんなんて嫌い!!」
「はははっもう嫌われてしまったか。私はね、鬼はすぐ傍にいると言いたかったのだよ」
「傍?」
「鬼が棲んでいるのはここ・・・・」
言いながら胸に手を当てた。
「心・・・?」
「そう。人は誰でも、心に鬼を棲まわせているのだ・・・・」
友雅さんの表情からは、何を考えているのか読み取れなかった。
井上さんの誕生日記念に書いたのですが、おめでたい要素は皆無ですね(笑)
黒塚の話は本当にあって、能になっています。
私は夢枕獏が書いたものしか知らないので、能とは多分違うと思うんですけど。
最後の鬼の話は、おいおいするとして。
私は死ぬのが怖いです。
が、永遠には生きていたくありません。
すごくつらくて苦しいと思うんですよ。
大事な人が次々といなくなって。
あなたは、それでも永遠に生きたいと願いますか?
