「立ち止まらないで!」
警官が怒鳴っている。
「噂をすれば・・・ちゅーやつやな」
右側は結構深い川が流れており、そこで何かがあったようだった。
暫く見ていると、担架で人が運ばれてきた。
こんなにゆっくりということは、恐らくもう生きてはいないのだろう。
シートをかけられた体がちらっと見えた。 右腕がない。
「うえー見てもうた。ない部分は犯人が持ってんのか?」
「・・・だろうな。おい、もう行くぞ」
「あ、あぁ。見ててもしゃーないしな」
2人が歩き出そうとした時、傍に居た警官の悪態が聞こえた。
「くそっこんな堂々と!」
姫条が何か思いついたように、近づく。
「あのーちょっと聞いてもええですか?」
警官がはっとしたようにこちらを向いた。
「何だい?」
「殺された人は上流から流れてきたんですか?」
「・・・・見てたのか。いや、そんな遠くからじゃないよ。体がふやけていなかったしね。こんな明るいうちからやりやがって・・・」
男の声には怒りが混じっていた。
「ありがとうございました。早く犯人捕まえてください」
「あぁ。頑張るよ」
現場を離れると。葉月が口を開いた。
「・・・何であんなこと聞いた?」
「なんでやろな。わからん。勝手に口が動いてた」
「・・・・」
「なぁ、お得意の推理を聞かせてくれや」
「・・・18以上の男」
「は?何やそれ」
「・・・犯人像だ」
「何で18以上やねん」
「死体を捨てる場所はいつも違う。バラバラでもないから、自分じゃ運べない」
「・・・車か」
「そうだ。免許は18からだろ。それに女の被害者が多いことを考えると男だと思う」
「・・・お前すごいな」
姫条が感心したように葉月を見た。
「別に。・・・ただの予想だ」
「でもそれだけやなぁ。他にあらへん?」
「・・・顔がいいと思う」
想像しなかった言葉に、目を丸くする。
「顔ぉ?そりゃまたなんでや?」
「被害者は繁華街からいなくなってるにも関わらず、目撃者がいない。連れ去られたわけじゃないってことだ。相手に警戒されない程度には容姿がいいんだろ」
「じゃ殺されたやつらはナンパされたってことか?でも男もいたんやで?」
「中学生だろ?奢ってやるとか言ったんじゃないのか」
「まぁそうやな。でもいまいち決定的なことはわからへんな」
「・・・・おい」
「何や?」
「これは俺達がどうにかできる問題じゃない」
「・・・分かってる。俺かて首つっこんで死にとうないしな」
「ねぇお嬢さん。食事でも一緒にどうかな?」
声を掛けられた女は一瞬嫌そうな顔を向けたが、相手の顔を見ると気が変わったようだ。
「私ですか?」
「そう。つい声をかけてしまったけど、だめかな?」
「そんなことないです。行きましょう」
彼女は後悔するだろう。
最後の晩餐の招待を受けてしまったことを。
電気もつけていない薄暗い部屋で、蝋燭だけが輝いている。
「お願い・・・許して・・・」
先ほどの女が掠れた声で哀願していた。
男が場違いな笑みを浮かべる。
「だめだよ。・・・馬鹿な子だね」
手にはナイフが握られていた。
女は恐怖で麻痺した頭で、あれはメスだと気づいた。
涙が頬を伝う。
「やめて・・・・」
メスが皮膚を裂いた。
肉が切られ、血が吹き出す。
「いやぁっ!」
男はなおも切り続ける。
喉を。腕を。
痛みに気が遠くなる。
「気を失うにはまだ早いよ?」
頬を叩かれ、現実に引き戻された。
いっそ早く殺してほしい。
しかし彼女の願いは聞き届けらなかった。
男は急所をはずして、だんだん弱っていくのを楽しんでいるようだった。
「すぐに殺してしまってはつまらないからね。さぁ、もっと絶望しなさい」
悲鳴がだんだん小さくなり、ついには聞こえなくなった。
「おや?もう死んでしまったの?つまらないな」
血を失くして白くなった女を眺める。
「君は耳にしようか」
そうつぶやいて、男は女の耳を切り取った。
