割と大きな病院の前で、姫条と葉月は立ち止まった。
外来の時間ではない為、人通りは少ない。
「手術する科はどれや?」
「・・・結構あるだろ。外科、形成外科、皮膚科、眼科・・・」
「そんなあんのか?・・・・外科や!」
「何で」
「なんとなく」
「・・・・」
「嘘やって。皮膚科と眼科は部位が限られてるやろ?まぁ形成外科も怪しいが、外科医なら急所をはずしてネチネチ殺せるやろ?」
「まぁ・・・そうだな」
「よっしゃ行くで!」
「おい」
歩き出そうとした姫条を、葉月が呼び止めた。
「なんやねん」
「どうやって探すつもりだ」
「俺にまかせとけって」
姫条はニヤりと笑った。
「えーと、外科の病棟は・・・っと」
2人がキョロキョロと周りを見渡していると、傍を通りかかった看護婦が話し掛けてきた。
「お見舞いの方?」
「いや・・・」
葉月が喋ろうとしたのを遮って、姫条が答える。
「そうなんです。妹が入院してて。外科の病棟はどっちですか?」
「外科ならここをまっすぐ行ったところよ」
「ありがとうございます。あの、変なことを聞きますけど、外科で一番かっこいい先生ってどなたですか?」
「かっこいい先生?」
「いえ、妹がすごくイケメンの先生がいるって騒いでるんですよ。兄としては見とかなあかんと思って」
「あらそうなの。かっこいいって言ったら、やっぱり工藤先生かしら」
看護婦はそう言いながら、少し赤くなっている。
「そんなにええ男なんですか?」
「そうよー。優しいし、仕事はできるし。でも最近つきあいが悪いのよねー」
「つきあいが悪い?」
「そうなの。前はよく食事に行ったりしてたんだけど、最近すぐ帰っちゃうのよ。宿直も断ってるみたいだし」
それを聞いた姫条がこっそり葉月に目配せする。
「ビンゴや・・・」
「え?」
「いや、こっちの話です。その先生、今どこにいます?」
「ご自分の部屋にいらっしゃると思うけど?でも早くしないと帰っちゃうわよ」
「どうもありがとうございました」
看護婦に礼を言って、工藤の部屋を探し始める。
「・・・お前、よくあんなに話を作れるな」
「嘘も方便って言うやろ?まさかあんなにうまくいくとは思わへんかったけどな」
「そいつが犯人だと思うか?」
「多分な。早く帰ってるのは獲物を探すためやろ」
葉月がじっと姫条を見ている。
「なんや、気持ち悪いな」
「いや、賢く見えると思って・・・・」
「オイ・・・」
しばらく歩き回っていると、工藤というネームプレートのついた部屋を見つけた。
「どうする?」
「・・少し離れた場所から見張ろう。もうすぐ帰るって言ってたしな」
2人は5m程離れた場所にあるベンチに座った。
すると程なく部屋から男が出てきた。
30歳前後だろうか。裕福そうな印象がある。
「あいつやな。あの顔にみんな騙されたんか・・・」
看護婦が絶賛するだけあって、かっこよかった。
ナンパされたら、ついていってしまうだろう。
「・・・つけるぞ」
「わかっとる」
気づかれないように一定の距離を置いて、追いかける。
出口を出たところで、葉月がつぶやいた。
「・・・車だったらどうするんだ?」
「あ?・・・・・考えてへんかった・・・・」
「・・・・・」
「ま、まぁそうなったらタクシーででも追いかけたらええ!」
こちらの思いが伝わったのか、工藤は車では来ていなかった。
どんどんと歩いていく。
「向こうは・・・繁華街だ」
「これから狩りを始めようってか。そうはさせへんで!」
「・・・お前どうするつもりだ?」
「あいつが誰かをナンパしたら捕まえる!決まっとるやないか」
しかし葉月は姫条の考えを却下した。
「駄目だ。まだあいつが犯人かどうかも分からない。それにナンパしただけじゃ罪にはならない」
「じゃあどうすりゃいいんや!」
「家にでも連れ込んだ所を捕まえるしかないな・・・」
「失敗したら?」
「被害者は死ぬ」
「・・・ここでタクシーでも使われたら終わりやな」
しかし、運は2人に味方しているようだった。
工藤はオープンカフェで、タバコを吸いながらコーヒーを飲んでいる。
外にいるのは、通行人がよく見えるようにだろう。
30分程たったろうか。工藤が立ち上がった。
2人は緊張した面持ちで見つめていたが、工藤は誰にも声をかけなかった。
どうやら気に入った相手がいなかったらしい。
住宅街の方へ歩き出した。
「今日は諦めたらしいな・・・このまま家までつけるで」
「ああ」
しばらく歩いた後、工藤はかなり年季の入ったマンションへと消えた。
「えらいボロいマンションやなー。何でこんなとこに住んどんのや?」
エントランスからこっそりと覗くと、丁度エレベーターに乗るところだった。
「おい。行ってまうで?」
「・・・大丈夫だ。降りる階数見てろ」
工藤を乗せたエレベーターは7階で止まった。
「住んどんのは7階か・・・でも部屋番号がわからへんやんけ」
「・・・あっちを見ろ」
葉月が指差したのは郵便受け。 これの名前を見れば番号が分かる。
「お前冴えとるなー」
「・・・別に」
工藤の表札は3件ほどあったが、7階に住んでいるのは1人だけだった。
「降りる階数見といてよかったわ。で、どないする?このまま見張るか?」
「いや・・・今日はもう何もしないだろう」
「根拠は?」
「何回も同じ場所に行くと怪しまれるからな・・・遅い時刻でもいいなら、わざわざ早く帰らないだろ」
「それもそうやな。お前を信じて今日のとこは帰るか」
次の日。2人はまた工藤をつけて、繁華街にいた。
昨日とは違うカフェにいる。
「なんや埒があかんなぁ。万が一こいつじゃなかったらどないしよ。いっそ囮捜査でもするか・・・」
ため息をつきながらつぶやいた姫条に、後ろから声がかかった。
「それは無理だよ」
「なんでやねん・・・ってえ?」
つい返事をした後不思議に思って振り向くと、そこには蓮が立っていた。
「あれほど首つっこむなって言ったのにー。犯人見つけたの?」
「蓮ちゃん?!」
「蓮!」
姫条と葉月の声がハモる。
「何でこないなとこにおんねん」
「だって2人の様子が変なんだもん。一緒にいる時は何かある時だからね。で、犯人はあいつ?」
蓮は工藤を目で指した。
「よお分かったな。で、何で囮捜査はだめやねん。危ないから、じゃないんやろ?」
「まどりんも珪君も身長高いでしょ?それに男だし。万が一抵抗されたら困る。だからそーゆーのは狙わないんだよ」
「でも被害者の中には男もいたんやで?」
「中学生でしょ?力のなさそうな子を狙ったんだよ」
「そうかー。ならどないしたらええねんっ」
姫条が頭をかきむしると、蓮がさも当たり前のように言った。
「私がいるじゃん」
「は?」
「私が囮になるよ」
「駄目だ!」
葉月がすかさず止める。
「そ、そうや!んな危ないことさせられるわけないやろが!」
「でもこのままだと被害者が増えるかもしれない。私がどっかに連れ込まれた時点で助けてくれればいいからさ」
「そない言うたかて駄目やって。何されるかわからへんのやで?」
「私が大人しく何かされると思う?それに連れ込むまでは犯人も何もしないよ」
「でも・・・」
「危なくなったら合図するから!私を信じてよ」
「あいつは睡眠薬を使うんだぞ。眠ってしまったら、いくら蓮でも抵抗できない」
「使うの分かっててバカみたいにひっかかったりしないってば。薬が効いたフリしてるよ」
「他に方法はないんか?」
「これが一番手っ取り早いでしょ。違ったら違ったでそれでいい。2人だけにいいとこ持ってかせないわよ!」
何を言っても無駄だということを悟って、葉月は諦めた。
「・・・・分かった。お前を信じる。でも危ないと思ったらすぐ呼べ」
「分かってる。いい?あいつがどこかに連れ込んだら、助けにきてね。その前じゃ駄目だよ」
「で、でも向こうが蓮ちゃんを選ぶとは限らんやろ?」
「だーいじょーぶ。まかせといてよ」
蓮は自信ありげな笑みを見せると、工藤に向かって歩き始めた・・・・

