レジでコーヒーを買って、蓮は工藤の隣のテーブルに座った。

工藤が一瞬値踏みするような視線を向ける。

蓮は薄く笑って、コーヒーを飲んだ。

ここで話し掛けやすい雰囲気を作らなくてはならない。

特に何もするわけでもなく座っている女子高生に、工藤は興味を持ったようだった。

「お嬢さんは誰かと待ち合わせ?」

狙い通り工藤が話し掛けてくる。

「違います」

「一人でなんて寂しくないのかい?」

「あなたも一人じゃないですか」

「面白いお嬢さんだね」

蓮は的確に相手が興味を持つような返答を選ぶ。

「デートの待ち合わせですか?」

「残念ながら違うよ。良かったら話し相手になってくれないか?」

「いいですよ」

話し始めた蓮と工藤を見て、姫条は賞賛の眼差しを向けた。

「さすが蓮ちゃん・・・狙った獲物は逃がさへんな」

いつもは硬派な雰囲気を身にまとっているのだが、今は終始笑顔を浮かべている。

軽く見られない程度に距離を保っていた。

「つきあってもらうお礼にコーヒーを奢るよ」

「いいんですか?ありがとうございます」

「どういたしまして。ちょっと待ってて」

席を立った工藤を見送ってから、蓮は隠れている2人にVサインを送った。

ターゲットは蓮に確定だろう。

「・・・タクシーつかまえてくる。お前は見張ってろ」

背を向けようとする葉月を、姫条は慌てて呼び止めた。

「タクシー?もう行くんか?」

「・・・眠ってる相手をつれて歩きじゃ帰らないだろ。車相手に走ったって追いつけない。それに自宅以外に行ったとしても大丈夫なようにだ」

「おお!そうやった!後で慌てるとこやったわ。ほなよろしく頼む」


戻ってきた工藤を見て、蓮は小さく舌打ちした。

コーヒー以外にドーナツも持っている。

どちらかに睡眠薬が入っているのか、それとも両方か・・・

コーヒーは蓋付きのプラスチックコップなので飲んだふりが出来ても、ドーナツはそうはいかない。

瞬間的に頭を働かせる。

「お待たせ。飲み物だけじゃなんだから、これもどうぞ」

「ありがとうございます。でも私ダイエット中なんです。半分こにしませんか?」

蓮がそう言うと、工藤の顔色が一瞬変わった。

「十分痩せてるじゃないか。女の子は欲張りだね。でも僕は甘いものは苦手なんだ。残していいよ」

余裕を残しているところを見ると、コーヒーも薬入りか。

しょうがない。半分食べて吐けばいい。

少しくらいなら大丈夫だろう。2人がいるし。

「お仕事は何をしてるんですか?サラリーマンじゃないですよね?」

「おや、するどいね。僕は医者なんだ」

「それじゃモテるでしょう?かっこいいし」

「そんなことはないよ。忙しくて彼女を作る暇がないんだ。そう言う君をモテるだろう?」

「私なんて全然ですよー。女らしくないし」

「それはクラスメイトに見る目がないからだよ」

そろそろだろうと見当をつけて、蓮は眠くなったようなフリをし始める。

瞼を擦りながら、ちょっとトイレに行ってきますと席を立った。

工藤は楽しくて仕方ないような笑みを浮かべている。

「やっぱりあいつしか考えられへん・・・」

そこに葉月が帰ってきた。

「すぐ近くに待たせてある」

「こっちもそろそろやで・・・・」


大方吐いたものの、少し体内に吸収されてしまったようだ。

体がだるい。眠くはないが、いざという時力が出ないかもしれない。

しきりに瞼をこすり、トロンとした目をしている蓮を見て

「眠そうだね?家まで送っていってあげるよ」

「でも・・・」

「気にしないで。さぁ行こう」

蓮の肩を支えて、工藤が店から出た。

「店から出るで!」

「あぁ。行くぞ」


工藤は大通りに出ると、タクシーを呼び止めた。

怪しまれないように、運転手につぶやく。

「妹なんですよ。一緒にお茶を飲んでいたんですが、具合いが悪くなってしまって・・・」

「それは大変ですね。自宅でよろしいんですか?」

「はい。お願いします」

運転手は微塵も疑っていないようだ。

人はなんて騙されやすいんだろう。

この美しい少女を早く傷つけたい。


葉月と姫条もタクシーに乗った。

「あのタクシーをつけて下さい」


工藤はまっすぐ自宅へ帰った。

美しい獲物が手に入った喜びで、つけられていることに気づかなかった。

建物へ消えていく二人を見ながら、姫条が言う。

「あのやろー蓮ちゃんにべたべた触りやがって!」

「・・・いいか。ここからが本番だ。家の中は全部凶器だと思え。油断するなよ」

「わーっとる。じゃ魔王の城へ乗り込むで」


部屋の中に蓮を連れ込み、壁にもたれかかせた。

まずは手足を縛らないと・・・・

工藤が縄を探そうとした時、唐突にチャイムが鳴る。

「チッ誰だこんな時に!」

舌打ちをしながら、扉へ向かう。

「誰だ?」

「宅急便でーす」

工藤がドアを開けると、そこには姫条と葉月が立っていた。

「何だお前らは!何しに来た?」

姫条がニヤっと笑う。

「あんたを裁きにきたんや!」

「何だと!?」

殴りかかってきた姫条を何とか避け、部屋の中へ逃げこむ。

「あかん!蓮ちゃんが危ない!」

「どけ!」

葉月が姫条を押しのけて工藤を追う。

リビングまで走った時、横から工藤が襲い掛かってきた。

手にはメスが握られている。

とっさに避けたが避けきれず、頬にツーっと赤い線が伝った。

「ははっどうやらつけてきたようだが、高校生2人に何ができる?お前らも顔はいいからコレクションに加えてあげるよ」

「・・・断る」

「決めるのは私だ。お前らに選択肢はない」

「お前医者やろ?人を救うのが仕事やんけ!」

「そうだな。でも助けることに飽きてしまったんだよ」

「・・・飽きただと?」

「手術してる時に、ここで切り刻んだらどんなに気持ちいいだろうと考えるようになったんだ。患者を殺しちゃやばいからやめたけどね」

「それで関係ない人を殺したのか」

「バカだからいけないんだよ。こっちが優しくすればほいほいついてきて。簡単だった」

「・・・お前、最低だな」

「何とでも言えばいい。君たちは死ぬんだからな」

「こっちは2人や。勝てると思っとんのか?」

「そんな丸腰で何を言っている。それにこっちには人質もいるしな」

「蓮に触るな!」

「ほう?友人だったのかい?ならなお更傷つく所は見たくないだろう?」

工藤が蓮の頬にピタピタとメスの背を当てる。

と、その時蓮が目を開けた。

「いつまでも調子に乗ってんじゃないわよ!」

「何!?」

メスを叩き落とした・・・はずだったのだが、薬のせいで力が出ず、怯ませる程度になってしまった。

そこへすかさず、葉月が殴りかかる。

「ぐおっ」

っとうめいて工藤がメスを落とした。

落ちたメスを姫条の方に蹴り飛ばし、工藤の胸倉を掴む。

「・・・形勢逆転、だな」

「くそっ!」

なおも悪あがきする工藤のみぞおちに一発喰らわせると、あっけなく気を失って倒れた。

「・・・ゲームオーバーだ」

葉月は小さくつぶやくと、蓮の方に振り返った。

「大丈夫か?」

「・・・・珪君強いんだね」

「・・・お前程じゃないけどな」

「今回はちょっと焦ったけどねー」

微笑みあう2人を見て、姫条が叫んだ。

「なんや俺、ええとこなしやん!」

3人の笑い声が、部屋に響いた。


次の日は連続殺人犯逮捕の話題で持ちきりだった。

犯人が医者だったという事実は市民を愕然とさせた。

あの後3人は、連続殺人犯を見つけたと警察に電話をし、家に帰ったのだった。

自分達が捕まえたと言ったら、色々めんどうだろうし怒られると思ったからだ。

ニュースでは誰が通報したのかと話題になっていたが、それもそのうち忘れられるだろう。

「助けるだけに飽きた、とか言って信じられなくない?」

「恐くて病院行けないよぉ」

奈津美と珠美が事件の話をしている。

「でも捕まってよかったよねー」

「ちょっと、あんたは何でそんなのんきなの?医者が犯人だったんだよ?」

蓮は苦笑して答えた。

「いつだってね、誰かが人殺しになるんだよ。そこに人がいる限り」



いかがでしたでしょうか?
連載してると、何でこんなこと書いちゃったんだろ?と先に進んでから後悔します(笑)
内容もそうですけど、特にタイトル。毎度のことながら内容と関係のないタイトルですいません。
医者と殺人者って紙一重だと思いませんか?患者の命は医者が握ってるんだもん。生かすも殺すも相手次第だと考えるとちょっと恐いですね。
今回は少しヘビーだったので、次は軽くしようと思ってます。