「ねぇ友雅さん。流れ星に願い事したことあります?」

「ふふ、何だい?それは」

「やだなぁ。流れ星が消えるまでに、3回願い事を言うと、叶うんです」

「あかねはやったとがあるのかい?」

「やろうとしたことは何回もあるんですけど、いつも3回終わるまでに消えちゃうんです・・・」

「一瞬だから流れ星なのではないかい?」

「んもうっ意地悪!・・・あ!流れ星!」

夜空に銀の筆を滑らせたように、一筋の光が流れた。

「お願いしました?」

「したよ。この瞬間がずっと続くように・・・とね」



あかねは京に残ることを選んだ。

天真と詩紋に別れを告げ、京の住人になったのだ。

何故帰らなかったのかって?

それは勿論、愛する男の為・・・

「神子さま〜?どこにいらっしゃるのです?」

「ここだよー藤姫」

庭の植木の間から、あかねがひょいっと顔を出す。

「まぁ。そんなところにいらっしゃると、お着物が汚れますわ!」

「大丈夫だよ。早く植えてあげないとかわいそうだし」

「そのようなことは従者がやりますのに・・・」

「いいの!私が友雅さんに貰ったんだもん。早く大きくなるといいな」

橘の苗木を愛おしそうに眺めるあかねを見て、藤姫はクスっと笑った。

「神子様ったら・・」

風がまきおこり、藤の花びらが二人を撫でる・・・・

ここは土御門の屋敷。

あかねは引き続き、ここで世話になっていた。


「友雅さんにもらった橘の木!庭に植えさせてもらいました」

「自分で?」

「そうですよ。私が貰ったんだもん」

「ふふっ・・そんなに喜んでもらえるとは、差し上げた甲斐があるというものだよ」

友雅は目を細めた。

あかねにあげた橘は、友雅の庭に生えていたものだ。

藤姫の屋敷に藤棚が沢山あるように、友雅の屋敷には橘が何本もある。

昔は苗字にちなんだ植物を、愛でる習慣があったようだ。

何故いきなり貰ったのかといと、前に遊びに来た時に、あかねが躊躇いがちに友雅に頼んだのだった。

橘を見ていれば、友雅さんといつも一緒にいるような気がするから・・と。

可愛らしいことを言うあかねを、友雅はますます好きになったものだ。

そして今日は、大事なことを伝えようとしていた。

「あかね」

「はい?」

「私と結婚してくれまいか?」

「えっ・・・?」

いきなりのことに、あかねは言葉を失う。

いつもの冗談かと思ったが、友雅の瞳はあくまで真剣だ。

「・・・いやかな?」

「そんなことないです!すいません・・嬉しすぎて・・・」

あかねはぽろぽろと泣き出した。

「おやおや。泣かせるつもりなどなかったのだが」

あかねの涙をやさしくぬぐいながら、友雅が苦笑する。

「あ、あの・・私で本当にいいんですか?」

「他に誰がいるんだい?私が愛するのは君だけだよ。今までも、これからも・・・」

「友雅さん・・・」

更に泣き出すあかねを抱きしめて、瞳に口付けた。

「こちらでは3日間男が女の下へ通うと、結婚したことになるのを知っているかな?」

「はい。藤姫ちゃんに聞きました」

耳元で低く囁く。

「今宵、行ってもいいかい?」

「え!?あ、あの・・・」

女の下に通うということは、つまりそういうことだ。

もう恥ずかしいなんて言っていられない。

大好きな人が結婚しようと言ってくれているのだから。

でも、それでもやはり覚悟が・・・

「嘘だよ。君も心の準備があるだろうし。心が決まったら教えておくれ」

あかねはほっと胸をなでおろした。

「ありがとうございます・・・。でもあの、結婚するのが嫌んなんじゃないですよ!?友雅さんのことは大好きです!」

つい叫んでしまってから、しまったと口を抑えた。

「ふふっ嬉しいことを言ってくれる。泣いたり赤くなったり、忙しい子だね」

「やっぱり友雅さんは意地悪だ・・・」

あかねは小さく呟いた。


次の日。

藤姫にも挨拶しておこうと、友雅が屋敷を訪ねると。

屋敷の中はざわついていた。

そんなに私との結婚が心配なのかな・・?

苦笑交じりに藤姫にお目通りを願う。

少したって、藤姫は青い顔をして走ってきた。

「友雅殿!」

「どうしたんだい?私はそんなに不実な男に見えるかな?」

「違うのです!神子様の結婚は、私も大変嬉しいです」

「では何故こんなに屋敷がざわついている?」

「神子様が・・・・」

「あかねが?」

「昨日の夕方出かけたきり、戻られないのです」

こらえきれなくなったように、藤姫が泣き出した。

藤姫に報告する、と言ってあかねは昼頃帰っていった。

その後、どこかにでかけたらしい。

「落ち着きなさい。どこへ行ったんだ?一人かい?」

「いいえ。頼久と一緒です。何か神子さまの身に起こったのでは・・・」

「頼久が一緒なら、大丈夫だろう。まだ騒がないで、もう少し待とう」

「はい・・・それは分かっているのですが・・・」

頼久は強い。

盗賊などに襲われたとしても、彼なら負けないだろう。

しかし、嫌な予感はぬぐえなかった。

あかね。

どこへ行ったんだ・・・?



あかねは帰ってこなかった。

次の日も。

そのまた次の日も。


今回は三部作になっています。
始めに断っておきますが、悲恋になりますので嫌な方は読まないほうがいいです。
注意書きをするほど、救いがありません(汗)