あの時、手を離さなければ。
ううん。
私は怖かったの。
貴方の手を掴むことが。
アクラムの野望を阻止し、京に平和が訪れた。
龍神はあかねに感謝し、願いを叶えてくれると言った。
「私は・・・・元の世界に帰りたい」
「それでいいのか?」
「うん。天真君、詩紋君と。元の生活に戻るの」
「分かった。神子の願いを叶えよう・・・」
3人が京と別れる日、八葉と藤姫が見送りに来た。
藤姫は泣いている。
「藤姫ちゃん・・・泣かないで?最後なんだから笑った顔見せてよ」
「神子様・・・・」
あかねは藤姫を抱きしめた後、八葉に視線を向けた。
「みんな今までありがとう。大変なことも沢山あったけど、私楽しかったよ。みんな元気でね」
誰もが深い悲しみを顔に宿していた。
でも、あかねはそれを無視した。
「さようなら。みんな」
白い光が、全員を包んだ。
そして3人は消えていた。
「・・ちゃん、あかねちゃん!」
「へ?」
詩紋に顔を覗き込まれ、あかねがはっとして答える。
「どうしたの?ボーっとして」
「こいつがぼーっとしてるのはいつものことだろ?」
「天真君ひどい!」
反射的にそう答えて、ここが京ではないことに気づいた。
桜の咲く通学路。
あの日、京に迷い込む前。
「こっちじゃ時間たってなかったんだ・・・」
「ハァ?何言ってんだお前?」
「だって京は夏の終わりだったじゃない。私たち、本当に帰ってきたんだね!」
あかねが笑顔で言ったのとは裏腹に、二人は困惑の表情を浮かべた。
「寝ぼけてるの?今は学校に行く途中だよ。それに京って何?」
「・・・え?」
「夏はまだまだだぜ。まったく、いいかげん起きろよ」
「何で二人ともそんなこと言うの?一緒に京を救ったじゃない!アクラムを倒して帰ってきたんじゃない!」
あかねはまくしたてたが、二人は顔を見合わせて眉をしかめた。
「あかねちゃん、疲れてるんじゃない?今日はお休みしたら?」
「家まで送ってってやるよ」
二人が嘘をついているようには見えない。
ねぇ忘れちゃったの?
それとも・・・
「!?あかねちゃん!?」
「おいあかね!!」
あかねは青ざめ、意識を失った。
気づくと、自分の部屋のベッドで寝ていた。
懐かしい天井が見える。
「ハハッ・・・なんかバカみたい・・・」
涙が零れる。
全部私の妄想だったのだろうか?
ううん。私は覚えてる。
みんなと過ごしたあの日々を。
京を守ったことを。
あれは夢なんかじゃない。
でも、八葉だった天真と詩紋は覚えていない。
龍神が記憶を消した?
だったら何故私だけ覚えているの?
「私の記憶も消してくれれば良かったのに・・・・」
呟いて気づいた。
違う。忘れたくなんかない。
忘れるわけにはいかない。
でも何で?
あかねには分からなかった。
「あかね、最近元気なくない?」
「・・・そうかな?」
「考え事してること多いし。なにかあったの?」
「ううん・・・何もないよ」
確かに気分はすぐれなかった。
でも友人には言えない。
またおかしいと思われる。
八葉の二人にさえ、そう思われたのだから。
願い続けた現代へ戻ってきたはずなのに。
ちっとも嬉しくなかった。
買い物へ行っても、テレビを見ても。
ちっとも気分は晴れない。
次第にあかねは孤立するようになっていた。
「おい、あかね。何かあったのか?」
天真が苦虫を噛み潰したような顔で聞いてきた。
あれから一度もこの話題には触れなかったのに。
きっと彼なりに気を使っていたのだろう。
それも限界にきたらしい。
「そうだよあかねちゃん。悩み事があるなら言って?」
「ありがとう・・・でも何でもないの・・・」
「そんな顔してて何にもないわけないだろ!?」
「ちょ、ちょっと先輩・・・怒鳴るのはよくないよ」
あかねは目を伏せて言った。
「自分でも・・・分からないの」
その様子に、詩紋がしばらく考え込む。
「・・・ねぇ。もしかして誰か好きな人でもできた?」
「・・・え?」
詩紋のいきなりな質問に、あかねも戸惑う。
天真もわけがわからないような顔をした。
「お前、いきなりなんだよ」
「誰かに片思いしてるのかなって。だから他に手がつかないとか。あ、ごめんね!女の子にこんなこと聞いて・・・」
「ううん・・・大丈夫。それに違うよ」
違う?
本当に?
そうだ。
私がこんなに悩むのは、京に未練があるからだ。
彼と一緒に捨ててきたはずの、あの想いに。
「そうか・・・そうだったんだ」
「あかねちゃん?」
「ごめん、私先に帰るね!二人ともありがと!」
「お、おい!」
あかねは驚く二人を残して、走り出していた。
「やっぱそうだったんだ・・・。だからここに来たんだよね?」
帰ると言ったものの、あかねの足は違う方向に向いていた。
京に繋がるあの井戸に。
彼にもう一度会う為に。
「龍神さま・・・我侭言ってごめんなさい。でもやっと気づいたの。京に戻してください!」
龍神の声は聞こえない。
でも他に道はないのだ。
あかねは井戸のふたをどけると、中に身を躍らせた。
「いったた・・・・」
腰をぶつけたらしい。
立ち上がれないほど痛かった。
でも、死んではいないらしい。
じゃあここは・・・・?
怖くて周りが見れない。
ふいに人の気配がした。
「おやおや、女性がこんな所で座り込んでどうしたのかな?」
聞き覚えのある、低く、甘い声。
そして、私が京に置いていった声。
顔をあげる。
彼と目が合う。
唇が彼の名前を紡いだ。
「友雅さん・・・・」
しかし、驚くはずの彼の顔は、1ミリも動かなかった。
「誰かな?君は」
残酷な微笑みだった。
つづく
彩さまのリクで、「誰も選ばずに帰ったあかねちゃんが、やっぱり戻ってきて友雅さんとくっつく」でした。
つーか全然くっついてないじゃん!(笑)
すいません。前後編にさせていただきます。
そのまま帰ってきてくっついてもヒネりがないので。
暗い話ですいません(汗)
タイトルは「みをつくし」と読みます。
源氏物語からいただきました。
六条御息所が源氏への想いを昇華して死ぬ回ですね。
あかねちゃんは昇華したつもりで、できなかったわけですが。
よろしければ後編にもお付き合いくださいませ。