「おい、どこやねん!ここは」
「うっさいわね。わかんないわよ!」
とある森の中。
騒いでいるのは姫条と奈津美だ。
いるのは彼らだけではない。
少し後ろのほうにも影ふたつ。
やや疲れた顔をしているのが蓮、無表情なのが葉月だ。
「大声出すと余計疲れるよ・・・・」
蓮の忠告は2人の耳には届いていないようだ。
「開きなおんなやアホー!」
「あんたが適当に進むからいけないんでしょー?!」
蓮と葉月は顔を見合わせて、ハァ〜とため息をついた。
来るんじゃなかった、と思いながら。
「箱根に行こう!」
奈津美が突然言い出したのが3日前。
おじさんが旅館を経営していて、今の時期は暇だからおいでと言われたらしい。
このメンバーで出かけるとロクなことないからなーと一瞬蓮は思ったが、温泉に負けた。
そんな毎回事件は起こらないだろうと思ったのだが・・・
「霧まで出てきたよ〜。これじゃ前見えないじゃん」
「雨・・・降りそうだ」
「迷うような森じゃないと思うんだけどなぁ」
そう。4人は迷子になったのだ。
滝を見にいこう!と奈津美が言い出して、旅館近くの森に入ったのが昼頃。
時刻はもう夕方。
かれこれ4時間はここをさまよっている。
誰かがいれば道を尋ねることもできるのだが、今まで一回も他人に出くわさなかった。
観光地なのにおかしい。
「ここさっきも通らんかったか?」
姫条の質問に葉月がめんどくさそうに答えた。
「通った・・・しかも何回も」
「そーゆーことはさっさと言いなさいよ!」
奈津美が怒る。
普段なら葉月相手に怒鳴ったりしないのだが、よっぽどイライラしているのだろう。
「そんなに広くない森なのに、どこへも出ないなんておかしくない?」
「おかしいゆうてもなぁ。俺ら狐に化かされてんのか?」
「そうだったらどうしようもないね」
「ちょっと蓮!全然解決になってないじゃない!」
「じゃなっちゃん狐に勝てる?」
「か、勝てないけど・・・ってそんなことあるわけないでしょ!どっか変な方に来ちゃったのよ」
「・・・やたらに動かないほうがいい。霧も出てきた」
葉月の言うとおり、辺りは真っ白になっていた。
4人の姿がようやく見えるくらいの濃い霧。
「どうすればいいのよ・・・携帯も通じないし」
奈津美の声も弱弱しくなる。
すると突然姫条が叫んだ。
「誰かー!!誰かおらへんのー?」
耳をすませてみるが、鳥の声一つ聞こえない。
「暗くなる前になんとかしなきゃ」
「なんとかって何かアイデアでもあるんか?」
「ないよ。でももう少し歩いてみようよ」
「でも霧でなんも見えへんで?」
姫条がそう言うと、蓮はバックをごそごそと探り出した。
「確か持ってるはず・・・あ、あった!」
蓮が取り出したのは小さな懐中電灯。
頼りないが、ないよりはマシだろう。
「おー!さすが蓮ちゃん。用意がええなあ」
「暗くなると困ると思ったからさ。じゃ、行こう」
しばらく歩いて葉月の予想通り雨まで降ってきた。
みなに絶望の雰囲気が漂い始めた時、前方に何かが見えた。
「あれ家ちゃう!?」
「行ってみよう!」
家だと思ったものは、大きな屋敷だった。
かなり古そうだが人が住んでいるのだろうか?
「ラッキー!雨宿りさせてもらおうよ」
奈津美と姫条は喜んでドアに向かっていったが、蓮はどこか引っかかるものを感じていた。
今まで何も見つからなかったのに、急に現れたこの屋敷。
「・・・どうした?」
考え込んでいる蓮に、葉月が訊ねる。
「・・・何でもない。行こうか」
この時蓮は気づかなかった。
嫌な予感は当たるものだ、ということに。
「すいませーん!誰かいませんかー?」
ドアを叩きながら奈津美が呼びかける。
しかし返事はない。
「本当にいないのかな?」
そう言ってノブを回すと、扉はギイと音をたてて開いた。
「助かったー!」
とりあえず中に入る。
不法侵入だが、この際しょうがないだろう。
屋敷の中は薄暗かった。
電気はなく、所々に蝋燭が燃えているのみ。
火がついているということは、誰かいるのだろう
「すいませーん!」
奈津美がもう一度呼びかけると、2階から声がした。
「誰?」
「勝手に入ってすいません。道に迷ってしまったんですが、少し雨宿りをさせてもらえませんか?」
「久しぶりのお客さんだね」
そう言いながら階段を降りてきたのは、小学生くらいの男の子だった。
「お父さんか、お母さんいる?」
「いないよ。僕一人で住んでるの。こっちの部屋においでよ」
こんな森の中に子供が一人?
4人が動かないのを見て
「座ってお話しようよ。ね?」
子供が姫条の手をひっぱって連れていく。
「お、おおきに。な、行こう」
子供が連れてきたのは応接間のようだった。
立派なテーブルと椅子があり、壁には絵が飾ってある。
「今日はここに泊めてあげる。その変わり僕とゲームしよう」
「おうええで。何しようか?」
「鬼ごっこ」
「鬼ごっこ?ここで?」
「僕が鬼やるからお兄ちゃん達は逃げて」
「でも人の家だし・・・」
「どこに入って何をしてもいいよ。ね、いいでしょ?」
「分かった。つきおうてやるわ」
子供の顔がニヤーと歪む。
「じゃルールを説明するね」
「ルールなんてしっとるで?逃げるだけやろ?」
「僕のは特別ルールなんだ。僕に捕まらずに、屋敷から出られたらお兄ちゃんたちの勝ち。捕まったら負け」
その時葉月は気づいた。
子供の雰囲気がおかしいことに。
「屋敷から出られたら・・・?」
蓮が問い返す。
「そう。どうにかしてここから逃げて。でないと殺しちゃうよ」
さも楽しそうに言う。
「な、何を冗談言ってんねん。そんな物騒なこと言ったらあかんで?」
「本当だよ。信じられない?」
子供が腕を一振りすると、部屋にあった椅子が持ち上がった。
「何・・・これ」
奈津美の声がかすれている。
パチンと指を鳴らすと同時に、椅子は壁にぶつかって粉々に砕けた。
「ちゃんと逃げないとお兄ちゃんたちもこんな風になっちゃうよ?」
「こんなことやってられん!俺らは帰るで!」
「ダメ。お兄ちゃん達に選ぶ権利はないんだよ。この場で殺す事だってできるんだから」
「・・・あんたの目的は何?」
「ずっと一人で退屈してたんだけど、お客さんが来て嬉しいよ。このゲームで賭けるのは命。早く殺したいなぁ」
「狂っとる・・・・」
子供が嬉しそうに告げる。
「さぁゲームの始まりだよ」
