俺が教科書を鞄に詰めていると。
急に久留米に声をかけられた。
「真壁君。一緒に帰らない?」
その突然の申し出に、俺は慌てた。
「えっ?い、いいけどさ・・・」
「ほんと?よかったぁ」
屈託なく笑う。
こんな美少女と帰れるなんてラッキーかも。
二人で道を歩く。
俺はさっきから感じていた疑問を、聞くことにした。
「どうして俺を誘ったんだ?」
「朝ね、真壁君の姿を見かけたの。うちとすごい近いんだよ。それに教科書のお礼とかも言いたかったし・・・」
「そんなの気にすんなよ。しょうがないことだろ」
「ありがと。あ、話変わるけど、ゲームするの好き?」
似合わない質問に戸惑った。
マサトにでも聞いたのだろうか?
「ああ・・・好きだよ。でも何で?」
「私も大好きなの。何かオススメがあったら教えてもらおうと思って」
「そうか。最近は新作が出てないから、あんまやってないんだけどな。でも久留米がゲームなんて意外」
「そう?前の学校じゃゲーマーで有名だったのよ。私ね、主人公に感情移入しすぎちゃって、自分がゲームの中にいるような気によくなるんだ」
「あー俺もあるぜ。なりきっちゃってさぁ」
俺の答えを聞いて、彼女は薄く笑みを浮かべた。
ように見えた。
「怪我してるのは自分じゃないのに、痛いって思ったりとかね・・・」
「これからどーすりゃいいんだ?森しかねーし・・・・」
ぼやきながら、またゲームを始める。
昨日拾った剣を、右手にぶらさげていた。
鞘を水の中に落としてしまったので、こうするしかなかったのだ。
ふと思う。
どうして俺はこのゲームを続けているのだろう。
こんな胡散臭いもの、途中で投げ出せばよかったのに。
やめられない何かがあるのか?
確かにこのゲームは手が込んでる。
やけにリアルだ。
森の木も、どれも同じように見えて、一つとして同じ物はない。
むせ返るような森のにおい。
・・・・におい?
ふいにざあっと木々が鳴き声をあげ、俺は思わず目をつぶった。
そして目を開くと、前方に黒い鎧が立っていた。
「オマエガオウジカ?」
機械的な声が聞いてくる。
変声期とかじゃなく、ロボットのような声。
こーゆー喋る鎧ってリビングメイルって言うんだっけ?
「・・・そーゆーことになってる」
自分でも驚くほど、落ち着いた声だった。
もう何を見ても驚かなくなってる。
「イママデノニンゲンハ、モットトリミダシタ」
「俺の他にも王子がいるのか!?」
「マエニキタオウジハ、ワタシヲミテニゲダシタ」
どうやら俺の他にも王子とよばれるプレイヤーはいるらしい。
でも逃げてそれからどうなったんだ?
「お前はこの世界の奴か?」
「ソウダ」
「味方・・・じゃなさそうだな」
「ワタシノアルジハマジョダ」
「・・・それで?」
「ココハトオセナイ」
「できれば戦いたくねーんだけど」
「ヒキカエセバミノガス」
俺は一瞬考えた。
「ここを通さないってことは、この先にいるんだろ?」
「・・・・」
鎧は答えない。
「俺は先に進む。それが答えだ」
「・・・ソウカ」
「姫様なんてどーでもいいんだけどよ。逃げんのはかっこわりいだろ?」
「ヤムヲエヌ」
鎧は腰にさしていた剣を抜き放った。
俺も目の前に構える。
結構サマになってんじゃん?
正直言って自信はなかった。
剣なんか、木刀ですら握ったことないのに。
「イクゾ!」
鎧が声と共に切りかかってきた。
俺はかろうじて剣で受け止める。
キンっという刃物がぶつかる音。
すごい力だ。
鎧はなおも打ち込んでくる。
俺は防御するので精一杯だった。
「ドウシタ?モウアキラメタノカ?」
「まさか。これからさ」
そうは言ったものの、内心焦っていた。
普通に戦ったら、俺に勝ち目はない。
何か、あいつの裏をかくようなことを・・・・
俺の焦りを読み取ったのか、鎧は急に太刀筋を変えた。
上から振り下ろすものから、下からすくい上げるような動作に変わる。
剣で受け止めきれずに、腕に刃が走った。
「くそっ」
周りに視線を走らせる。
相変わらず木しかない。
・・・・そうだ!
俺はどうにかして鎧を振り払うと、できるだけ距離を取った。
疲れたフリをして、しゃがみこむ。
「オマエハヨクガンバッタ」
「お褒めにあずかって・・・光栄だね」
「ラクニシテヤル」
鎧がゆっくりと近づいてくる。
もう少し・・・・もう少しだ。
奴の間合いに入る寸前で、俺は立ち上がって手にもっていたものを投げつけた。
「ナニッ!?」
鎧がひるむ。
そこを狙って、俺は突っ込んで行った。
「俺は諦めが悪いんだよっ!!」
剣は、鎧の頭を真っ二つにした。
投げたのは、転がっていた太い木の枝だ。
しゃがんだ時に後ろ手で拾ったのだ。
少しずるいような気もするが、試合じゃないんだから何でもアリだろ?
鎧は頭が半分の状態で、俺に何かを差し出した。
「コレヲ・・・ヤル」
「砂時計?」
「コレデワタシモジユウダ・・・」
「お、おい。これ何に使うんだよ?」
俺の言葉と同時に、奴は掻き消えた。
「ま、そのうち分かるよな。何か今日の俺かっこいい?」
そこで一時間を告げるアラームが鳴り、画面がゆっくりと暗くなった。
パソコンの電源を切って、伸びをしようとした時。
「痛っ・・・・?」
何気に目をやって。
あり得ないものを見た。
背中を悪寒が走りぬける。
この気分は・・・そう。戦慄だ。
腕から血が流れていた。
丁度ゲームで切られた場所に。

