俺は怖かった。
どこまでが虚構で、どこからが現実なのか。
久留米は何故あのタイミングであんな事を言ったのか?
まさか知っていた?
「・・・い、おい」
気づくと目の前にマサトがいた。
そうだ、ここは学校だった。
「顔が青いぞ?どうした?」
「何でもないよ・・・」
「最近お前おかしいぞ。何か悩んでんのか?」
「・・・違うよ。心配かけてごめんな」
「やばくなる前に言えよ」
「サンキュ」
言えるわけない。
ゲームが怖いなんて。
俺が際限なく暗くなろうとしていた時、久留米がやって来た。
そうだ。
聞かなくては。
「なぁ久留米」
「なあに?」
「あのさ・・・急にメールで招待状がくるようなネットゲーム・・・知ってるか」
遠まわしにかまをかける。
しかし予想に反して、久留米は屈託なく笑った。
「何それ?私TVゲームしかやらないから、知らないよ」
「そうか・・・」
「それってホラーゲームなの?」
「何で?」
「顔が蒼ざめてるから」
「・・・・!」
つい自分の体を抱くような格好をしてしまった。
「嘘よ」
淡々と言って、久留米は微笑んだ。
夜になって、気づくとパソコンの前に座っていた。
いつの間にかゲームが始まっている。
もうここからは逃げられないのか?
終わるまでつきあうしかないのか?
もう見慣れた緑。
一体どこに城はあるのだろう。
とぼとぼと歩いていると、足に何かが当たった。
「・・・?」
下を向くと、派手な格好をした子供がいる。
ピエロの衣装だろうか?
「王子様こんにちは」
「お前誰だ?」
「ピエロだよ」
「そりゃ見りゃ分かるけど・・・」
「お城はもうすぐだよ」
「どこにあるんだ!?」
「すぐ分かるよ。でもね、ある物がないと中に入れないの」
「ある物?」
「バラの花だよ。どっかに咲いてるからとってきて」
「何に使うんだ?」
「お姫様はバラが好きなんだよ。だからバラを持ってないと中に入れないの」
「入れないって・・・鍵でもかかってんのか?」
「それは行ってからのお楽しみ。さぁ早く花を見つけてよ」
「どこにあるんだよ?」
「その辺。探して♪探して♪」
言いながら、ピョコピョコと跳ね回った。
これ以上聞くのは無理らしい。
俺は歩き出したが、周りは緑ばかりで花なんてどこにもない。
「何で花がないと入れないんだよ・・・第一眠ってんだろ?」
ぶつぶつ言いながら、先へ進む。
小さい頃読んだ眠り姫はどんな話だったっけ?
少なくとも王子が主人公じゃなかったよな・・・・。
姫は魔女に呪いをかけられて、眠ってしまう。
王子様のキスで姫は目覚める・・・・
げーキスしなきゃなんねーのかよ。
そういえばお城の住人は100年間眠り続けたんだっけ?
よく覚えてないけど。
がさがさと葉っぱをかきわけていくと、赤と白い何かが見えた。
「お、あれか?」
ひっそりと隠れるように花が咲いている。
バラだ。
しかし花は二つ。
赤いバラと白いバラ。
どっちだ?
両方取ってっていいのかな・・・?
俺が花に手をかけた時、後ろからいきなり声がした。
「待って」
「わぁっ?!」
さっきのピエロだ。
びっくりして思わず叫んでしまった。
「どっちか選んで。二つは駄目だよ」
「どっちかってどっちを?」
「好きなやつを。言っとくけど、片方ははずれだよ」
「はずれたらどうなるんだ?」
「そこでおしまい」
「ゲームが終わるってことか?」
「そうだよ」
はずれを引けば、このゲームから手を引ける。
おあつらえむきじゃないか。
俺は早くこの気味悪いゲームやめたいんだから。
「さぁ選んで」
俺は生唾を飲んだ。
どっちにするべきか?
王道だと赤だよな。
でもこの姫さんはひねくれてそうだから、白か?
それとも裏をかいて赤?
あーもうめんどい!!
目をつぶって、一つを選ぶ。
俺が掴んだのはー
白。
一気に引っ張ると、花が砂のように崩れ落ちた。
「ざーんねーん。はずれちゃったね」
さほど残念そうではない口調で、ピエロが言う。
「そっか・・・」
俺は安堵していた。
やっと終われる・・・
「ねぇ、時間を戻しなよ」
唐突な言葉に、目を見開く。
「戻す?」
「その砂時計で・・・」
いつの間にか手に砂時計を持っていた。
昨日、鎧に貰ったやつだ。
「でも俺は・・・・」
言いかけた俺の言葉を遮る。
「早くひっくり返して・・・・」
ピエロの言葉が、暗示のように俺の耳に聞こえた。
もう終わりたいのに。
やり直したくなんかないのに。
俺は砂時計をひっくり返していた。
逆回しのように、景色が歪んでいく。
また元通りになったとき、目の前にはさっきと同じようにバラがあった。
花は散っていない。
「さぁ選んで」
同じセリフ。
白を引けば、またはずれ。
ゲームは今度こそ終わるだろう。
それなのに。
俺の手は、誘われるように赤いバラを掴んでいた・・・・
いきなり強風が吹いて、俺は目をつぶった。
目を開くと、そこにはピエロの姿もバラの花もなかった。
その代わりに、茨に閉ざされた大きな城。
「逃がしてはくんないみたいだな・・・・」
後はここに入るだけ。
