赤いくつという名の白いトウシューズは、私の足に誂えたようにぴったりだった。

普通おろしたてのシューズは痛いものなんだけど、これは何年も履きこんだように馴染んでいる。

何より足が軽いの。

全てが決まっているかのように、流れるようにポーズが決まる。

「調子がいいみたいね」

先生も褒めてくれた。

「このくつ、とっても踊りやすいんです」

「あら、新品?それにしては馴染んでるわね」

「そうなんです。不思議でしょう?」

このくつにしてから、踊るのが楽しくてしょうがない。

勿論前から好きだったけど、周りが心配するくらい踊り続けている。

狂ったように、という形容がぴったりなほど。


ある日、練習が終わって帰る支度をしていると、教室の外に男の人が立っていた。

切れ長で涼しげな目元。

ダークブルーのスーツ。

とてもかっこよかったけれどバレエ教室には不似合いだった。

誰かの彼氏かな?

少しドキドキしながら横を通り過ぎようとした時。

急に腕を掴まれた。

「お嬢さん。ちょっといいかな?」

「わ、私ですか?」

私が驚いているとスーツの人は、はにかみながら謝った。

「いきなり腕を掴んでごめん。君に用があったんだ」

「あ、あの。どちら様でしょうか?」

「僕は君のファンだよ」

予想もしない言葉に赤くなる。

「ファンなんて・・・」

ここはただの教室で。

私は天才とは程遠くて。

「何日か前に君が踊っているところを見てね。まるで妖精のようだったよ」

「そんな・・・褒めすぎですよ」

「そんなことないよ。一目で僕は君のファンになった」

彼はどこからか、一輪の薔薇を取り出した。

「君には赤がよく似合う」

「え?」

「君が舞台にあがる日を、心待ちにしているよ」

そう言って、彼は立ち去ってしまった。

私はぼうっとしたまま、しばらく動けなかった。

取り残されていたらしい薔薇の刺で、手から血が流れているのにも気付かずに。