笑顔でごまかさないで

「水族館・・・行かないか?」

夏休みのある日。 めずらしく珪君から誘われた。

断る理由なんてどこにもない。

「行きたい!でも何で急に?」

「仕事で・・・チケットもらったから」

「そっか。いいねー。色んなもの貰えて」

「そうか?でもお前と遊びに行けるから・・・いいかもな」

そう言って微笑む。

私もつられて笑顔になった。

仕事でさえ笑わない彼が。

私にだけ微笑んでくれるのは、やっぱり嬉しい。



久しぶりの水族館。休みだというのに、私たちの他にはほとんど人がいない。

「すいてるね。涼しくなれていいと思うんだけどなぁ」

「静かな方がいい・・・ゆっくりみれるから」

「そうだね。水族館なんていつぶりだろ?中学で行ったきりかな?」

「俺も。・・・ちょっと楽しみにしてた」

薄暗い館内は、淡いブルー一色だ。幻想的な雰囲気の中で、魚達が泳ぎまわる。

「綺麗だね」

「・・・ああ」

「飼ってたメダカ思い出したよ」

「・・・メダカ?」

「うん。グッピーも一緒にいたんだけど、私はメダカが好きだったの。稚魚から大きくしたんだよ」

「そうか」

「川にいた方が幸せだったのかな?」

「・・・川?買ってきたんじゃないのか?」

「うん。川ですくったの」

「へぇ・・・いつ?」

「中学の時かな?何で?」

「・・・・・お前。いや、何でもない」

「何ー?ちゃんと言ってよ。気になるじゃん。あ、分かった。子供っぽいって言おうとしたんでしょー?!」

「そんなことない」

「嘘ばっかり。顔が笑ってるもん」

「ホラ・・・次行こう」

「あ、話そらした」

こんな会話でさえ。 私は愛しく思う。

最初の頃に比べたら、格段に喋ってくれるようになった。

・・・相変わらず私のが喋る回数多いけど。



半分くらい見終わった時。珪君は「飲み物買ってくる。そこにいろよ」といって行ってしまった。

ただ立ってるのもつまらないので、辺りを見渡す。

「あ、ペンギン・・・」

昔、好きだったな。

水槽の前でペンギンたちをじっと見ていると。一匹がこっちに顔を向けた。

目があう。

「?」

その子は水に飛び込むと、潜って私の前まで来た。

「どうしたの? 苦しくない?」

「・・・お前ペンギンと話せるのか?」

背後から急に声が聞こえて。

「わっ!珪君か。びっくりしたぁ」

「俺もびっくりした。お前がペンギンと向かい合ってるから・・・ホラ、これ」

ジュースの缶を渡してくれる。

「ありがとう」

「・・・こいつ何て言ってたんだ?」

「え?」

「この狭い水槽が、世界の全てで。見世物にされて、逃げたくならないのか?」

「・・・うーん」

「・・・なんて、見に来てる俺らが言えることじゃないか」

「・・・でもこの子達は満足してるかもしれないよ?ごはんをもらえて。敵もいなくて」

「・・・自由じゃない」

「野生の動物はさ、広い世界で自分の好きなように生きられるけど、いつも命の危険があるでしょ?

どっちも何かを犠牲にしてるんだよ。この子達は自由を。彼らは安全を」

「・・・・・」

「どっちが幸せかなんて、私たちにはわからない。本人が幸せだと思ってるならどっちでもいいと思うな」

「・・・お前、よく考えてるな」

「なーんちゃって。思いついたこと喋っただけだよ。偉そうなこと言ってごめん」

「いや・・・お前の言うとおりかもしれない。・・・どっちがいい?」

「何が?」

「安全か、自由か」

「私は自由なのがいい。ちょっとくらい危険でも、好きにやりたい」

「そう言うと思った」

「珪君は?」

「俺は・・・お前のそばにいて、危険から守ってやる」

「・・・・・」

「・・・お前すぐ問題起こすしな」

「何ソレ」

「次・・・行こう」

いい感じかなって思ったのに、結局はぐらかされてしまった。

ため息をついて、歩き出そうとした時。

トントン、と水槽から聞こえたような気がした。

振り向くと、さっきのペンギンが壁を叩いている。手を振ってるつもりなのかな?

「バイバイ!・・・君の幸せを願ってるよ」



帰り際。

「・・・なぁ。ペンギンに何したんだ・・・?」

珪君がそんなこと聞いてくるから。

「何って・・・何もしてないよ」

「手・・・振ってたし」

「あれは・・・私に一目ぼれしたんだよ!」

「ああ?」

「また会いに来てねって」

「本当か?」

「本当だよ」

「・・・・じゃライバルだな」

「・・・・え?」

「何でもない。 ・・・バカって言ったんだ」

「ひどーい!」


夕焼けをバックに。

誰もが見とれるような笑顔をした珪君は。

すごくかっこよかった。

・・・・ズルイ


SSの割には長いですね(笑)しかもあんまりラブラブじゃないし・・・

友達以上、恋人未満を書くのは難しいです。