恐ろしく長い理事長の話を聞いた後。

すっかりやる気をなくした私はダラダラと教室に向かった。

「椅子があったのがせめてもの救いかな・・・・」

教室のドアを開けると、もう半分くらい生徒が来ていた。

顔見知りらしく、思い思いに固まって喋っている。

みんな同じ新入生なのに、私だけ転校してきた気分。

窓際の後ろの方に、空いている席を見つけて座る。

友達を作る気力さえなかったので、カバンから雑誌を取り出して開いた。

いつもなら本を読むんだけど。

5分くらいたったろうか。

「あー!その服!やっぱこの前買えばよかったなぁ」と隣で大声がした。

びっくりして横を見ると、女の子が雑誌を覗き込んでいる。

今風だけど、ギャルじゃない。かわいい子だ。

「この服かわいくない?!」

「そ、そうだね・・・」

「あ!ごめん。私、藤井奈津実。あんた見たことない顔だね。外部生?」

「うん。こっちに引っ越してきたばっかなんだ。あ、私は大滝蓮。藤井さんは小学校から?」

「奈津実でいいよ。うん。そう。外部からってことは頭いいね?うちちょっとしか取らないんだよー」

「そんなことないよ。たまたま運がよかっただけ」

「運だけじゃ受かんないって・・・あ!友達呼んでるから行くね。またね!蓮!」

「あ、うん」

嵐みたいな子だなぁ。でもとりあえず友達できてよかったな。

雑誌を読むのにも飽きて、窓の外を眺める。

青い空。満開の桜。

前の学校も桜が綺麗だった。

どうしてだろう。今日は思い出してばかりいる。比べても。もう戻れないのに。

気分が沈みかけた時、隣に誰かが立つ気配がした。

「・・・ここいいか?」

「うん。どうぞ・・・」

声の主を見上げてびっくりする。

教会で会った彼だ。こんなすぐ会えるなんて。

「さっきの・・・」

「・・・ああ。同じクラスなのか」

表情を変えずにそう言うと、隣の席に座った。

「ねぇ!すごい偶然だね!あ、名前何て言うの?私は、大滝連」

自分で喋りながら、ナンパみたいだと思った。

どうしていつもこうなんだろ。

それ以前に何でこんな一生懸命話し掛けているのか。

「・・・・お前、元気だな」

「あ・・・ごめん。うるさい?」

「いや・・・俺は、葉月珪」

「はづきけい君・・・何て呼べばいい?」

「あ?」

彼がいぶかしげに問い返す。

「何て呼べばいい?」私は繰り返した。

「・・・好きにしろ」

「じゃ、珪君て呼ぶね。私あんまり苗字で呼ぶの好きじゃないんだ」

彼がこっちを見る。

「お前・・・変わってるな」

「そう?私のことも名前でいいよ。・・・嫌じゃなければだけど」

最後のセリフは気を使って言ったものだった。

つい、いつもの調子で喋ってしまったがここは女子校じゃない。

相手は男の子なのだ。距離のとり方がイマイチよく分からない。

「れんって花の名前だろ・・・?」

「え?」

唐突に言われたので、間の抜けた返事をしてしまった。

彼から話を振ってくるとは思わなかったから。

「・・・ハスって書くのか?」

「そう。ハスって書いてレンって読むの。はすさんとか言われて困るんだよねー。でもよく知ってるね」

「ああ・・・。お前蓮の花みたいだな」

「・・・え?」

「何かそんな感じ・・・した」

「そうかな?初めて言われたよ。私はそんな高貴じゃないよ。極楽に咲く花には・・・なれない」

知らず知らず声のトーンを落とした私を。

珪君はじっと見てた。

何か言いたそうな顔をしたけれど。

結局、その口からは何も紡がれなかった。


私たちがそんな会話とも言えない会話をしていた時。

教室では静かなざわめきが起きていた。

「オイ、あの葉月が人と喋ってるぞ」

「アイツに話し掛けるなんて勇気あるなー」

「しかも会話続いてるぞ」

「あの子誰だ?!」

私は、といえばそんな声にはちっとも気づかなかったんだけどね。

珪君も多分、聞いていなかったと思う。