8時29分。 あと1分でチャイムが鳴る。
ヤバイ。
教室の少し前に氷室先生が見えた。
「ギリギリセーフ!」
ダッシュで先生を抜かして、ドアに手をかけた時。
「大滝。廊下を走るんじゃない」
先生の冷ややかな声。
「す、すいません。急いでたもので・・・」
「もっと早く来られないのか?」
「寝坊しちゃって・・・」
「・・・・明日から気をつけなさい」
「ハイ」
良かった。あんまり怒られなくて。
教室はまだガヤガヤしてる。
席につくと、隣の珪君は机につっぷして寝ていた。
「HRを始める。席につきなさい」
先生の声でおしゃべりが止んだ。
「よろしい。出席をとる。 青山!」
ハイという声。先生が順に名前を呼んでいく。
「大滝」
「ハーイ」
「そんなマヌケな声を出すんじゃない」
「は、はい」
また怒られちゃった。 もう完璧ブラックリストだな・・・
寝起きの働かない頭で、ボンヤリとそんなことを思った。
私は朝がめちゃめちゃ弱い。毎朝怒られるかも。
ま、別にどう思われても関係ないか。
隣を見ると、珪君はまだ寝てる。よっぽど眠いのかな?
気が付くと、出席はナ行になっていた。次はハじゃん!
「ねぇ、呼ばれるよ」
腕をゆすってみる。 起きる気配なし。
「ねぇってば・・・」
「葉月!」
ヤバイ、もう呼ばれてる!
「ハイ!」
答えたのは本人ではなく、私の口だった。
「ん?こら大滝。君は葉月じゃないだろう」
もう珪君のバカ!
「いや・・そうですけど。代わりに返事したんです」
「葉月は・・・また寝てるのか。まったく。次からは代わらなくてよろしい。いつものことだ」
いつもって・・・・前からそうなの??
「ちょっとレンー。ヒムロッチに絶対目つけられたよ」
「あ、おはよう。なっちゃん」
「おはようじゃなくてさ・・・あんたのんきだねぇ。葉月の代わりなんてすることないでしょ」
「だって来てるのに欠席になったらかわいそうでしょ?」
なっちゃんはため息をついた。
「ヒムロッチは分かってるよ。中学の時からだもん。そーだ。こいつの隣で退屈でしょ?」
「何で? 楽しいよ」
「楽しい!? あんたおかしいんじゃないの? この無愛想男のどこが楽しいのよ」
私は気が気じゃなかった。本人が横にいるのに、こんな大声で・・・
「そりゃちょっと無口だけど、話し掛ければちゃんと答えてくれるもん」
「あんた・・・変わりもんだね」
「それ珪君にも言われた。あ、ほらなっちゃん先生来たよ」
「え?あぁ・・じゃまた後でね」
奈津実はこの事態が理解できなかった。
蓮が楽しいと言ってることが意味不明だし、何より葉月を名前で呼んでた。
この学校でアイツを名前で呼んだ奴なんて、今まで一人もいない。
「レン・・・あんた何したの?」
「なぁ」
なっちゃんが戻った後。 横から声がした。
「あ、おはよう。起きたの?」
「ああ・・・何で返事したんだ」
「何が?」
「出席の時・・・」
「え?何で知ってるの?まさか起きてたの!?」
「お前ゆすったから・・・返事しようと思ったら、お前が言ってた」
「だって動かなかったじゃーん! 焦って返事しちゃったよ」
「何だそれ」
「欠席になんなくてよかったでしょ? もう、感謝してよね」
「ああ・・・・サンキュ」
「どういたしまして。おせっかいでごめんね」
「何で謝るんだ・・・助かった」
「エヘヘ。そう? あ、先生来てたんだった・・・」
初めての授業は現国だった。教科書もまだ出してない・・・