5時間目。
「ねぇ。また寝ちゃうの?」
隣で目を閉じようとしていた珪君に話し掛けた。
「何で・・? だめなのか・・・?」
「だってつまんないんだもん。本も読んじゃったし」
「・・・授業は聞かないのか?」
「退屈じゃん。珪君だって聞いてないくせにー」
「・・・まぁな」
「でも頭いいんでしょ? 授業聞いてなくてわかるの?」
「教科書読めば忘れないから・・・」
「・・・そりゃ天才だね。私教科書読んだだけじゃさっぱりだもん。いいなぁ。あ、本当に眠かったら寝ていいよ。邪魔しないから」
「・・・目、覚めたから大丈夫だ」
「良かった。珪君、寝るの好きなの?」
「ああ・・・どこでも寝れる」
「へぇ・・・私も眠ってる時は幸せ。特に昼寝」
「俺も」
「本当? 気合うね。昼寝はさ、何時までに起きなきゃいけないって考えなくていいから好きなんだ。夜寝ると、朝起きなきゃいけないでしょ?」
「・・・そんな風に考えたことなかった」
「起きるために寝るなんてつまんなくない? それに私、夜が好きで眠れないんだよね」
「どういう意味だ?」
「夜になると元気になるの。静けさも好きだし。闇に包み込まれてる感じ。不安な時は際限なく不安になるけど」
「・・・色々考えてるんだな」
「役に立たないことばっかだけどね。私寝つき悪いから、眠れるまで考え事してること多いんだ。布団に入ってから3時間は眠れないから」
「・・・本当か?」
「うん。だから朝寝坊しちゃうんだよねー」
「それで大丈夫なのか?深夜まで起きてるんだろ?」
「心配してくれてるの? 大丈夫だよ。 その分昼寝してるし。あ、昼寝するから夜寝れないのかな?」
私がそう言うと、珪君は微笑んだ。
「・・・そうかもな」
「私変なこと言った?? 珪君が笑った顔初めて見たよ。 ラッキー」
「何でラッキーなんだ・・・?」
「いつもポーカーフェイスだから。私ポーカーフェイスってあんまできないだよね。すぐ顔に出ちゃうの」
「・・・そうだな」
「やっぱ分かる?」
「ああ・・・。すぐ表情が変わって、見てて飽きない」
「珪君が笑ってくれるなら、それもいいかもね」
「・・・変なやつ」
「ヘヘ・・・私、友達の笑顔見るのが好きなの。だから珪君を笑わせるために頑張るよ!」
放課後。 氷室零一は困惑していた。 授業が終わるごとにくるクレームに。
「氷室先生、聞いて下さいよ」
・・・まただ。
「先生のクラスの、葉月と大滝。授業をまったく聞いてないんですよ。葉月は教科書も出してないし、大滝は完全に横を向いて喋ってるし・・・」
「注意しなかったんですか?」
「しようとは思いましたけど・・・小声で話してるだけだし、葉月が恐くて・・・」
「・・・・・」
「それに彼が隣と話してるのなんて見たことがなかったものですから、びっくりしてしまって。・・・とにかく先生の方から注意しておいて下さい」
「・・・分かりました」
同僚が去った後。氷室は小さくため息をついた。
内容こそ少しづつ違うが、この二人に対する文句を6回聞いた。
居眠りしていました、堂々と本を読んでいました、ずっと外を見てました、等々。
どの教師も怒れないのは、二人が優秀だからだろう。
葉月は今までずっと学年トップだったし、大滝は入試でほとんどの教科が満点だった。
葉月の居眠りは前からなので、氷室も諦めていたが、大滝には期待していたのに。
「普通の優等生ではないということか・・・」
じっと自分を見つめる、意思の強そうな目。
身にまとった雰囲気。
そう。大滝は、不思議な雰囲気を持っている。
「私の授業を聞いていなかったら、注意することにしよう。・・・大滝はまた寝坊をしてくるだろうか」
氷室の顔には、微笑が浮かんでいた。
この少女に知らず知らずのうちに興味を持ったことに気づかぬままに・・・
