食堂らしき所に入っていくと、長い大きなテーブルに先客がいた。
私たちの他にもお客さんがいたらしい。カップルらしき男女。
「こちらは先日から泊まっているお客様でございます」
さっきの係の人が教えてくれる。
「こんにちは。高校生のカップル?」
女の人が、笑顔で聞いてくる。
「そうなんですよ〜。今日は熱い夜を蓮ちゃんと・・・グフッ」
勝手なことを言い出したまどりんに肘鉄をくらわして黙らせ、私も笑顔を作って答える。
「タダ券貰ったので・・・そちらは彼と旅行ですか?」
彼氏の顔が一瞬曇った・・・・?気のせいかな?
「そうなの。父がここの所有者の人と友達で・・。あ、私は裕美。こっちは彼氏の健。あなた達の名前を聞いてもいいかしら?」
「蓮です」
「私は奈津実」
「俺は姫条」
「・・・葉月だ」
相変わらず珪君は愛想がない。
「あら、立たせっぱなしでごめんなさい。座って話しましょう」
裕美さんがそう言って。
私達は立ちっぱなのに気づいたのだった。
食事はやっぱりフランス料理だった。しかもフルコース。
お金払ってないのに、こんなにしてもらっていいのかな?
私達はおいしい食事を楽しみながら、他愛もない話をした。
どこから来たの?とか、仕事は何やってるんですか?とか。
裕美さんと健さんはとても仲がいいようだった。
「今日はどこか行ったんですか?」
なっちゃんが聞いている。
さっきから、殆ど会話をするのはなっちゃんとまどりんだった。
私も珪君も黙って聞き役に回っている。
正直言って助かっていた。初対面の人と食事なんて、私なら間が持たなかったから。
「湖に行ったのよ。とても綺麗だったわ」
「ここの正面にある湖ですか?」
「そう。あなた達も明日行ってみたら?」
「ほんなら明日見に行こか。他に行くとこもないし」
まどりんが提案する。
「あんたにしては上出来なプランじゃない?」
「なんやて?」
また二人が喧嘩し始める。
「もう。食事中なんだからやめなよー」
私が止めても、二人はやめなかった。
「このバカがいけないのよ」
「自分が喧嘩売ってきたんやろが」
裕美さんがクスクス笑い出した。
「仲がいいのね」
「「違います!」」
二人の声が見事にハモった。
デザートの後に出てきたのは、ワインだった。
私たち未成年なんですけど・・・
なっちゃんとまどりんはおいしそうに飲んでいる。
「ちょっとなっちゃん飲みすぎだよ」
「だーいじょーぶだって。蓮は飲まないの?」
「お酒飲めないから」
「オコサマだね〜」
「どーせ子供ですよー」
「蓮ちゃんが酔っ払ったら、俺が介抱したるで」
「それが一番危ないんだよ」
「なんや、冷たいなぁ」
ダメだ。もう二人は酔ってる。
隣を見ると、珪君は平気な顔で飲んでいた。
「大丈夫?」
「・・・そんなに強い酒じゃない」
「飲みなれてるって感じだね」
「つきあいで飲まされるからな・・・お前も少し飲めば」
「遠慮しとく。味が好きじゃないの。飲むと吐くよ」
「・・・・・」
「二人はつきあってるの?」
裕美さんに急に聞かれて、はっと顔を向ける。
「どうしてですか?」
「なんかそんな雰囲気だったから。ねぇ、絶対あの湖に行ったほうがいいわよ。だって・・・」
「ほら、裕美。ちょっと飲みすぎだ。困ってるだろ?部屋に戻ろう」
何かを言いかけた裕美さんを遮って、健さんがたしなめる。
「あら。酔ってなんかいないわよ」
「酔っ払いはみんなそう言うんだよ。・・・行こう。じゃ、またね」
健さんは裕美さんの腕をつかんで立たせ、部屋に連れていってしまった。
「何言おうとしたのかな?」
「・・・さあな」
その後、本格的にくだを巻きだした二人をなんとかして部屋に返したのは9時を過ぎてからだった。
もう絶対一緒にお酒は飲まない。
「外・・・出ないか?」
珪君がいきなりそんなこと言い出したのでびっくりする。
「今から?・・・夜だよ?」
「・・・恐いのか?」
からかうような声に、カチンとくる。
「いいよ。行こう」
「じゃ、決まりだな」
めずらしく珪君が微笑んで、私達は夜の闇へ出かけたのだった。
懐中電灯を借りて。
森の中を歩いているのだが、とにかく真っ暗。
鳥目気味の私には、全然道が見えない。
「うわっ!?」
木の根っこにつまづいた私を、珪君が支えてくれる。
「ごめん。ありがとう」
「危なっかしいな、お前」
「だって、何にも見えないんだもん」
そう抗議すると。
「ほら」
「え?」
「・・つかまってろ」
手を差し出してくれた。
「・・・ありがとう」
森の闇は深すぎて、懐中電灯が照らすにはあまりにも頼りない。
「恐いか?」
「うーん。暗いのは平気だけど、幽霊とか出そうでやだなぁ。いても霊感ないから見えないだろうけど」
「だろうな」
「え?」
「・・・お前の横にいる」
「えぇ!?いやー!!」
思わず珪君にしがみつく。
「嘘」
「・・・ひど−い!!珪君のバカー!!」
「お前がそんな恐がるとこ初めて見た」
笑ながらそう言ってくる。
「だって肝試しとか嫌いなんだもん。もう珪君の言うことなんか信じない」
私がふてくされると。
「・・・ごめん。もうやらない」
「本当に?」
「あぁ・・・前見てみろ」
「?」
いつのまにか森は終わっていて、目の前に広がるのは静かに揺れる湖だった。
「うわぁ・・・」
夕日を映す湖面も美しかったが、夜はまた別の趣があった。
満天の星と、丸い月を映す水面。
「空がもう一つあるみたいだね」
「そうだな・・・」
「あ!ボートがあるよ。乗らない?」
「いいのか?」
「どーせバレないよ。ね、いこ!」
手を引っ張って、ボートの傍に走っていく。
ロープで繋がれることもなく、ボートは静かに浮かんでいた。
「・・落ちるなよ」
「そんなドジじゃないってば」
私と珪君を乗せて、ボートはゆっくりと水面をすべってく。
しばらく無言が続いた後。
珪君が口を開いた。
「・・・バスの中での話・・・覚えてるか?」
「言い伝えがあるって言ってたやつ?」
「ああ」
「話してくれるの?」
「昔・・・この近くに、仲のいい恋人同士がいたんだ。二人は結婚を決めてた。でも・・・」
「・・でも?」
「回りからすごく反対されたんだ。男は貧乏だったから。・・・二人は絶望して湖に身を投げた。・・・永遠を誓い合って」
「・・・・・」
「それ以来、ここは再逢湖と呼ばれてる。あの世でもう一度逢えるように・・・二度と離れないように」
「・・・・死ぬしか他に道はなかったのかな?」
「・・・・」
「私は・・・・死んだらそこでおしまいだと思うんだ。あの世でなんて・・・愛は誓えないと思う」
「・・・そうかもな」
何と続けていいのか分からなくて。
黙って空を見上げた。
その二人も、こうやって満月を見上げたんだろうか?
「ねぇ。ジンクスとかないの?」
「ジンクス?」
「ここへ来ると何かが起こる・・・とかさ」
「・・・ある」
「教えてよ。まさか呪われるとかじゃないよね?」
「バカ。そしたら連れてこない。・・・ここに一緒に来た二人は、例え離れ離れになっても、また巡り逢う事ができる」
「私、別に引っ越したりしないよ?」
「分かってる・・・・でも連れてきたかったんだ。お前・・・消えてしまいそうだから」
「・・・・・・」
「本当はもう一つある」
「何?」
「・・・秘密だ」
「わざわざ気になる言い方しないでよー。ケチー」
「・・・そろそろ帰るか」
岸に向かって漕ぎ出した時。
水面が、赤く染まった。
「!?」
さっきまで深い青だったそれは、だんだんと血に染まっていくように、赤くなっていく。
「水を見て!」
私が叫ぶと、珪君は驚いて水面を見た。
「・・・?何だ?何かいたのか?」
「え?」
再び湖面を見ると。何もなかったかのように、元に戻っていた。
「どうして・・・?」
「何があったんだ?」
「水が・・・赤くなったの。確かに見たの!嘘じゃない」
「・・・何かが起こったのかもな」
珪君がそうつぶやいた時。
遠くで悲鳴が聞こえたような気がした。
悲しく・・・どこかせつない。
私達は顔を見合わせ、洋館に向かって急いだ。
