扉を開けると、中はシンと静まり返っていた。

まるで何もなかったかのように。

「2階のドアが開いてる」

珪君が指差した方を見ると、一つの部屋が不自然に開いていた。

「行ってみよう!」


私達が中を覗き込むと、呆然としたなっちゃんとまどりん、従業員の人達が立っていた。

彼らの視線の先には、風に揺れるカーテン。

そして、しゃがみ込んで泣いている裕美さんがいた。

「何が・・・あったの?」

私がそう聞くと。

はっとしたようにみんながこっちを向いた。

「どこいっとったん?探したんやで」

「ちょっと外出てて。それより・・・」

「健さんが・・・・」

「健さんが?」

「・・・・・」

なっちゃんはそれ以上答えない。

バルコニーにいるの?

私がそっちに向かって歩き出すと、まどりんに腕をつかまれた。

「あかん!見んほうがええ!」

その言葉に。

半ば何が起きたか想像できたけど、確かめなきゃいけない。

「・・・離して」

まどりんは何か言いたそうな顔を向けたけど、手は離してくれた。

バルコニーに向かってゆっくりと進んでいく。

泣いている裕美さんが見えた。冷めたような虚ろな表情。

多分想像は当たってるだろう。

バルコニーに出ると、手すりに紐が結び付けられていた。

「・・・?」

嫌な予感を押さえながら、下を見下ろす。

そこにあったのは。

宙に浮かんでいる・・・・

健さんだった。

「・・・引き上げよう」

いつのまにか隣に来た珪君が言う。

「そ、そうだね。このままにしておけないし」

「あんた達、手伝ってくれ」

珪君の言葉に、みんなが怯えたような表情を向ける。

が、もっともだと思ったのかこちらに来てくれた。

男の人たちで健さんを持ち上げる。

やはりもう息はしていなかった。

「誰が最初に見つけたんですか?」

「・・・・私よ」

答えたのは、裕美さんだった。

「部屋に戻った後、酔い覚ましにシャワーを浴びたの。健と少し話そうと思ってドアをノックしたんだけど、返事がなくて。変に思って中に入ったら・・・」

そこでまた泣き出す。

私達は何も言えずに、ただ裕美さんを見ていた。

「・・・自殺する理由なんてどこにもないのに。来月は結婚するはずだったのに!・・・あの湖のせいよ」

「・・・湖?」

私が問い返すと。

「そうよ。あの湖に行ったりしたから!健は呪われて自殺なんてしてしまったのよ」

呪い? あの湖はやっぱり呪われるの?

珪君を見ると、厳しい顔で裕美さんを見ていた。

「・・・呪いなんて」

「それ以外に何があるの!?あそこで心中したカップルの幽霊がやったのよ!行かなきゃよかった!」

私は裕美さんの叫びに、どこか腑に落ちないものを感じていた。

食事の時はあんなに楽しそうに湖の話をしていたのに。

それに、私達にも勧めていた。 

今になってなぜ?

「お客様・・・失礼ですが、呪われたなどという話は今まで聞いたことがございません」

従業員が恐る恐る言う。

「そんなの嘘よ!」

「いいえ。恋人達がよく訪れるのがその理由でしょう?」

「・・・じゃあどうして健は自殺したのよ!」

「それは・・・」

健さんには自殺する様子なんかなかった。

心中するならともかく、彼女を残して旅先で死ぬなんておかしい。

とりあえず、私達は興奮している裕美さんをなだめ、部屋に行かせた。

「警察は明日にならないと来れないようです」

従業員の言葉に、なっちゃんが青ざめる。

「死体と一緒にいろってこと!?そんなの無理!」

「・・・申し訳ありません。我慢なさってください」

申し訳なさそうに言う。

なっちゃんもそれ以上抗議もできず、黙ってしまった。

「なぁ。紐くらい解いてやらん?苦しいやろ」

まどりんが提案して、黙って結び目をほどきはじめた。

私達も手伝う。

結局ベットに寝かせることにした。

そのままにしておくのは、かわいそうだったので。

ベットに横たわっている健さんを見て、違和感を感じる。

・ ・・・・そーゆーことか。

じっと死体を見ている私の前に、珪君が立った。

「・・・もう見るな」

「うん・・・」

部屋から出たあと、なっちゃんがどうしても恐いというので一緒に寝ることにした。

まぁ、当然の反応だろう。私がおかしいのだ。

隣で寝ているなっちゃんを起こさないように、そっとベットから出る。

バルコニーに出て、ため息をついた。

夜風が気持ちいい。

今、問い詰めるべきか。

一瞬そう思ったけど、明日にすることにした。

警察が来る前に終わらせればいい。


月が浮かぶ湖を見つめる。

あの時、湖が赤く染まったのは。

悲しい二人の涙だったのかもしれない。