次の日の早朝、部屋をそっと抜け出した。

理由を聞くために。

ドアを静かにノックする。

まだ寝てるかもしれないと思ったけど、中から返事がした。

「どうぞ」

深呼吸をして、扉を開けた。

「おはようございます。朝早くからすいません」

「どうしたの?何か用?」

「・・・・どうして健さんを殺したんですか?・・・裕美さん」

「何のことを言ってるのかしら?私と健は恋人同士だったのよ。殺すわけないじゃない。あれは自殺よ」

裕美さんの声は、驚くほど落ち着いていた。

「何で殺す必要があったのか分からないから聞きにきたんです」

「だから私じゃないって言ってるでしょ!・・・そんなに疑う理由を教えてもらえないかしら」

「あなたが最初に発見したと聞きました。普通、まだ生きているかもしれないと思って何かしようと思いませんか?私ならそうしますけど。けれどあなたはただ見ているだけだった。・・・死んでいることを知っていたからです」

「・・・びっくりして何もできなかったのよ」

「じゃ、そういうことにしておきましょう。あなたは自殺だと言ったけれど、あれは自殺ではありません」

彼女が、ハッと顔を上げた。

「どうしてそんなことが分かるの?首を吊ってるのを見たでしょ?自殺に決まってるじゃない」

「私も最初は自殺だと思いました。でも死体を見て気づいたんです。これは他殺だと。あなたが首を締めて殺した後、柵に吊るして自殺に見せかけたんでしょう?」

「何で殺したって分かるのよ!誰が見たって自殺じゃないの!」

「普通の人ならそう思うでしょう。でも、自殺と他殺じゃ、体にはっきりとした違いが残るんですよ」

「・・・なんですって?」

「健さんの顔は鬱血していた。首吊りでは鬱血はしません。これは絞殺されたことを示しています。それに首に2つの縄の痕がありました。首を締めた時のと、吊るした時のものでしょう」

「・・・・・・」

「犯行が可能なのはあなただけです。他の人にはアリバイがありますから」

「・・・・あなたのせいで計画がパァだわ」

「私がいなかったとしても、警察はごまかせませんよ。・・・理由を聞かせてもらえませんか?」

突然、狂ったように裕美さんが笑い出した。

私が呆然と見ていると、みんなが何事かと部屋にやってきた。

「どうしたんですか!?」

笑い続ける裕美さんを遠巻きに眺める。

「・・・全部健がいけないのよ。婚約解消するなんて言うから」

ポツリと裕美さんが話し始める。

「永遠を誓いにあの湖に行ったはずなのに、別れたいなんて言い出すんだもの。その時は冗談だと思った・・・でも」

みんな言葉もなく、彼女の話を聞いている。

「でも!昨日話し合おうって言った私に、他に好きな女がいるって言ったのよ!誰だと思う?・・・私の親友よ」

「・・・・・」

「だから殺してやったの。他の女になんて渡さない」

「・・・それであなたは幸せなんですか?」

「幸せよ。だってあの人を永遠に手に入れたんだもの!」

狂ってる。人を殺して幸せ?

裕美さんはまた笑い出した。

「・・・何がおかしいの?」


自分でも声が震えてるのが分かる。

「・・・蓮」

珪君が私の肩に手をおく。

「あなたにばれたのは計算外だったわ。・・・このまま湖の二人を再現しようかしら」

「どういう意味ですか?」

「幽霊の話を本当にするだけよ」

そう言い残すと。

彼女はさっと走り出す。

私が腕を掴む前に。

裕美さんはバルコニーから飛び降りた。


私が見たのは。

一面の赤い色と。

鉄柱に突き刺さった彼女だった。



その後。警察がやっと来て、延々と事情聴取された。

せっかくの旅行がぶち壊し。

でも、怒る気力にもなれなかった。

結局、悪いのは誰だったのか。

裕美さんを捨てた健さん?

健さんを殺した裕美さん?

それとも、親友の彼を奪った人だろうか。

「後味悪・・・・」

私がそうつぶやいた時、誰かが後ろにくる気配がした。

「蓮。大丈夫か?」

「あ、珪君。何だか大変だったねー」

「そうだな・・・お前、いつ犯人だって分かったんだ?」

「健さん見た時。私変な知識はいっぱいあるからさー」

「・・・無理すんな」

「うん・・・・」

空元気は、見破られてしまった。

「ねぇ」

「ん?」

「永遠って手に入れるものじゃないと思うんだ」

「・・・ああ」

「裕美さんは、健さんの体は手に入れたかもしれない。でも心は手に入らなかった」

「・・・・・」

「永遠の愛なんて、本当にあるのかな・・・?」

「・・・・今、この瞬間。相手を好きならそれでいいんじゃないか?」

「え?」

「今のこの気持ちは嘘じゃない。俺は・・・それでいいと思う」

「・・・そうだね。人の気持ちに永遠なんてない。だから今が大切だと思えるのかな」

「ああ」

「さ、もう行こうか。なっちゃんとまどりんが待ってる」

私は二人の所に戻ろうとしたけど、彼は動かなかった。

「・・?どうしたの?」

「湖のジンクスの話、しただろ」

「昨日のやつ?」

「もう一つの方・・・・教えてやる」

「うん」

「ここで誓った愛は、色あせることがないんだ。俺は・・・今の気持ちをこの湖に誓うよ」

「・・・・・」

「蓮・・・・愛してる」

湖に写った夕日が。

優しく私達を照らしていた。


あとがき