蘭の元に遊びに行ったのはいいが、あかねは帰り道が分からなくて先ほどから同じ所をぐるぐるしていた。

「やっぱり出口まで連れてってもらえばよかった・・・」

安倍の屋敷は、迷ったら最期。

それを思い出してあかねが青ざめた時。

「どうしたのだ?神子」

横から突然泰明が現れた。

「わっ!びっくりした。泰明さん、驚かさないでくださいよ」

「私は別に何もしていない。・・・随分迷ったようだな。すぐそこに休める木がある」

泰明が先に歩き出すと、さっきまでのことが嘘のように道が開けていく。

言葉どおりすぐ傍に、大きな木の切り株があった。

二人で並んで腰かける。

泰明に会えてほっとしたのか、あかねは前々から気になっていたことを質問してみた。

「あ、そうだ。陰陽師って楽しいですか?」

「唐突だな」

「かっこいいなーと思って。私もなれるものならなりたいです」

「それは無理だろう」

「そんな即答しなくても・・・」

「お前のように怨霊に同情するようでは、仕事にならない」

「そ、そうですか・・・?」

「そうだ。それに、楽しいとはどんな感情だ?」

「え?う、うーん・・・心がウキウキ・・って言っても駄目か。この仕事やってて良かった!って心から思うような気分だと思います」

「・・・そうか。それならば、楽しいと思ったことは一度もない。ただ怨霊を調伏するだけだ」

「・・・。陰陽師をやめたいと思ったことは?」

「ない。私は陰陽師になる為に生まれついたのだから」

泰明がそう答えると、なぜかあかねは拳を握って立ち上がった。

「そんなことないです!」

「神子?」

「私だって龍神の神子だけど、神子になるために生まれてきたんじゃないもん」

「・・・意味がよく分からない」

「だーかーら!生まれる前は、みんな同じなんです。未来なんて決まってない。そこから何を選ぶかによって、その人の人生になるんですよ。私だって龍神から選ばれたのは事実だけど、私が京を救うことを決めたんです」

自分でもいいことを言ったと思ったのだろう。

あかねは満足気だった。

「・・・神子の世界は自由なのだな」

「え?」

「ここでは、農民の家に生まれついた者は決して貴族にはなれない」

「あっ・・・・ごめんなさい・・・」

最後の言葉は、尻つぼみになって消えた。

叱られた犬のように、へにゃっと座る。

「何故謝る?」

「だって・・・京のことよく知りもしないくせに自分の価値観押し付けちゃったから・・・」

俯くあかねを泰明は暫し見つめていたが、ふいに手を伸ばして頭を撫でた。

「そのような事はない。お前の言葉のおかげで、私も自分の価値を見出せるかもしれない」

「泰明さん・・・」

「神子も陰陽師になれるかもしれない」

大真面目に言った泰明に、あかねはプっと吹き出した。

「私は陰陽師になれないって言われたから落ち込んでたわけじゃないんですよ?」

「そうなのか?」

「やっぱり勘違いしてる。それより、泰明さんは立派ですよ?人を助けることができる職業なんてすごいです!」

「・・・神子は面白いな」

「どうしてですか?」

「今まで立派だと言われたことなどない」

「そうなんですか?私は泰明さんが術を使うたびに、すごいと思ってますけど・・・」

「周りは私が様々な術を使えるのが当たり前と思っているのだ」

「えー!?当たり前なんておかしいですよ。少なくとも私は使えないし、殆どの人ができないじゃないですか」

「皆術が使えるのなら、陰陽師などいらぬ」

「だったらどうして?泰明さんだってすっごい努力したはずなのに・・・」

「それは私が・・・・いや。何でもない」

「泰明さん?」


それは私が人形だからだ。

最高の陰陽師である師を継ぐための。

そう言うことは簡単だった。

しかしあかねには言いたくなかった。

人間ではないと知られるのが怖いから。

怖い?

そう。

私は怖いのだ。

あかねに見捨てられることが。


「神子が立派だと言ってくれるだけで、私は嬉しい」

正直な気持ちを言うと、あかねは顔を赤くした。

「そ、そうですか?あ、一つお願いがあるんですけど」

「何だ?」

「できれば名前で呼んでほしいな〜って。神子って何だか味気なくないですか?」

「神子が望むならそうしよう」

「あ!今言ったばっかなのに〜!」

「・・・すまない。あかね」

「ハイ」

あかねはにこにこと返事をする。

それにつられて、泰明も目を細めた。

「・・・これは詫びだ」

そう呟いて、小さく呪を紡ぐ。

と、どこからともなく蝶が集まってきた。

「わぁ・・・」

感嘆の声をあげて喜ぶあかねの周りを、ひらりゆらりと舞ってゆく。


初めて陰陽師で良かったと思えた。

少なくとも、今こうしてお前を楽しませることはできるのだから。


泰明さんは、絶対自分の職業に誇りを持っていないと思うのですが(笑)
漫画でも「どうして陰陽師になったんですか?」と聞いてましたが、微妙な答えで終了してたので、想像して書いてみました。
よく平安時代は優雅でいいなーと思うのですが、それはあくまで貴族社会の話なんですよね。
武士とか陰陽師とか地位が確立してる職業ならいいけど、農民だったらシャレにならない。
平安時代に生まれたかった!っていうのは、身分制度を実感できない現代人のエゴなのかもしれません。
でもまぁ和歌で身分を貰った農民の方もいらっしゃいますので、どんな身分であれ平安に行ってみたいと思ってしまうのでした。