「桜の木の下って、死体が埋まってるんだって」
「それは墓地とかに桜が咲いてるからだろ?」
「違うわよ。桜は死体を養分にしてるのよ。ほら、あの公園の桜。すごく大きいじゃない?」
「そーいえばそうだけど・・・。いきなり何だよ?」
「掘ってみましょうよ。絶対出てくるわ」
「はぁ?本気か?」
「あら、怪談好きなくせに、実際に見るのは怖いの?」
「そ、そんなことねーよ。分かった。掘りに行こうぜ」
「そうこなくちゃ」
恋人の崇を誘って、真夜中の公園に来た。
2、3本しか桜の木はないので、夜桜見物をしている人間もいない。
ちっぽけな公園だったが、ものすごく大きな桜が一本あるのだ。
樹齢何百年だろう?
もしかしたら、もっといってるかもしれない。
「なんか宝探ししてる気分だな。ここ掘れワンワン」
崇がおどけて犬の真似をしてみせる。
私は笑いながら、スコップを差し出した。
「はい。工事現場から拝借してきたんだから、丁寧に扱ってね」
「お前、やること抜け目ないなー」
二人で黙々と土を掘り返しながら、崇が話し掛けてくる。
「何で急に死体の話なんかしだしたわけ?」
「本で読んだのよ。日本人は桜が好きでしょ?だから、死んだら桜の木の根元に埋めてくれって人が多かったみたい。大昔の話だけどね」
「へぇ・・・その気持ち分からないでもないな。俺も骨は海に撒いてほしいもん」
「そんなことしたら法律違反で捕まるわよ?」
「分かってるよ。でも男のロマンなの!」
崇はスキューバが趣味だった。
私も何度かつきあったことがある。
海水に溶けて魚の餌になれるのなら、崇には本望なのだろう。
人一人埋められるだけの穴を掘り終わって、崇はうんざりしたように地べたに座り込んだ。
「やーっぱり死体なんかねーじゃん。ま、出てきても怖いけどさ。これまた埋めんの・・・?」
私は静かに答える。
「死体がないのは当たり前よ。だって、貴方が埋まるんだもの」
硬いもの同士がぶつかる、くぐもった音。
血を流して倒れこむ崇。
「ど・・して・・・」
「だってあんたウザイんだもの」
歌うようにそう言って、止めをさした。
馬鹿な男。
自分の墓を自分で掘るなんてね。
おかげで手間が省けたけど。
元通りに土をかぶせて、私はスコップを持った。
桜の木の下には、死体が埋まっている。