「天真君のバカー!!」
「あー!もう俺が悪かったって!これでいいんだろ?」
「何その投げやりな言い方―!」
「じゃあどう言えっつーんだよ?!」
先刻から、こうしたあかねと天真のやり取りが続いている。
それを泰明が所在投げに見つめていた。
些細なことから喧嘩が始まったのだが、言い合いはどんどんエスカレートしていく。
「・・・・私のことを忘れてはいないか?」
低く告げると、あかねと天真がびくっと震えた。
「ご、ごめんなさい・・・ついカっとしちゃって・・」
「・・・悪い。お前喋らねーから、いること忘れてた・・・」
「ちょっと天真君!」
「やべっ・・・」
「・・・・・」
今日は三人で怨霊退治に出かけていた。
天真の言ったことは間違っていない。
何を話していいのか分からない私は、会話に混ざれない。
最初のうちは神子も気を使って色々話し掛けてきたが、それも長くは続かなかった。
生返事ばかりでは、打つ手がないだろう。
そうだ。
私は考え事をしていたのだ。
神子と天真は、八葉という繋がり以上のものを感じる。
これが絆なのか?
そして私はそれを羨ましいと思うのだ。
羨ましいなどという感情が、私に生まれるとは思ってもみなかった。
それだけではない。
二人を見ていると、なぜか・・・
なぜか、胸の奥が痛むのだ。
病気など、なるはずがないのに。
安倍の屋敷に戻ってからも、ずっと考えていた。
しかし、考えても考えても答えは見つからない。
「どうした?泰明」
「・・・お師匠」
「お前が悩んでいるとは珍しいな」
私を作ったお師匠なら、答えを知っているかもしれない。
「教えて欲しい。神子と天真を見ていると、心がざわめくのだ。静かな湖に波紋が広がるように」
いつも表情を変えないお師匠の目が、一瞬丸くなった。
そして微笑をたたえる。
「ほう・・・。お前がそのような事を言うとはな。面白いものよ」
「一体この気持ちは何なのだ?」
「自分では何だと思う?」
まるで小さな子供をからかう親のようだ。
教えないつもりらしい。
この気持ちは何かに似ている。
胸に広がる、この黒いものは・・・
「分からないから聞いているのに。・・・・そう。まるで呪詛したいと思うような・・」
私がそう言うと、お師匠は絶句していた。
このような表情は、今まで見たことがない。
呪詛を行おうとしていた私を、呆れているのだろうか?
「・・・・・・」
「私は天真を呪詛したいのか?」
「・・・少々違うと思うがな」
「では何なのだ」
「まぁ怒るな泰明。その答えは己自身が見つけないと意味がないのだ。言葉を教えることはいくらでもできる。しかし理解できなければ意味がない」
「・・・・」
「橘少将の元へ行ってみてはどうだ?彼なら、何かを教えてくれるだろう」
「友雅」
「おや?泰明殿ではないか。珍しいね」
友雅は内裏にいたが、仕事をしている様子はなかった。
なぜか周りは女人で溢れている。
「・・・忙しいのか?」
「ふふっ貴方がそんな気を使うとはね。少しくらい大丈夫ですよ。さぁ姫君達、私は彼と大事な話があるのだ。二人にしてはくれまいか」
女達は文句を言いながらも、次々と立ち去っていく。
「仕事をしにきているのではないのか?」
「姫君達の話の相手をするのも、仕事のうちだよ。それで何の用かな?」
「聞きたいことがあるのだ。お前は胸が痛くなったことがあるか?」
「胸?泰明殿は病気なのか?」
「違う。特定の人物を見ると、痛むのだ」
友雅は一瞬固まった後、笑いをこらえているかのような表情をした。
「・・・・ほぅ。それは面白いことを聞いたな」
「これが何か分かるのか?」
「・・・そうだねぇ。それはきっと恋ではないのかな?」
「恋?胸の痛みが?」
「人によって違うけれどね。私は胸が痛むような恋はしたことがない。泰明殿が羨ましいよ」
「・・・・」
私が羨ましい?
この男でも、人を羨ましがることがあるのか。
「痛みの原因は色々あるね。身分の違い、想いを伝えられない、もう意中の人に恋人がいる・・・など、数え上げればきりがないよ」
そして悪戯っぽく続けた。
「君の場合は恋敵が多いのが原因かな?・・・そうだ。せっかく来たのだから、良いことをお教えしよう」
「何だ?」
「姫君を自分のものにするにはね・・・・」
なぜか友雅は、とても楽しそうだった。
次の日。
今日はあかねと二人だった。
今も胸の痛みはあるが、天真と一緒にいるときのものとは少し違う。
これが恋だというのなら、あの黒い気持ちは何なのだろう?
「・・・あかね」
「はい?」
「私はお前と天真が一緒にいるところを見ると、不可解な気持ちになるのだ」
「私と天真君が・・・?」
「苦しいような、邪魔したいような・・・」
途端にあかねは真っ赤になった。
「それってまさか・・・」
「やはり神子も分かるのか?天真を呪詛したいのではないかと」
なぜか神子は、目を見開いて、口をぽかんと開けた。
「は!?呪詛!?」
「違うのか?」
「さ、さすが陰陽師・・・」
「違うというのならば教えてほしい」
あかねはなぜか困ったような顔をし、恥ずかしそうに呟いた。
「きっとね、それは・・・嫉妬です」
「嫉妬?」
「好きな人を手に入れたいと思う気持ち・・・。自分のものだけにしたいと願う想い・・」
「自分のものだけにしたい・・・」
そうか。
だから天真に黒い気持ちを抱いていたのか。
この気持ちが分かった今。
天真に神子を渡すわけにはいかない。
「や、泰明さん?」
あかねを引き寄せると、静かにその唇に口付けた。
「これであかねは私のものだ」
胸の痛みは、もうなくなっていた。
友雅。
感謝する。
雅音さまのリクで「天真君に嫉妬する泰明さん」でしたー。
すいません(汗)天真君最初しか出てないし。
しかも喧嘩してるだけだし(笑)
友雅さんが何を教えたのかとゆーと「女性は接吻の一つでもしてしまえば、こちらのものだ」と悪魔のようなセリフを囁いたのでした。
そしてそれを忠実に実行したわけです(笑)
こんな話になってしまいましたが、楽しんでいただければ幸いです。
雅音さま、リクありがとうございました