今日は物忌みの日。外には出られない。

やることのないあかねは、香を焚いている。

火をつけると、甘い香りが部屋に立ち込めた。

香水とは違う、優しい香り。

しばらくぼんやりと香を見つめる。

「神子殿。入るよ?」

そう言って御簾を上げて部屋に入ってきたのは友雅だ。

「あ、友雅さん!来てくれたんですね」

「可愛い姫君のためだからね。おや、侍従だね」

「この香り好きでしたよね?友雅さん、いつもこの香りがするもの」

「ふふ。嬉しいことをしてくれるね。しかし・・・・」

「どうしたんですか?」

黙ってしまった友雅に、あかねが不思議そうに問い掛ける。

「・・・どうして香炉を使わないんだい?傍にあるのに」

香を焚く時は香炉を使うのだが、あかねはなぜか小さい皿でそのまま焚いていた。

香炉が横にあるのにも関わらず。

「あぁこれですか?煙を見てたんです」

「煙?」

「火をつけると煙が出るじゃないですか。風もないのにゆらゆら揺れながら登るんですよ」

「それは知らなかったな」

あかねは嬉しそうに続けた。

「動きが優雅で、天女が羽衣を着て踊ってるみたいだなって思って」

そこまで聞くと友雅は笑い出した。

「ははは。面白いことを言うね。さすが神子殿、目の付け所が違う」

「子供っぽいと思ってるんでしょう」

あかねは頬を膨らませている。

「おや、機嫌を損ねてしまったようだね。私は褒めたんだよ。煙を見る者などいないからね」

「友雅さんの意地悪・・・・」

「ふふ。そんなに怒らないでおくれ。・・・神子殿はこの香りは好きかい?」

「侍従のことですか?好きですよ」

「侍従はどんな香りだと思う?」

「どんな?うーん・・・・夜の匂いがします」

友雅が興味を持ったように片眉を上げた。

「夜、ね。・・・夜の匂いとはどんなものだい?」

「夜に匂いはないですけど・・・雰囲気が似てるなって。夜って暗いじゃないですか」

「・・・?暗い匂いということかい?」

「そうじゃなくて・・・私は夜が好きです。暗くても恐くても。それは夜が不思議な魅力を持ってるからだと思うんです」

「それが侍従にもあると?」

あかねは少し考えてから、口に出した。

「甘く包んで、逃がさない。夜の闇ように惑わす香りだと思います」

幼い姫だと思っていると、どきりとさせられることを言う。

友雅は何か企んだような顔をして言った。

「・・・それは私のことを言ってるのかな?」

「えっ!?」

「私の衣の香りをそう感じたのだろう?君はあまり香を焚かないからね。私は神子殿を惑わしているのか・・・」

「えぇっ!?」

慌てるあかねを見ながら、友雅は可笑しそうに笑った。

「では神子殿の期待に答えなくてはね・・・」

「と、友雅さん!?」

思わず見惚れてしまうような微笑を浮かべると、低く囁いた。

「大丈夫。優しく包んであげるよ。侍従のようにね・・・・」



私にしてはやっちまったって感じなんですけど、どうでしょう?(笑)
殆どの方が侍従の香りを知らないと思うんですけど、これは私なりの香りの例えです。
本当は"包んでくれても救ってはくれない"の方が的確なのですが、最後に繋げるためにちょっと変えました。
根本的には一緒なんですけど。
最後のセリフ、我ながらお気に入りです(笑)