この醜い感情
貴方にだけは気づかれたくない
でも、貴方は知ってて知らないフリをしてるのかしら?
「ふ・じ・ひ・め〜」
藤棚の影から、あかねがひょこっと顔を覗かせた。
「まぁ神子様!御久しぶりですわね。こちらへどうぞ」
「おじゃましまーす」
あかねの突然の訪問に、藤姫はむしろ喜んでいた。
鬼を倒して早1ヶ月。
あかねは京に残ることを選び、泰明と結婚した。
新しい屋敷に移ってしまったので、藤姫は淋しかったのだ。
「新しい生活はどうですか?」
「幸せだよ。泰明さん優しいし。でも・・・」
あかねの顔が曇った。
「仕事が忙しくて、殆ど家にいないの。前より人当たりが良くなったから、依頼が増えたみたい」
「泰明殿は、売れっ子陰陽師ですものね。噂は色々聞いておりますわ」
「分かってるの。私の我侭だってことは。でもね、今までずっと一緒だったでしょう?だから離れると不安なの・・・」
「神子様・・・」
「ごめんね、こんな話して。もっと楽しい話にしようか。あのね・・・」
あかねはとってつけたように笑顔になり、近所の貴族の話をし始めた。
お労しい・・・と思いながらも、藤姫にはどうすることもできなかった。
もう日は大分落ちている。
泰明は仕事で、ここ2日ほど帰ってきていない。
自分のために働いているのだ、と思っても、やはり淋しかった。
二人きりになれる時間は、ほんのわずかしかなかった。
ひっきりなしに依頼者が屋敷を訪れるからだ。
二人でいるために結婚したのに。
泰明は、本当は私のことなど愛していないのだろうか?
子供じみた感情だ・・・と思っても、涙が頬を濡らす。
「神子。選択を誤ったと思っているのか?」
声は唐突に聞こえた。
頭の中に響くような声。
姿はない。
でも、誰なのか分かった。
「龍神・・・?」
「こちらに留まったことを、後悔しているのか?」
「後悔?違うよ。私はね、淋しいだけ・・」
「淋しい?何故?」
「泰明さんと一緒にいれないから」
「泰明の力は強大だ。それ故、求めるものも多い」
「分かってるよ。でも、家にいて欲しいんだもん・・・」
「神子は泰明の力を疎んでいるのか?」
「・・・・そうかもしれないね。あんなに強くなかったら、もっと一緒にいられるもん」
「神子は強さよりも共にあることを望むのか?」
「・・・?うん」
「承知した・・・」
声は唐突に聞こえなくなった。
静けさだけが、辺りを支配している。
泰明が帰ってきたのは、次の日だった。
心なしか青ざめた顔をしている。
「泰明さん、おかえりなさい」
あかねが笑顔で迎えると、泰明は小さく呟いた。
「あかね・・。私は力が使えなくなったのだ」
「力が使えない・・・?」
「急に術が使えなくなった・・・。これでは陰陽師の仕事が出来ない」
あかねは気づいた。
龍神の仕業だと。
自分の願いを叶えてくれたのだ。
「どうすればいい・・・?」
俯く泰明を、あかねは優しく抱きしめる。
「大丈夫。術なんか使えなくても、泰明さんは泰明さんじゃないですか」
「あかね・・・」
「私は泰明さんが傍にいてくれればいいんです」
これでやっと幸せになれる、と思った。
さすがに何もしないわけにはいかないと思った泰明は、絵を描き始めた。
目の前の景色を閉じ込めたかのような絵は、瞬く間に人気になった。
景色だけでは飽き足らず、姿絵をせがむ者もいる。
泰明の絵は、特に女性に好まれた。
請われて貴族の屋敷に出向く泰明を見送りながら、あかねは後悔していた。
私は自らこんな結果を招いてしまった。
陰陽師なら女性の相手をしなくても良かったのに。
泰明は見目麗しいから、誘われることも多いだろう。
それに応じることはないだろうが、やはり嫌だった。
他の人を見ないで。
その瞳に、私以外の女を映さないで。
「浮かぬ顔だな」
「龍神・・・」
「まだ満足せぬのか?」
「だって嫌なの!泰明さんが私以外の人を見るのは!」
「・・・泰明が見ているのはお前だけだろう?他の者は、景色と同じだ」
「分かってるけど!でも不安なんだもの・・・・」
「神子が望むなら・・・・」
龍神が何事か囁く。
あかねの瞳に暗い炎が灯る。
「よいのか?」
龍神は念を押した。
「いいのよ」
あかねは微笑んだ。
次の日。
「あかね?あかね!」
悲鳴に近い泰明がの声に、あかねは駆けつけた。
「どうしたんですか!?」
しかし泰明は、あかねの方を見ない。
「目が・・・」
「目が?」
「見えないのだ・・・。闇ばかりが広がっている。お前の姿さえ見えぬ・・・」
消え入るような声。
か細い肩。
幼い子供のようだった。
あかねは近寄り、泰明の手を握る。
「大丈夫。私がいるじゃないですか」
「私は盲になってしまった・・・。術も使えず、目も見えず・・・。そしてあかねを見ることさえ叶わぬ・・・」
あかねは繰り返した。
「大丈夫・・・。私はずっと泰明さんの傍にいますから・・・」
「いいのか?」
「だって愛しているもの」
貴方がいけないの。
私から逃げるから。
だから羽をもいだ。
だから瞳を潰した。
あかねは口の端を歪める。
それを泰明が見ることは、永遠にない。
貴方は私の可愛い小鳥
鳥篭の中の可愛い貴方
貴方は私だけのもの
雅音サマのリクで「力が使えなくなって、目も見えなくなる泰明さん」でした。
八葉時代にしようか迷ったのですが、より暗くするためにこっちに(笑)
あかねちゃん壊れちゃってますねー。
こんなんでよろしかったでしょうか?
リクありがとうございました。