「ちゃ〜ん。久しぶり〜。元気にしてた?」
片方しか出ていない目でウインクしてきた彼は、この部屋にはおよそ不釣合いだった。
「そこに座ってください」
「・・・相変わらず冷たいね」
彼は肩をすくませて、傍にあった椅子に腰掛けた。
上忍と暗部の人間は、精神科での月一回の診察が義務付けられている。
なぜかと言えば、彼らは命のやり取りをするからだ。
人の命を奪う代償は大きい。
例えそれが仕事であっても。
自分で気づいてなくても、確実に心は蝕まれてゆくのだ。
彼―はたけカカシは、銀髪の髪に引き締まった白い体躯。
多分端正なのであろう顔は、額あてと口布で殆どが見えない。
晒しているのは右目だけ。
額あてで隠されている右目は、私は見たことはない。
カカシさんのお喋りは、まだ続いていた。
「仕事終わった後、ラーメンでも食べない?」
「食べません」
「何で〜?いつも断るよね」
「じゃあ、どうして貴方は断られると分かっていて誘うんですか?」
「ちゃんとデートしたいから」
「そうやっていつも口説いてるんですか?」
「そんなことしてないよ。君だけだよ」
精一杯真面目な顔をしてみせた彼に、私はため息をついた。
「この前も女の子を捨てたでしょう」
「そんな人聞きの悪い」
「友人が泣きついてきました。これでもシラを切るんですか?」
「・・振られたのは俺だよ」
「確かにね。でもそう仕向けたのは貴方でしょう?」
図星のようだった。
彼は一瞬目を丸くし、それでも平静を装って言った。
「何でそう思うの?」
「いつも同じパターンだからです。それに別れるまでが早すぎるし、新しい恋人を見つけるのも早い」
もう言い逃れできないと思ったのか、彼は重そうに口を開いた。
「・・・その通りだよ。女の子といるのは楽しいけど、いつも何かが違うと思ってた。どこかで冷めてる自分。これは本物の恋ではないのだと」
「じゃあ、本物の恋って何ですか?」
てっきり同情されるか、励まされるかすると思っていたのだろう。
私の質問に、彼は言葉をなくした。
「そんなのワガママです。貴方と付き合ってた女の子にとっては、本物の恋だったのかもしれないんですよ?」
「それは・・・」
これ以上嫌な女になるのは嫌だったけど、私はやめられなかった。
せめて医者らしく諭せば良かったのかもしれない。
でも無理だった。
言いようもない不快感だった。
「貴方は逃げてるだけだからいいかもしれないけど、付き合った女の子達は確実に不幸になるんですよ」
「お前に何が分かるんだよ!」
見たこともない、怒りの表情。
荒げた声。
「・・・・」
私は言うべき言葉も見つからず、ただ彼を見つめた。
「なぁ、あんたに何が分かるっていうんだ?俺みたいに、いつ死ぬか分からない人間の気持ちが」
「・・分かりません」
怒りはとりあえず収まったのか、激しい感情はなりを潜めた。
その代わりに歪んだ笑みを浮かべる。
「女の子に怒鳴ったのなんて、初めてだよ」
「・・・・」
カカシさんが立ち上がる。
「・・・君を見てるとね、壊したくなるんだ」
「貴方には無理です」
「試してみる?」
カカシさんの顔が近づく。
唇が触れ合いそうになる。
私は動かない。
視線が絡み合ったが、それはとても冷たいものだった。
キスする寸前で彼は呟いた。
「・・・まるで人形だね」
そう言って、彼は体を離して背を向ける。
「帰るよ」
「また一ヵ月後に来てください」
「・・・・・」
ドアは閉められた。