佐伯に会いに警察署に行くと、丁度面会室から出てくる所だった。
「ああお二人さん。わざわざごめんね」
「どうせ暇やし、気にせんといてや」
「何かわかったことはあった?」
「被害者は全員水商売なんやろ?」
「そうなんだよ。昨日分かったんだ。遺族はこういった仕事を隠したがるからねぇ。いや、本当に知らないのか・・・・」
「店は全部固まってる。犯人は近所に住んでる奴やろ。客かもしれない」
姫条がそう言うと、佐伯は苦虫を噛み潰したような顔をした。
「客・・・か。でももし客だとしても、見つけるのは難しいなぁ」
「何でやねん?」
「常連の顔を聞いたとしても、特徴だけで同一人物を探し出すのは困難だよ。よっぽど記憶に残る顔でもしてないとね」
「写真があるわけでもないしな・・・」
「そやかて、目撃者もおらんし、他に方法がないやろ?聞きまくるしかないやん」
「・・・うん。そうだね。僕達が諦めたらおしまいだ」
「おーその意気やで!で、どうなん?御堂って人は?」
「それがね・・・もう疲れたって言うんだよ。もう罪を認めて楽になりたいって・・・」
佐伯は視線を落とす。
姫条はそれを見て一瞬悲痛の表情を浮かべたが、笑顔を作り、佐伯の背中を叩いた。
「なーにいっとんねん!本人がそんなんじゃ犯人なんてみつからへんで!?俺たちの苦労はどないなるっちゅーねん」
「姫条君・・・」
「そのおっさんに言うといてや。俺らタダ働きさせたら許さへんってな!」
「まったくだ」
珍しく葉月も同意する。
「二人とも・・・・。伝えておくよ」
「頼んだで。ほな、俺らも行くか」
「店に・・・か?」
「当たり前やん。ほなまたな!」
「頑張ってくれ!」
縋るような佐伯の視線に見送られながら、二人は警察署を後にした。
「あぁこの前の子たちだね。今日はどうしたの?」
被害者のうち二人が働いていた店に顔を出すと、花束を捧げていたバーテンがいた。
まだ開店には早い時間なので、彼以外の人影はない。
「あの・・殺された二人に通ってたお客さんって分かります?」
「うーん・・・二人とも人気あったからなぁ」
「様子がおかしいとか、入れ込みすぎてた客はいませんでしたか?」
葉月が聞くと、バーテンは何かを思い出したようだった。
「そういえば一人いたよ。開店と同時に来て、閉店までずっといるんだ。二人のうちどちらかを指名してね。本気で熱をあげていたみたいだった」
「それは毎日ですか?」
「いや、週に一回だ。学生っぽかったから、お金なかったんだろう」
「学生?」
姫条が顔をしかめたのを見て、男は笑った。
「ああ違うよ。高校生じゃない。大学生とか浪人生って感じだったな」
「ホステスのお二人は、どんな風に対応していましたか?」
「やんわりと断っていたよ。お客さんとはつきあえない、とね。それでも彼は諦められないみたいで、色々プレゼントもしていたようだ」
「でも二股なんやろ?純情なんだか、気が多いんだか・・・」
「本当にね。二人もそう思ってたみたいで、本気にしていなかったようだ」
「その人は今どうしてます?」
「二人が死んでから一度だけ来たよ。他の子を指名もせず、一人で酒を飲んで帰っていった」
「もう来てないんですか?」
「うん。それきり見てないな」
姫条は葉月の腕を掴み、後ろを向かせた。
そして男に背を向けながら、ひそひそ話をする。
「一番あやしいんはその男やな」
「まぁ普通に考えればそうだな」
「ストーカー殺人か?」
「それとは少し違う気がする。相手が5人もいるしな」
「じゃあやっぱちょっと変な客なだけか・・・?」
「そうしたんだ?二人とも」
バーテンに声をかけられ、二人はびくっと震えた。
「あ、あぁすんません。その男の特徴って分かります?」
「うーん・・・・最近見てないしなぁ」
「どんな些細なことでもいいですから」
こめかみに手をやって、考え込んでいたバーテンは、ふいに何かを思い出したようだった。
「そういえば、葛西君って呼ばれてた気がするよ」
「マジですか!?」
名前が分かるなんて。
これは大収穫だ。
「何回か二人に聞いたことがあるから、間違いないと思うよ。でも名前以外は、これといって特徴はなかったなぁ。どこにでもいる学生って感じ」
「髪型とかは?」
「男にしては少し長めだった。結ぶほどじゃないけど。黒髪で、真面目そうな」
「真面目なんが、思いつめると大変やねん・・・」
姫条がぼやくと、葉月も頷いた。
お礼を言って帰ろうとした時。
急に男が声をあげた。
「あ!」
「な、なんですか?」
「いつも白いシャツに白いズボンはいてたよ」
「いつも?」
「うん。何かこだわりがあったのかな?」
これ以上はバーテンも覚えていないようなので、二人は手厚く礼を言い、店を後にした。
「・・・何興奮してるんだ」
「名前まで聞けると思わんかったやろ?これは大きな前進やでぇ」
姫条はスキップでも始めそうだ。
「でも違うかもしれないだろ?」
葉月が水をさす。
「そりゃそうやけど。このままタウンページでも見て、葛西に会いに行くか?」
「ダメだ」
きっぱりと否定した葉月に、姫条が不機嫌そうに問い返した。
「なんでやねん」
「下の名前も分からないし、しらみつぶしに当たるのはリスクが高い」
「めんどくさいだけなんとちゃう?」
「・・・帰っていいか」
「う、嘘やって!怒らんといてや!な!?どうしてそう思うのですか?」
慌ててバカ丁寧に質問する姫条にため息をついてから、葉月は続ける。
「もし葛西が犯人だった場合、噂を聞きつけたら逃げ出すかもしれない。それに犯人かと聞いて、正直に答えると思うか?」
「うっ・・・思わへん」
「証拠は何もない。裏をきちんと取ってからの方がいい。・・・それか、次の犯行を待つか・・・」
「次の犯行?」
思いがけない言葉に、姫条は目を丸くした。
