夜道をぶらぶらと二人は歩いていた。

「ほんまにこんなんでええんか・・?」

「・・他に方法がない」

葛西と名の付く住民を、張り込みをして顔を確かめた。

しかし、この男が犯人だという証拠はどこにもないし、男が夜に出かける様子もない。

仕方なく、この家の近所を見回りしているのだ。

「ほんまに次の犯行なんてあるん?せっかく犯人をでっちあげたのに?」

姫条は早くも飽き始めていた。

「連続殺人犯は、衝動が押さえきれなくて、次の犯行をする。もうそろそろ我慢できなくなる頃だ」

「でもそしたら御堂が犯人やないってバレるやんけ」

「手口を少し変えるんじゃないか。今まで放置してた死体を埋めるとか・・・」

「どっちにしても葛西が犯人やないんかなぁ?動く気配はないし。今日はまだ帰ってきてへんかったけど」

自分たちの推理は間違っているのだろうか?

葉月が思考を巡らせかけた時。

「こっちよ・・・」

唐突に微かな声がした。

「え?」

「どうしたんや?」

急に声を出した葉月に、姫条が怪訝そうに問い掛ける。

「今、声がした」

「俺は喋ってないで?」

「女の声だ」

「はぁ?」

「早く。こっちよ・・・」

さっきの声は、今度はっきりと聞こえた。

姫条にも聞こえたらしい。

「行ってみよう」

「マジか!?幽霊かもしれへんのやで?」

「俺たちに何かを見せたいんだよ」

姿は見えない。

が、定期的に囁くような声が聞こえてくる。

それを頼りに、二人は夜道を歩いた。

「ここよ・・・」

そこは真っ暗な神社だった。

明かりもなく、鳥居がぼんやりと見える程度だ。

いや、遠くで小さな明かりが見えた。

「誰かおる!」

幽霊のような白い服を着た男。

足元には倒れた女。

間に合わなかったか。

「待て!」

姫条が大声をあげると、男は驚いた風もなく、ゆっくりと振り向いた。

「あれー?バレちゃったー?」

まるでいたずらが見つかったかのような気軽さで、男は答える。

「・・・なんやて?」

「うまくいったと思ったんだけどなぁ」

「やはりお前がやったのか」

「んー?そうだよー。それが何か?」

「何かって、お前・・!お前のせいで何人も死んで、しかも罪のない人まで捕まってんやで!?」

「あの女たちが死んで、誰が困る?」

姫条はカっとなった。

「もっぺんいってみぃ!」

「おーやだやだ。お兄さん恐いなぁ」

「・・・警察に通報する」

葉月が静かにそう言うと。

男は微笑んだ。

「それは困るね。だから君達には死んでもらわなきゃ。埋める死体が二つ増えるだけだしね」

手には鉈が握られていた。

被害者を解体する為に持ってきたものなのだろう。

「お前、最低野郎やな。いっぺん死んでこいや」

「死ぬのは君たちだよ?」

一瞬だった。

前フリも何もなく、男が間合いを詰める。

慌てて葉月と姫条は横に飛び、刃は二人の間を切った。

このような人間は危ない。

次に何をするか分からないからだ。

理性は何もなく、ただ快楽に従って動くだけ。

しかも得物はバタフライナイフなどのオモチャではない。

肉を切断するために作られた鉈なのだ。

いくらこちらが二人とはいえ、かなり分が悪そうだった。

「くそっ!」

姫条が悪態をつきながら、何とか鉈を手放せようとする。

しかし蹴りは空をきり、逆に窮地に立たされる。

そこへ葉月が割って入り、男の顔面を殴ったが、まるでダメージは与えていないようだった。

「ターミネーターかい・・・」

軽口を叩いたが、恐怖は消えそうになかった。

濃くなってくる死の匂い。

確実にそれが分かる。

「僕、優しいからさ。一発で頭を割ってあげるよ。男の命乞いを聞いても楽しくないしね」

その時だった。

一陣の風が吹いたかと思うと、それは突風になった。

葉月と姫条は吹き飛ばされて尻餅をつき、風の強さに思わず目を瞑る。

ドンという地響きと、ぐえっという蛙を押しつぶしたような声に目をあけると。

殺人鬼は、倒れてきた木の下敷きになっていた。



「二人ともほんとにありがとう!大手柄だね!」

佐伯が抱きついてきそうな勢いで、喜んでいる。

あの後警察に通報し、男は捕まった。

倒れていた女性は気絶していただけらしく、命に別状はなかった。

御堂は目出度く無罪放免となり、二人はこれ以上ないくらい感謝された。

「動機は何だったん?」

「それがね何か浄化だ、とか言っててさ。汚れた女たちに裁きを与えたんだって。俺は振られた腹いせだと思うけど」

「そりゃ同感や。そんなんで殺された人達は、やりきれんな」

「・・・・そうだな」

「でもさ、どうして木が倒れたんだりしたんだろ?台風でもないのに」

佐伯が首をかしげる。

それを見て、葉月と姫条は顔を見合わせた。

「そうだ。お礼したいんだけどさ、何がいい?とりあえずご馳走させてよ。君たちがどうやって犯人見つけたのか聞きたいし」

「礼なんて別にいらんで。それに」

「それに?」

「調査方法は企業秘密や!」

姫条はそう言って笑うと、葉月と共に駆け出した。

「あ、ちょっと待ってよー!」

警察署に、佐伯の声だけが響く。



「なぁ、俺らを助けてくれたんは、きっと・・・・」

きっと、の後は何も言わない。

しかし葉月には分かった。

「俺も・・・そう思う」

花束を置いて、二人はその場を後にする。


さわさわという木々が鳴る音に混じって。

「ありがとう」という声が、確かに聞こえた。

  あとがき