時々どうしようもない歳の差を恨む
変えようのない立場を恨む
細い目を更に細くして、カカシはクガネを睨んだ。
「俺に挨拶はないわけ?中忍のクガネ君」
たっぷりの皮肉が込められている。
大人気ないと言うなかれ。
普通、立場の上の者に挨拶をするのが常識だからだ。
しかも、目の前で恋人を口説かれてはたまらない。
クガネは初めて気づいたかのように、カカシの方を見やり、うやうやしく(嫌味っぽかったが)頭を下げた。
「これは失礼しました。はたけ上忍、よろしくご指導お願いします」
ムカムカしてきたカカシは
「今日はこれで解散!任務の際は連絡する。遅刻は厳禁だ!」
と言い放って、の腕を掴んだ。
「帰るぞ」
「えぇっ?もう?」
「いいの!」
カカシにずるずると引っ張られていくを見ながら、クガネは口だけを笑みの形にした。
次の日の朝早く。
の家のドアが叩かれた。
「ふわ〜い?」
目をこすりながら、寝ぼけ眼で扉を開けると。
「おはようございます。さん」
クガネが涼しい笑顔で、佇んでいた。
一気に目が覚めたは、ずさぁっと後ろに飛びのいた。
「な、何か用?」
「パンを焼いたので、朝食にいかがかと思いまして」
言いながら、籠を差し出す。
焼きたてパンのいい匂い。
はふらふらと引き寄せられていき、籠を受け取ってしまった。
隅の方に焦げ茶色のソースがかかった物体を発見する。
「あ、プリンだ!」
「甘いものはお好きですか?」
「大好きv」
にへら〜と微笑んで言ってしまってから、しまったと思った。
完全に食べ物につられてしまっている。
慌てて緩んだ顔を引き締めた。
「何でこんなことしてくれるの?」
「好きだからですよ」
「料理が?」
「貴方がです」
たっぷり三秒ほど考えた後。
また、ずさぁっと後ろに飛ぶ。
籠は持ったままだ。
それを見て、クガネがクスクスと笑った。
「忙しい人ですね」
「あ、アタシ付き合ってる人いるから!」
「知っていますよ。はたけ上忍でしょう」
「何で知ってんの!?」
驚いて聞いてしまった後に、これじゃ肯定したのと同じだと気づいた。
「私は貴方をずっと見ていたのですよ?」
「・・・じゃあ私が何て答えるかも分かってるでしょ?」
「無論です。しかし、人の心など移り気なものですからね」
「浮気なんかしないよ」
「浮気をする必要はありませんよ」
クガネの真意を計りかねて、は眉をひそめた。
「どーゆー意味?」
「私が欲しいのは、貴方の本気なのですから」
「・・・!」
この自信はどこからくるのか?
かっこいいのは認めるが、カカシから乗り換えようなどとは、髪の毛の先ほども思わない。
「今日はこの辺で退散しますよ。可愛らしいパジャマ姿も拝めたことですしね」
「へ?あ!」
言われて初めて、は自分がパジャマのままなことに気づいたのだった。
全く今日は失態だらけだ。
クガネは嫌味なくらい、仕事もよくできた。
失敗したらせせら笑ってやろうとしていたカカシは、機嫌が悪い。
しかも、隙あらばに話し掛ける。
だから、クガネをから引き離すために、カカシは異様な速さで任務を片付けた。
このチームの任務達成の素早さは、ちょっとした噂になったほどだった。
そんなことが続いたある日。
任務が終わった後、カカシは火影に呼び出された。
至急来てくれ、と言う。
正直、この二人を残していくのは非常に嫌だったが、火影の命令なら仕方ない。
「真っ直ぐ家に帰れよ。いいな!?」
遠まわしにクガネに警告を出し、カカシは火影の元へと向かった。
「小さな子供にする注意みたいですね」
「・・・ほんとにね」
「彼としては、あからさまに言えないのでしょう。秘密ですからね」
の体がピクっと動いた。
クガネはなおも続ける。
「それでいいのですか?」
「・・・何が?」
「このような人に言えない関係で。まるで愛人ではないですか」
「違う!」
は叫んで、クガネを睨みつける。
しかし、視線に力はなかった。
クガネがの頬を撫でる。
「では何故貴方は怯えているのです?」
「っ・・・!」
は思わず、身を引いた。
それを見て、クガネは意地悪く笑う。
「怖いのでしょう?この関係は口に出したら壊れてしまうから」
「違うもんっ!」
「彼は貴方をいいように利用しているだけなのです。そして貴方は禁断の恋に惑わされているだけ・・・」
はたまらなくなって、クガネの言葉を遮った。
「やめてよっ!何なのよアンタ!どうしてそんなことばっか言うの?!」
「私はサディストですからね。好きな人を追い詰めるのが好きなのです」
「・・・おかしいよ」
「今のは冗談ですが。私は真実を告げているだけですよ。貴方を傷つけたくはありませんが、真実は痛いものなのです」
クガネはそこまで言うと、ではまた、と姿を消した。
「違うもん・・・・」
言った言葉は、酷く頼りなかった。
急いで帰ってくると、はカカシの家にいた。
クガネは特に何もしなかったと言う。
「アイツいつまでいる気なんだろうな」
「・・・そだね」
「隙がないトコがむかつくな」
「・・・そだね」
「?」
「・・・へ?」
さっきから生返事ばかり返しているを見やる。
「疲れてるのか?」
「違うよ。何でもない」
はふるふると首を振ったが、何でもないようには見えない。
「今は二人なんだから、甘えたっていいんだぞ?」
そう言って、キスしようとしたが。
「やっ!」
は無意識にカカシを押しのけて、はっとしたように見つめた。
「・・・ごめん」
そのまま立ち上がって、部屋から出て行ってしまう。
「おい!!?」
クガネがきてから何かが狂った。
「クソっ」
一人きりの部屋で、悪態をついた。
「新チームは上手くいってるみたいだな」
「どこが」
ぶすっと答えたカカシを、アスマは面白そうに見やる。
「ご機嫌斜めだな。最速記録樹立だぜ?」
「んなの嬉しくもなんともねーよ」
「あの子、ビジュアル系でかっこいいわよね〜」
アンコが珍しく、夢見がちに言う。
「あーゆーのが好みなわけ?そんなに好きならお前にやるよ」
いまいましげに言うと、カカシは乱暴に扉を開けて部屋を出て行った。
「何怒ってんのよ?」
首をかしげるアンコに、アスマが耳打ちした。
「カカシは元の二人っきりがいいんだとさ」
店から出たクガネは、前方に銀髪の人間を見つけた。
「これはこれは。私に御用ですか?」
「に何をした?」
「何もしていませんよ。・・・今のところはね」
「何だと?」
カカシから殺気が放たれる。
「全ての原因は貴方ですよ。私ではなくてね」
クガネが全てを見透かしたような瞳で、カカシを見た。
「・・・俺が原因だと?」
「私はそれを利用しているだけです。気づいていないのなら、案外簡単にいきそうですね」
「・・何を企んでる?」
「企んでるなんて人聞きの悪い」
「じゃ、何が望みなんだ?」
「私はたださんが欲しいだけですよ」
「・・・アイツは俺のだ」
クガネは笑みを崩さない。
「いつまでそう言っていられるでしょうね?」
クガネに向かってクナイが投げられたが、それはただ壁を縫っただけだった。
姿形も残っていなかった。
任務中カカシは急に呼び出され、火影の元へ行った。
はどんな顔をして会っていいか分からなかったので、正直助かった。
無言で任務をこなすが、心ここにあらずだ。
時間だけが過ぎていく。
いつもの倍以上も時間がかかって、もうすぐ終わるという時。
「真実は見えましたか?」
クガネが囁く。
は顔をしかめた。
それを、戻ってきたカカシが見つけた。
またちょっかい出しやがって!と飛び出しかけると、の声が聞こえて足を止めた。
「あんたと付き合わないってことだけは、確かだよ」
「まだそんなことを言っているのですか?」
「何回でも言ってあげるよ。アタシが好きなのはカカシ先生なの!」
「それが擬似恋愛でも?」
怒るかと思われたは、しかしニヤリとする。
「アタシは先生だから好きなんじゃない。はたけカカシだから好きなんだ」
「・・・そうですか。恋人より地位を取る男を?」
「そりゃ私だって秘密は嫌だよ。堂々と腕組んで歩きたい」
の顔を見て、カカシは思いの他このことを悩んでいたことを知った。
不安にさせていたのは、自分だったのだ。
クガネの言うとおりだった。
しかし、次の言葉で我に返った。
「でも、そんなこと我慢できるくらい好きなの!先生のお荷物になりたくないの!立場が問題なら、私が上忍になってやる!」
いきなり話が飛んだので、カカシは思わず笑ってしまった。
それを聞いて、二人が振り返る。
「先生・・・」
「ごめん。お前がそんなに気にしてると思ってなかった・・・クガネの言う通りだ」
「そ、そんなのいいんだって!今の話嘘だから!」
「俺が好きなのも嘘?」
「それは嘘じゃ・・・ないけど」
「もういいよ。世間体とか地位とかどうでもいい。堂々と、俺の恋人はお前だって言うよ」
「ダメだよ!」
「何で」
「だって・・・みんなに色々言われるよ・・・」
カカシはトンとのおでこを突付いた。
「言いたい奴には言わしとけ。そんくらいじゃ俺らの愛は揺るがないだろ?」
「先生・・・・」
は感激して泣きそうになっていた。
そのままカカシに抱きつく。
カカシは頭を掻いた。
「あーもう、こんなクサイセリフ言うつもりなかったんだけど。ガイみたいじゃん」
そんなラブラブな雰囲気を醸し出した二人に、水をさすような声が聞こえた。
「御二人共、私がいることを忘れていませんか?」
「あっ」
慌ててが離れ、カカシも決まりが悪そうに顔をしかめる。
「私はただのかませ犬って所ですね。・・・ではこうしましょう」
クガネは不敵に微笑むと、素早くの唇を奪う。
それは一瞬のことで、今のはただの風だ、と言われても信じてしまうくらいの、掠めるほどのキスだった。
「手前っ!!」
カカシはあまりの大胆不敵さに殺気だったが、当のされた本人は呆気に取られてぽかんとしていた。
「これぐらいは正当な報酬だと思いますが?」
クガネはいけしゃあしゃあと言ってのける。
「はたけ上忍と別れた暁には、是非ご一報ください。私はいつでも待っておりますので」
優雅に腰を折って一礼をすると、クガネの姿はすうっと掻き消えた。
やっと我に返ったらしいが、ぽつりと言う。
「なんか・・・嵐みたいだったね」
「んな可愛いもんじゃねーよ。次見かけたら、シメてやる」
カカシに不似合いな、穏やかでないセリフだ。
「何でそんなに機嫌悪いの?」
不思議そうにが問うと、カカシは自分の口布を乱暴に押し下げた。
そしていきなりに唇を重ねる。
「んっ・・」
は目を見開いたが、すぐに身を任せた。
「消毒!」
言ったカカシの顔は赤い。
恥ずかしそうな怒ったような表情をしているこの男が可愛くて、は幸せな気分になった。
こんな顔をするのは、きっと自分の前でだけだろうから。
「もうおしまい?」
「バーカ」
カカシは笑って、またキスを落とした。
「溶けちゃうくらいキスして」
年の差よりもキスしたら
きっと気にならなくなるよね