何年前だったのか、それすら定かではない。
きっとあの子供も、覚えていないだろう。



任務が終わった帰り道。
月は嫌味な程に輝いており、服にかかった返り血を夜の闇に浮かび上がらせていた。
待っている者もいない気楽な身なので、ふらふらと寄り道しながら歩く。
本当なら隠れるように行動しなくてはいけない身分なのだが、この時間なら見ている者もいない。
街から少し外れると、田んぼや畑などの長閑な風景が広がる。
その子供を見つけたのは、ほんの偶然だった。
目を凝らさないと分からないくらい、周りに溶けてしまっていたから。
気まぐれに声をかけたのは、ススキと一緒に揺れていた、その金色の髪のせいかもしれない。
「何してんの?」
急に私が現れたというのに驚くでもなく、ぼんやりとこちらを仰ぎ見る。
「おつきみだってばよ」
「月見?」
「きょうはじゅうごやなんだって」
言われて空を見上げれば、確かに満月だ。
しかし、こんな幼い子供が月見をするには、時刻が遅すぎる。
付き添いの姿もない。
「おにーちゃんは、なにしてんの?」
「え?」
一瞬分からなかったが、おにーちゃん、とは私のことらしい。
確かに面をつけていては、性別も分からないだろう。
「おまつり?」
面を指す。
「・・・違うよ。お仕事だったの」
「ふーん。ね、なんのかおなの?」
「猫だよ」
「ねこかぁ。ぼくねこすきだよ。おにーちゃんもすき?」
屈託のない笑顔で聞いてくる。
好きか、と言われても分からなかった。
これは四代目がくれたもので、自分で選んだわけではない。
「お前だとすぐ分かるように」
と四代目は言っていたが、それが逆に同僚と私を隔てた。
「・・・猫はね、仲間はずれなんだよ」
私がいきなり変な話をしだしたので、子供は面食らったようだった。
「なんで?」
「本当は干支になるはずだったのに、なれなかったの」
「えと?」
「申年、とか戌年とか言うでしょ?それが干支」
面は普通干支の動物の顔である。
そして猫は干支にはなれなかった。
暗部にならせたくなかったという四代目の気持ちを表していたのかもしれない。
今となっては分からないが。
「どうしてなれなかったの?」
「・・・みんなに意地悪されたんだよ」
面越しでも分かる奇異の視線。
腫れ物を扱うかのような態度。
干支をかせられなかった異端の人間。
それが現実だ。
「・・・ぼくもねこだってばよ」
子供がぽつりと呟いた。
「・・・?」
「なかまはずれなの。みんないじわるするの。ぼくなにもしてないのに」
子供の顔が曇る。
やっと気づいた。
この子は九尾の子だと。
四代目の命と引き換えに、存在している子供。
よく見れば、四代目の面影を宿している。
「だから一人でいるの?」
「うん。ずっとひとりぼっちなの」
「・・・・」
「ねぇ。ぼくにいきてるいみなんてあるのかな?」
5歳足らずの子供が言うセリフではない。
子供は傲慢な生き物のはずだ。
自分の為に世界が回っている。
でもこの子は。
「しんだほうがいいのかな?」
「誰かがそう言ったの?」
「・・・おまえさえいなければっていう。しんでいまえばいいのにって」
「殺してあげようか?」
子供が私を見る。
空のような、あの青い瞳で。
「うん」
私は手を伸ばし、そして引っ込めた。
「ダーメ。そんなセリフはね、嫌な奴らを見返してから言いなさい」
何のことはない。
自分の幼い頃と、この子供を重ね合わせてしまったのだ。
四代目は私を助けた。
だから四代目が希望を託したこの子供を、私が助けなければいけない。


なんてのは言い訳で。
四代目は私を殺してくれなかった。
だから私も叶えてあげない。


「・・・いじわる」
私は笑いながら、子供の頭をくしゃっと撫でた。
「猫はね、気まぐれなんだよ」

ここから先は、何故か覚えていない。



窓の外では、カカシ先生がナルトと話している。
久しぶりに会った上忍に、興奮気味に近況を話すナルトを眺める先生の目。
戻らない日々を想う様な。
切なく悲しい目。
誰もがナルトに四代目の幻影を見ている。
英雄への思慕。
そしてそれは九尾を宿す子供への憎悪へと変わる。
信頼している上忍にまでそう見られていると知ったら。


あの日、私に殺してと言った子供は、色んなものを乗り越えて元気に生きている。
でも。
そのうち里の人間の視線の意味に気づくだろう。
そう思うと、あの子供が少し不憫になる。


まるで呪いのように、亡霊の影を背負い続けるナルト。
その重さに耐え切れなくなって。
もがきながら散っていくのだ。




あの子の人生には
きっと幸せなどない