ねぇ泣かないで
任務が終われば、いくら暗部といえども多少は気が緩む。
一緒にチームを組んだ男二人が喋っているのを、聞くとはなしに聞いていた。
「そーいやさ、カカシさんが狙われてるって噂知ってる?」
「あー聞いた!どこぞの大名が、暗部雇ってまで付狙ってんだろ?何が理由なんだ?」
「フラれた腹いせらしいぜ」
「・・・まぁ美人だもんな。あの人」
が、一人の腕を掴んだ。
男がビクっと震える。
「それ本当?」
「え?あ、ああ・・・。結構有名だぜ」
「どこの大名?」
「俺は知らないけど・・・波の国って言ってたかな?」
「・・・ありがとう」
礼を言うと、はスっと闇に溶けて消えた。
残された二人はぽかんと口を開けたまま、何もない空間を見つめていた。
「俺、羅刹女が喋るの初めて聞いた」
「俺も」
猫の面をつけた暗部の女・・・は、羅刹女という通り名で呼ばれていた。
羅刹さながらの残酷さで相手を殺し、敵は死の瞬間その美しさに見惚れると言う。
誰も素顔を見たものはいないというのに。
次の日の朝。
「最近身の危険を感じたりしない?」
「は?しないけど?」
「本当に?」
「お前が俺の命狙ってんなら別だけどな」
カカシが茶化してそう言うと。
「もーいいよ!」
は頬を膨らませた。
「里から出ないし、重要な任務もしてないしな。何、心配になったの?」
「・・・別に」
目を逸らして、言葉を濁した。
本人に聞いてみるのが一番だと思ったのに、これじゃ意味がない。
本当に気づいていないのか、嘘を言っているのか、そもそもガセネタだったのか。
調べてみないことには、始まらなさそうだった。
カカシ先生を傷つける者は許さない。
その日の夜から、は行動を開始した。
「変化!」
煙が身を包み、そこにはカカシが立っていた。
暗部の服だが、面はしていない。
「囮作戦が確実だよね」
カカシに変化したは、里の外目指して走り始めた。
関所を抜けた森の中。
気配が一つ。
闇の中に溶けている。
姿はまだ見えない。
「・・・はたけカカシ。命により始末する」
「誰の命令?」
「・・・笑止」
「やっぱ駄目か」
殺気が膨れ上がる。
闇夜に、白刃がきらめいた。
きっと男は何が起こったのか分からなかっただろう。
自分の居場所は殺気を発するまでは分からない筈で、その瞬間攻撃を仕掛けた。
はずだった。
なのに何故こいつは目の前にいる?
目を見開いたまま、男は事切れた。
心臓に突き立てた刀を抜く。
一振りして血を払い落としてから、小さく呟いた。
「・・・やっぱ狙われてんじゃん」
は毎夜のように出歩いては、カカシを狙う暗部を片付けていた。
大名が相当な数の忍を雇っているのか、それとも個人的に狙うものが多いのか。
殺した数は、十人を超えたあたりで数えるのをやめた。
戦いが好きなわけではない。
任務以外では、相手が仕掛けてこない限りは手を出さない。
もう数え切れないほどの命を奪ってきたのに。
私はいつまでも言い訳をしている。
殺したいわけではないのだ、と。
でも一方で分かっている。
他者の命を奪うことでしか、自分は生きていけないのだと。
忌まわしいこの力。
せめて愛する者の為に使おう。
彼がそれを望まなくても。
隣で眠るカカシに気づかれないように、そっと身を起こす。
静かにキスを落として、呟く。
「・・・ごめんね」
ぱたんと扉が閉まる音がし、は出て行った。
カカシはゆっくりと目を開けた。
