今日の相手は、暗部ではなかった。

額あてをしている。

マークは・・・木の葉。


「は、話すから!だから殺さないでくれ!」

腕を切り落とされた男が、必死で命乞いをする。

は口だけで笑って、男から刀を離した。

「聞いてやるよ」

「な、波の国の端にある領土の大名だ・・・!あんたを殺して連れてこいって、あちこちの暗部を雇ってる!」

「ふーん?」

「剥製にするとか言ってた・・・。とんだ変態だぜ。な、もういいだろ?」

男の顔は、今までの恐怖と助かるという安堵がないまぜになっていた。

「ごくろーさん」

ビュッっと音がし、次の瞬間には首が落ちていた。

「裏切り者には死を。それが忍の掟デショ?」

コイツに会ったのが自分で良かった、とは思った。


刺客はうんざりするほど涌いて出てくる。

これ以上相手してても仕方ない。

諸悪の根源を絶たなければ。

「今から行けば、朝には帰ってこれるか・・」

「あれー?カカシさん?何してんすか?」

あっけらかんとした声に振り返ると、見たことのある下忍が立っていた。

「・・・ちょっとな」

「任務っすか?上忍は大変っすね」

「・・・まぁな」

「でもラッキー。噂の写輪眼拝めるなんて!」

嬉しそうに言う下忍から、は顔を背けた。

「急いでるから」

「あ、すんません!頑張って下さい」

「ああ」

下忍がおじぎをして頭を上げたときには、もう誰の姿もなかった。



カカシはベッドから這い出した。

絶対におかしい。

は何食わぬ顔をしてごまかしているつもりだったが、カカシはすぐに気づいた。

傷の増え方が尋常ではない。

任務なら、謝る必要なんてない。

カカシは着替えて、夜の闇へと出かけてゆく。

何か隠してる。

笑えないようなことを。

が出て行ってから時間がたってしまったので、どこに行ったのか皆目検討がつかない。

忍犬に探させるか・・・

声がしたのは、その時だった。

「あれ?」

「?なんだお前か。夜遊びかよ?」

同僚の弟だった。

見た目は軽いが、性格はいい。

「何でまだいるんすか?」

「は?」

「さっき任務だって言ってたじゃないすか。あ、もしかしてもう終わったとか?」

「任務・・・?」

相手もしきりに首をかしげている。

「そーいや服も違うような・・・?見間違えたかな?でも写輪眼見たし・・」

「・・・どんな格好してた?」

「暗部の服だと思ったんだけどなぁ。あ、それにでかい刀持って・・」

言い終わるより早く。

「どれくらい前だ?!」

カカシが詰め寄る。

「え!?さ、30分くらい前だったと思いますけど・・」

「クソっ!」

呆気に取られる男を残して、カカシは全力疾走する。

素早く印を結んで、忍犬を呼び出した。

何を考えてる?

・・・!



大名の屋敷はひっそりとしていた。

数人いた見張りは、術で眠らせた。

一番奥の部屋で、大名らしき男が横になっている。

脂ぎってて腹黒そうな見た目は、大名に間違いない!と判断したは、刃を男の首に這わせた。

冷たさに男が目を開き、自分が置かれている状況を理解して息を呑んだ。

「か、カカシ・・・?」

「そーだよ」

「何しにここへ・・!?」

は薄く微笑む。

「そんなの自分が一番よく分かってるデショ?」

一瞬躊躇った。

殺していいものか、と。

仮にもこいつは大名だ。

木の葉と波の国の関係に影響があるかもしれない。

まして今はカカシの姿をしてる。

その躊躇いが命取りだった。

大名は見た目に似合わぬ素早さで懐から吹き矢を取り出し、に向かって吹く。

避けられる距離ではなかった。

矢は肩に刺さり、男は刀から逃げ出す。

「曲者だ!出あえ!」

チっと舌打ち一つして、が外に踊り出る。

どこにいたのか、ずらりと忍が辺りを取り囲んでいた。

部屋から出てきた大名が、鬼の首を取ったかのように言う。

「随分派手に暴れてくれたみただったからな。ワシが知らないとでも思っていたか?しかもお前はカカシではない」

「・・・・・」

「カカシは刀は使わない。ワシはカカシのことなら何でも知っているからな」

「キモ」

の呟きに、大名が額に青筋をたてた。

「そんな口が利けるのも今のうちだけだ。・・・やれ」

大名の合図と共に、一斉に敵が動き出す。

も刀を構え、疾った。

唇には、笑みさえ浮かんでいた。


何のためにここにいるのか。

何をしにここにきたのか。

断末魔の悲鳴をBGMに、そんなことを考えた。

飛び散る紅。

噎せ返るような血の匂い。

ああ、そうだった。

私は全てを壊すために、ここにいるのだ。


袈裟懸けに斬り、次に備えて構えを直す。

「っ・・・?!」

がガクンっと揺れた。

急速に体から力が抜けてゆく。

蹴りがまともに腹に入り、たまらず体を折った。

「動けんだろう?薬が効いてきたな」

大名が楽しそうに言う間にも、攻撃の手は緩まない。

手裏剣が、クナイが体に突き刺さる。

「さっきの・・・矢・・か!」

搾り出すように言い、大名を睨みつける。

「死にはしない。その毒だけではな」

大名が合図をし、攻撃を止めさせる。

くたりと崩れ落ちた。

意識が朦朧とし始め、変化が保てなくなる。

霧のような煙が体を覆い、は元に戻っていた。

「お主、女だったのか」

「・・・・」

大名がつま先での顔を上げさせた。

「猫の面・・・。木の葉の羅刹女か」

唐突に笑い出す。

「何が・・・おか・・しい?」

「人肉を喰らって生きるという羅刹が、こんな無様な姿になってるんだからな!おかしくないわけがあるまい?実に愉快な気分だ」

「・・・変態」

呟いたの顔を、大名が踏みつける。

「殺す前に、その顔を拝んでやるよ。死ぬほど美しいんだろう?」

「死ぬのはお前だ」

静かな声と、大名の喉笛が切り裂かれたのは同時だった。

二つ目の口が作られた喉から血が迸る。

大名は口をパクパクと開閉させる。

その視線の先に何を見たのか。

驚きと怒りと恐怖。

そして恍惚の表情を浮かべ、大名は事切れた。

声の主が告げる。

「・・・全員ぶっ殺す」



静かになった庭。

誰かがこちらに向かって歩いてくる。

重い頭を動かすと、月光に照らされて一人の男が立っていた。

全身に返り血を浴び、壮絶な美しさを放つ恋人。

思わず見惚れ、そして初めて怖いと思った。

先生が私を抱き上げて、屍が転がる庭を歩く。

軒先に腰を下ろした。

面をはずされる。

何で先生がここにいるんだろう。

ピンチの時に駆けつけるなんて、ヒーローみたいじゃんか。

私は彼に来て欲しかった?

来て欲しくなかった?

私の考えが分かったのか、先生が口を開く。

「変化したまま下忍に会っただろう?」

・ ・・ああ、あいつか。

「何してるんだ・・・?」

静かな問いかけだった。

「・・返り討ちにあって、先生に助けられた」

「そんなこと聞いてるんじゃない!」

「・・・・」

「ここの大名が俺に懸想してたのは知ってる。お前が俺の為にやったんだってことも、分かる」

一度言葉を切った。

「俺が喜ぶとでも思った?」

「思わないよ」

私の返事にイラついたのか、先生が声を荒げた。

「じゃあ何でこんな馬鹿なことするんだよ!?」

「・・・先生が好きだから」

先生は何かを堪えるように歯を食いしばって、そして叫んだ。

「こんなに傷だらけになって!死にかけて!お前は救いようのない馬鹿だ!」

「・・・・そーだね」

「何でお前はそーやって死にたがるんだよ!?」

「死ぬつもりなんてなかったよ」

「じゃあ何で一人で行った?こうなることくらい分かっただろ!?」

「だって私は命を奪いにきたんだもの」

「・・・?」

「先生だって、私に見せないでしょう?」

人を手にかける姿を。

知ってる?

私は笑いながら、人を殺すんだよ。

先生が俯いた。

「お前を失ったら、俺はどうすればいい・・・?」

声は掠れていて、聞き取るのがやっとだった。

生暖かい雫が、私の頬を濡らす。

「ねぇ・・・どうして泣いてるの」

「俺の為に・・・その手を汚さないでくれ・・・」

違うよ。

私は食事をしてるだけだよ。

今日はごちそうだったの。

「暗部なんてやめてくれよ・・・」

それは無理だよ。

私は心の中で言う。

血の色が。

匂いが。

味が。

私を狂わせるんだもの。

先生の傷口を舐める。

甘い味がする。

微笑んだ私を見て、先生の嗚咽が激しくなる。

柔らかい銀髪に髪を埋めながら、ぼんやりと考える。

貴方がいるから、私はまだ正気を保っていられる。

貴方がくれるキスは、とても甘いから。

キスしてる瞬間だけは、死の味を忘れていられるの。



私は人の血を啜って生きる羅刹

本当は食べてしまいたいけれど、貴方がいなくなるのは悲しいから

口付けだけで我慢するの

だから

血よりも甘いキスを頂戴

貴方を喰らわなくて済むように


26000hitのリクで「怒るカカシ先生」でした。
分かりにくいかもしれませんが、本気で怒ってる時って怒鳴るんじゃなくて、冷静になるじゃないですか。
そんなイメージで書きました。
すいません。
先に謝っておきます(苦笑)
明るく甘く終わるはずだったのですが、結局暗い話になってしまいました。
リク自体はとてもいいものなのに・・・。
カカシ先生が泣くのは、昔の自分と重ね合わせてるということに私の中ではなっています。
汐恵海サマ。リクありがとうございました。
ほんと、ごめんなさい!