小一時間程たった頃。
二人から電話がかかってきた。
温泉に行くらしい。
「俺らが見張りするんで、部屋でちょっと待っててください」
カカシが二人に注意をして、電話を切る。
「。行くぞ」
「うん・・・」
部屋の隅っこから力ない声が聞こえる。
復活してさっきまでは元気だったのだが、やはりトラウマになっているらしい。
「ホラ。別に外で見張ってるだけだから大丈夫だよ」
の腕を引っ張りながらカカシが言った。
「そーだよね?うん。平気!ありがと」
は笑ったが、どこか釈然としないものを感じていた。
ルミとタキの部屋の扉を叩いたが、中はシーンとしたままだった。
「入りますよー?」
カカシが声をかけたが、返事がない。
「どうしましたっ!?」
急いでドアを開け、ふすまを開くと・・・・
「うあ」
が思わず呟く。
目に飛び込んできたのは、ルミとタキのキスシーン。
「キャア!!」
カカシとに気づいたルミが悲鳴をあげる。
「す、すいません。声かけたんですけど、返事がなかったもんで・・・・」
「やだー。だからこんなところでダメって言ったのにィ。恥ずかしい」
「だってルミルミの唇がとってもおいしそうだったんだよ」
「もーダーリンったら☆」
「ハ・・・ハハ・・・」
カカシとの乾いた笑いが響く。
そこで唐突にルミが質問してきた。
「二人は着替えないの?」
浴衣に、という意味だ。
ルミとタキはもう浴衣を着ていた。
「この恰好でいることが、相手への牽制にもなりますから」
「・・・ふうん」
彼女はさほど興味なさそうに頷いた。
「なんかさーこんなとこで座り込んでると変質者みたいだよね」
「・・・・」
二人が座っているのは浴場の入り口。
露天風呂は危ないので室内にしてもらい、二人は入り口で見張っているわけだ。
ちなみにこの旅館は全ての浴場が混浴らしい。
今の所カップル以外に客はいない。
「温泉私も入りたいなぁ」
「お前も入ってくりゃいいだろ?そのほうが護衛も楽だ」
「・・・あそこに行けと?」
「覚悟があるならな」
「アリマセン。スイマセン」
「分かればヨシ」
とりとめのない会話をどのくらい続けただろうか。
ふいに中から言い争うような声が聞こえた。
「ダーリンのバカァ!!もう知らない!別れてやる!」
「勝手にすればいいさ!どこにでも行けよ!」
突然怒声がしたかと思うと、まずルミが走って出て行った。
続いてタキが。
泣いているルミに対して、タキは怒っている。
視線で見送ってから、二人は顔を見合わせた。
「喧嘩してるよ、オイ」
「これ以上あの会話聞かなくて済むならラッキーだろ?」
「そりゃま、そうだけど。でも・・・ルミルミ泣いてたし」
あんなに酷い目にあったのに、は心配しているらしい。
お人好しな奴だな、と思いながら、カカシはのセリフを繰り返した。
「泣いてたな」
「先生おっかけてきてよ」
「俺が?オマエのがいいんじゃないか?」
「こーゆー時は同姓はダメなの。悪口大会になっちゃうから」
「・・・そーゆーもんなの?」
「私はダーリンを説得すっからさ。これも仕事の内だって。善は急げ!」
二人とも素早く立ち上がると、それぞれが消えた方に向く。
そこでが振り返って付け足した。
「あ、くれぐれも口説いちゃ駄目だからね!!」
真剣な顔で言う彼女に、カカシは一瞬きょとんとしたが、すぐに笑みを返した。
「バーカ。分かってるよ」
廊下をしばらく行くと、薄暗がりにタキは立っていた。
他に人影はない。
「えっと・・・タキさん?ルミさんが心配してますよ」
の姿を見とめると、彼は口の端を上げた。
「君が来てくれるなんて、おあつらえ向きだな」
「・・・?」
タキがゆっくりとに近づいてくる。
「あの女なんて、どうでもいいんだよ。ずっと嫌気がさしてたんだ」
「そんな・・・嘘でしょ?」
「嘘じゃない。あんな年増より、俺は若い子のほうが好きなんだ。君のような・・・ね」
タキがの顔に触れる。
は動かない。
「仕事中ですから」
タキが薄く笑う。
「先生も今お楽しみ中じゃないのかな?」
「・・・・・」
の目がすうっと細くなった。
一方こちらはカカシ。
ルミは部屋で、顔を手で覆っていた。
「あのー、大丈夫ですか?」
「私を心配してきてくれたの?」
「え、ええ。まぁ・・・・」
「それは嬉しいわ・・・・」
顔を上げたルミの頬には涙の跡はない。
重大な間違いをしてしまったような不安が押し寄せる。
「・・・早く仲直りしたほうがいいですよ」
ルミが近くに寄ってくる。
「いいのよ。あんなつまらない男。それより貴方、殆ど顔を隠してるけど、美形ね?」
「・・・・・」
「顔を見せて頂戴?」
女の紅い唇が動く。
むせ返るような香水の匂い。
この香りは、麝香だろうか。
吐き気で眩暈がしそうだ。
「楽しみましょうよ」
「悪いけど、浮気はしない主義なんだ」
「・・・・そう。じゃ仕方ないわね。最後くらい楽しませてあげようと思ったのに」
「・・・どーゆー意味だ?」
ルミは微笑む。
「あの可愛らしい女の子も今頃やられちゃってるかもね」
カカシの中で、何かが切れた。
「!」
が振り向く。
「あ、先生・・・こないかと・・・思ったよ」
「俺が殺られるわけないだろ?」
「違うよ。そっちの意味じゃない」
が言おうとしていることを理解して、カカシは黙り込んだ。
は何事もなかったかのように、話し続ける。
「先生が倒しちゃいけないってゆーから、眠らせといた。手加減すんのって難しいね」
最後の言葉が言い終わるか終わらないかのうちに、カカシがを抱き寄せた。
長い・・長いキス。
「俺が愛してるのは・・・だけ」
「・・・男の人って、愛がなくても平気なんでしょ?」
「抱きたいのも、お前だけだよ」
「ほんとに?」
「ああ。いきなりどうしたんだよ?」
「だってルミルミ綺麗なんだもーん!」
「お、おい・・・・」
そんな理由かよ・・・と思いながらも、いつでも自信満々ならしくなくて、微笑ましかった。
「やっぱセクシーさじゃかなわないし・・・」
「人には好みがあるんだよ。男がみんなあゆーのがタイプなわけじゃない」
「そうなの?でもこんな任務、ずっとやってたんだろね・・・」
そう。
ルミとタキは他国の忍だったのだ。
護衛と偽って、自分たちを殺すつもりだったらしい。
何の為にかは分からなかったが。
「ま、後は上にまかせよう。そーだ。風呂入りに行こうぜ」
「私、露天風呂がいー!」
「ああ」
すっかり機嫌を直したを見て、カカシはほっとした。
タキとルミをイビキに引き渡して、二人は温泉に入っていた。
今ごろ二人は死んだほうがマシの拷問を受けているだろう。
「ねーセンセェ。星がキレイだよ」
「お前少しは恥ずかしがるとかしろよ」
「キャー先生のエッチー!ちかんー!・・・こんなん?」
「・・・俺が悪かった」
「あの二人は、全部演技だったのかな?」
「任務だからな」
「先生、色白いね」
また話が飛ぶ。
「オマエのが白いだろ」
「そーかな?」
しげしげと自分の体を眺めるを見て、カカシは眉をひそめた。
「こんな傷・・・あったっけ?」
丁度心臓の上に走る傷。
何かに引っ掛けたというよりは刃物で切った痕。
無意識に傷跡を指でなぞると、が身を捩った。
「やだ、くすぐったいよ」
「どうしたんだ?」
「うち父親が板前でさー。昔、手違いでまぐろと一緒に切られて・・・」
「どーゆー手違いだよ!」
「忍ならこの位不思議じゃないでしょ?先生も体中についてるじゃない」
「そりゃま、そうだけど・・・女の子なんだしさ。あんま傷作んなよ?」
口調はぶっきらぼうだったが、本気で心配しているらしいと分かって。
は胸が痛んだ。
でもすぐに笑顔になって、カカシに抱きつく。
「先生大好きーv」
「バっお前いきなり抱きつくな!しかも裸で!」
「あ、赤くなってるー」
「これはのぼせたの!」
は微笑むと、唐突に言った。
「先生知ってる?巧妙な嘘にはね、半分の真実が隠されてんだよ」
「え?」
「先生は好きじゃなくてもキスできるの?」
カカシは微笑む。
「できないな」
こうして夜は更けていくのでありました。