俺がしてきたことへの報いが
今更きたのかもしれない
でもあいつは何も悪くないのに
その日は珍しく一人だった。
は用があるとかで、出かけてしまっている。
特に何もすることがなかったので、上忍詰め所で仲間相手に他愛もない話をしていた。
「しっかし、休みの日にこんなとこいるなんて、あんたも寂しい男ねェ」
アンコが団子を頬張りながら、呆れた声を出した。
「ラブラブな彼女はどうしたんだよ?フラれたのか?」
「・・・用があって出かけてんだよ」
「ちょっとナニナニ!?面白そうな話じゃないの!」
「アンコ。食べてる最中に喋らないで」
身を乗り出したアンコに、紅が水をさす。
「何よー。気にならないの?カカシの女だよ?」
「カカシだからよ。何十人目だと思ってるの?」
静かにそう言い放ち、紅はお茶を啜った。
周りが一瞬凍りつく。
「た、確かに・・・。今更聞いても面白くないか」
「納得すんなよ!」
「まぁまぁ怒りなさんな。それに今回はちょっと違うみたいだぜ?」
な?カカシ、とアスマがニヤリと笑う。
「あーもう!どうだっていいだろ!?」
「何で隠すのよ。余計聞きたくなるじゃない」
「俺は話すつもりないの」
ここに来たのは間違いだった。
さっさと帰ろうと腰を浮かしかけた時。
ドアがバタンと開けられた。
その存在が暑苦しい男、ガイだ。
「カカシにお客さんだぞ」
「客?」
よく見れば、ガイの後ろに女が立っている。
俺を見て、ひらひらと手を振った。
「カカシ。久しぶり。元気してた?」
派手な化粧、きつい目。
金色と言うよりは黄色に近い髪。
そして金のかかった服。
顔は辛うじて覚えているが、正直な話、名前は思い出せなかった。
紅の言葉を借りるなら「俺が過去につきあった、何十人の中の一人」だ。
「何か用?」
自然に言葉もそっけなくなる。
「あら、随分なご挨拶じゃない。せっかく会いにきたっていうのに」
俺がいらついているのが分かったのか、アスマが口を挟んだ。
「これはこれは、木の葉病院のユキちゃんじゃねーか」
「覚えててくれたの?アスマさん」
「まぁ院長の娘だからなぁ」
アスマが俺にしか分からないようにウインクする。
今のセリフは俺の為に言ったのだろう。
アンコと紅は、あからさまに「何しに来たの?」という顔をしていた。
男にはモテるが、女には嫌われる女。
それがユキだった。
「用があるなら早く言ってくれ」
「少し会わない間に冷たくなったのね。ま、いいわ。私とヨリを戻さない?やっぱりカカシが一番だわ」
アスマがヒューっと口笛を吹く。
「彼女、いるから」
俺は冷たく言い放ったが、ユキは一向に気にした様子はなかった。
「いいじゃない別に。二股くらい何でもないでしょ?私も気にしないわ」
このセリフには、周りも絶句していた。
ユキへのどうしようもない不快感と共に、過去が蘇る。
誘われるままに応じていた自分。
平気で二股でも三股でもした。
刹那の快楽さえ感じられれば良かった。
しかし、今は違う。
「お前と付き合う気なんてない。例え彼女がいなかったとしてもな」
そのままドアから外へ出る。
ユキが「ふ〜ん」と言うのが聞こえた。
建物の外に出ると、日は傾きかけていた。
嫌な出来事を振り払うように、のことを考える。
そろそろ晩御飯の支度をしなくては。
買い物に行かないと、冷蔵庫には何もない。
メニューを考えながら歩いていると、ふいに頭の上に影が落ちた。
見上げると、大きな鳥が羽ばたいている。
俺と目があうと(そうとしか表現の仕様がない)、何かを落とした。
「か?」
折り畳まれた手紙を広げると「ちょっと遅くなるから、ご飯先に食べてて。でも家には行くから。 」と書かれている。
は時々こうやって連絡してくる。
今日も近くにいた鷲だか鷹だかに、手紙を預けたのだろう。
この前は猪で、家のドアを壊されそうになってヒヤヒヤした。
後でしっかり怒ったが。
野生の動物相手にどうやってるんだ、と聞いても「頼んでるだけ」としか答えない。
もしかしたら魅了の術でもかけているのかもしれないが、の不思議な特技と言えた。
あいつは得体の知れない術を使うのだ。
俺は手紙を仕舞うと、また歩き出す。
少しくらい待っててやるよ、と思いながら。
思いの他、買い物に時間がかかってしまい、家に着いた時には真っ暗だった。
鍵を開けようとして、部屋の中に電気がついているのに気づく。
「?帰ってたのか?」
言いながらドアをあけると、しかし中にいたのはではなかった。
「・・・・どうしてお前がいる?」
不快感というよりは怒りに近かった。
何食わぬ顔で笑っているユキを睨みつける。
「まだここに住んでたんだね。合鍵作っといて良かったぁ」
「合鍵?」
「あ、お腹すいたでしょ?何食べたい?色々買ってきたんだ」
ユキは俺の言葉などどうでもいいようだった。
勝手に台所へ入っていく。
「ちょっとー!何このエプロン!今の女の趣味?」
フリルのついたエプロンを不快気につまむユキから、俺は苛つきながら奪った。
「触らないでくれ」
「前は女の事なんか感じさせない部屋だったのに。本気って事?」
「お前に関係ない。今すぐ帰れ。帰らないなら力づくでも追い出す」
女相手にここまで強いことを言ったことはない。
この女はここまで嫌な女だったか?
「そーゆーこと言ってていいの?」
ユキは一枚の写真を俺に見せる。
「どこでこれを・・・!」
写真に写っていたのは、俺とがキスしているシーンだった。
「その額あて、恋人も忍なのね」
思わず写真を破り捨てていた。
「あら、いくら破ったって無駄よ。ネガがあるんですもの」
ユキが勝ち誇ったような笑みを浮かべる。
「とりあえず食事にしない?ゆっくり話しましょうよ」
ユキは様々な料理をテーブルに並べたが、俺は食べる気にはならなかった。
「食べないの?せっかく作ったのに」
「お前の狙いはなんだ?」
「最初から言ってるじゃない。カカシよ」
「今更何々だよ。お前ならいくらでも男が寄ってくるだろう?」
「他の男なんてダメ。腑抜けだもの。別れて気づいたのよ。私達、最高の相性だと思わない?」
「俺は最悪だと思うけどな」
乱暴に酒を飲み干した。
は飲まないので、酒を飲んだのなんて久しぶりだった。
「貴方に選択肢はないわ」
「俺がお前を愛すとでも?」
「愛なんてどうでもいいわ。私が欲しいのは、体だけ」
ユキが言い終わると同時に、急激に体が重くなっていく。
「な・・んだ・・・?体が・・・」
「忘れちゃったの?うちは病院なのよ」
「し・・びれ・・・・薬・・・か・・!」
奥歯をかみ締める。
薬物に慣れているはずの俺でさえ体が動かないのだから、相当強い薬なのだろう。
いつのまにかユキが目の前にいて、俺に唇を重ねた。
意識はそこで途切れた。
「結構遅くなっちゃったなー。先生、待ってるかな?」
独り言を言いながら、はカカシの家への道を走っていた。
きっとカカシは食事をしないで待っているだろう。
自然に顔がほころんだ。
じきに家に辿り着き、玄関のチャイムを鳴らす。
は必ずチャイムを鳴らした。
鳴らす必要はないし、合鍵だって持っているのだが、カカシがドアを開けるのを待っている時間が好きだった。
眠そうな表情が、彼女を見つけて笑顔になるのが。
足音が聞こえる。
ドアが開く。
しかし、出てきたのはカカシではなかった。
大き目のシャツだけを羽織った女。
胸元は、申し訳程度に隠されているだけだった。
「カカシなら、出てこないわよ」
何も言えないにそういい捨てると、女はゆっくりと扉を閉めた。