大きすぎる想いは

本人の意思を超えて

勝手に動き出す


「あー!掃除なんてめんどくさー。さぼって帰ればよかったぁ」

そんなことをつぶやいているのは、大滝蓮だ。

今日は技術室の掃除当番で、教室に帰る途中だった。

技術室は校舎の最果てにあり、この時間は生徒の人通りもない。

「なっちゃん、まだ待っててくれてるかな?」

自然と歩みが速くなる。

そして階段にさしかかった時。

ドンっと強い力で背中を押された。

「わっ!」

バランスを崩して階段から転げ落ちる。

普段の蓮なら受身くらい取れるのだが、突き落とされたことに驚いてしまっていた。

モロに頭をぶつけ意識が遠くなっていく。

「誰・・・?」

ぼんやりと霞んでいく視界に、階段の上に立っている人影が見えた。


「蓮!?」

倒れている蓮を見つけたのは、藤井奈津実だった。

中々戻ってこないのを不審に思って、迎えに来たのだ。

「ちょっと!しっかりしてよ!・・・あいつら呼んでこなきゃ!」

自分一人では運べそうにないので、助けを呼ぶことにしたのだ。

校舎を走り回り、やっと一人目を見つける。

「姫条!」

「なんや。何か用か?帰るとこなんやけど」

「そんなのどうだっていいのよ!蓮が倒れてるの!来て!」

「蓮ちゃんが!?どこで?!」

「技術室前の階段。私は葉月探してくるから先行ってて!」

「おう、まかしとき!」

言った途端走っていく。

「葉月はどこよ?・・・そーいや蓮が校舎裏でよく見かけるって言ってたな」

急いで校舎裏に行くと。帰りかけている葉月を見つけた。

「あ、いた!葉月!」

「・・・何」

怪訝な顔で問い返してくる。相変わらず無愛想だ。

「蓮が倒れてるの。一緒に来て!」

「どこだ?」

葉月の表情が険しくなる。恐ろしく感じるほど。

「こっち!」

奈津実と葉月は走り出した。


「脳震盪起こしてるわね。階段から落ちたの?」

3人で保健室に運ぶと、保健医はそうコメントした。

「蓮はそんなドジじゃありません」

奈津実が反論する。

「そうや。仮に落ちたとしても、頭打つなんてありえへん」

これは姫条。

葉月はさっきから黙ったままだった。

じっと蓮を見つめているが、どう思っているのかは表情からは読み取れない。

「じゃ、本人に聞いてみるしかないわね」

姫条と奈津美のあまりの剣幕に気圧されて、保健医はため息をついた。

「ん、んー」

蓮が微かに動く。

「蓮!?」

3人の声が見事にハモる。

蓮はうっすらと目を開けて、辺りを見回した。

「ここ・・・どこ?」

「保健室だよ。あんた階段の下で倒れてたんだから!」

「階段の下?」

「大丈夫か」

葉月が安堵した顔で問い掛けた。

「うん。平気。ってゆーかなんでみんないるの?」

「私が呼んだの」

奈津美が答える。

「それより、ほんまに階段から落ちたんか?」

「落ちたは落ちたんだけど・・・」

そこで蓮は考え込むように言葉を切った。

言っていいものか迷ったのだ。心配はあまりかけたくない。

「・・・続きを言えよ」

「うーん。後ろから押されたって感じ?」

3人の顔色が変わる。

「どこのどいつや!とっつまえてやり返さな気がすまん!」

姫条が怒って叫んだ。

「そうよ!仕返ししてやる!蓮にこんなことするなんて」

奈津美も怒っている。

「相手の顔は見たのか?」

葉月だけが冷静にそう聞いたが、言葉とは裏腹に不穏な空気がひしひしと伝わってくる。

「み、見たけど、逆光で人が立ってるってことしかわかんなかった」

「性別も分からないの?」

「うん・・・一瞬しか見なかったし」

「犯人探すのは、難しいかもしれんな」

「あーいーよ。探さなくて」

「ハァ!?何のんきな事いってんの?打ち所悪かったら死んでるかもしれないんだよ?」

「別に死んでないし。次やられたら復讐することにするから」

「ダメや!蓮ちゃんは甘い!」

「そんなこと言ったってさー。探したって見つからないよ。顔わかんないんだもん」

「それはそうだけど・・・」

「ほらほらあなた達。物騒な事言ってないで、早く帰りなさい。大滝さん、歩いて帰れる?」

「あ、はい。大丈夫です」

保健室を追い出され、4人は校門に向かって歩いていく。

蓮の鞄は葉月が持っていた。いいと言ったのだが、無言で奪われた。

「じゃ、私これからバイトだから。二人ともしっかり送っていきなさいよ!」

「なっちゃんバイトだったの?ごめんね。遅刻じゃない?」

「いーって。そんなこと。バイトよりあんたのが大事でしょ?」

「ありがと」

「ん。じゃーね!」

奈津美を見送った後。残された3人も歩き出した。

だが空気が重い。

いたたまれなくなった蓮が喋りだす。

「ねぇなんか喋ってよ。まどりんいつもこんな静かじゃないでしょ?」

「あーすまん。考え事してた」

「・・・・・私のことなら大丈夫だから。今日のことはもう忘れて?」

「・・・無理」

「そんな、珪君・・・。もー二人してそんな辛気臭い顔しないでよ!」

「逆ギレかい。忘れろ言うたかて、無理や。蓮ちゃんは腹立たへんのか?」

「そりゃむかつくよ。でも今回だけだし」

「何で断言できるんや?」

「犯人は私が掃除当番なのを知ってた。それか私の後をつけてた。咄嗟の行動じゃないってことは私の事もよく知ってるはず」

「・・・それで?」

「二度目をやらせるほど甘くないって分かってるでしょ。捕まるリスク犯してまで嫌がらせするとは思えない」

「それも一理あるけど・・・でも絶対じゃないやろ?」

「もしやられたとしても、私が逃がすと思う?」

「思わへん・・・」

「でしょ?だからこの話はこれでおしまい!今日はありがと。じゃね!」

丁度家の前について、蓮はマンションへ消えていく。

男二人が取り残された。

「・・・なぁ」

姫条が葉月に話し掛ける。

「何だ?」

「俺と組まへんか?」

「・・・何で」

「お前、このまま終わらすつもりないやろ?」

「・・当然」

「俺もや。蓮ちゃんは忘れろ言うたけど、それじゃ気がすまん。だから犯人は探す」

「・・・何が言いたい」

「お前聞き込みできへんやろ?愛想悪いからな。俺は考えんのが苦手や。だから協力しようっちゅー話や」

「・・・・」

「お前は嫌かもしれんけど、俺だって嫌や。でもお前なら、俺が考えつかんことに気づくかもしれへん。俺は、お前ができへん聞き込みができる」

「・・・・」

「蓮ちゃんのためやろ?」

「・・・・分かった」

「よっしゃー!明日からがんばるで。望みは薄いけど諦めへん」

こうして、姫条&葉月のにわかコンビが結成されたのだった。

・・・・今にも壊れそうだが。