書を持って部屋に篭ろう!!!!!
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別に大して読書家という訳でもないんで、偉そうな事書くつもりはないんですが、凄く好きな本が結構あるんで、暇だったら読んで下さい。こういうのって、下手なプロフィールよりも人間がでたりするもんです。 とりあえず、読んだ本を、どんどんアップしてきますので、なんか面白い本ないかな、とか思っている方、参考にしていただけたら、幸いです。 |

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本をめぐる冒険 |
最近読んだ本
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中勘助随筆集 中勘助 ☆☆☆ |
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日本の小説で好きな作品と言われれば、絶対に選ぶ作品の一つが中勘助の「銀の匙」だ。その独特の世界観は、彼が小説家としてより、まづ詩人だった事も大きいのかもしれないが、その繊細で詳細な描写は、未だ誰も到達していないと言っても良い程、素晴らしいものだと言える。その中勘助の随筆集であり、これは絶版らしい。随筆集なので、全体的に統一感はないが、夏目漱石との交流や妹の死を描いた作品は、簡潔でありながら、そのシンプルな言葉にも関わらず饒舌な事。やはりこの人は天才である。特に夏目漱石の描写は、褒めちぎるでもなく、あくまでもニュートラルでありながら、そこはかとなく滲み出る好意が、実に心地よく一気に読ませられる。「ありゃいいよ」と繰り返し「銀の匙」を誉めてみたり、中の描写力に興味を持つ夏目漱石の姿は「銀の匙」を愛する者にとって、ある種の快感を与えてくれもする。かと思えば「ひらがなが多すぎる」と言って、少しばかり非難するのも、それはそれで「良いなあ」等と、またもや贔屓にする夏目漱石にも思いを馳せたり出来る。全ては彼の言葉少なでありながら、実に的確な言葉の選び方による物が大きい。何処か牧歌的で、何処かゆるりとした雰囲気に酔いしれた一冊。 |
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必読書150 柄谷行人、浅田彰、奥泉光、渡部直巳他 ☆☆☆ |
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学力低下等と騒がれる中、この手の知に対するガイドブックが多数出版されている。ずっと知の権威に対するアンチテーゼとして、サブカルがあった気がする。新たなる知を作り上げようとする気概位はあったんじゃないかと思う。ところが、既に21世紀に入ってからは、アンチテーゼを作り出すだけの知性もなくなったのではないかというのが、この本の根幹にあるに違いない。この本で上げられている推薦書の殆どが、余りにも難しそうで読めなさそうなものばかりである事に驚くに違いない。「気取りすぎじゃん」と鼻で笑えるだけの余裕もない程に高尚な雰囲気が漂っている。ところが、かつては「読んで当たり前」とも言える本だと知るだけでも、知の低下は実際の事だと身をもって感じる事が出来る。分からないなりに読んでみる事も必要というのは、理解出来ない世界があると分かる事であって、これが理解出来たら格好良いだろうなあと思うだけでも、この本の意義があるとも言えるかもしれない。レヴィ・ストロースだのベイトソンだの大西巨人など、名前しか聞いた事のない本を、ちょっと読みたくなっただけでも、この本を買って良かった、と思ったのと同時に、自分の未熟さに気付かせてくれる。何だか良い大人が、先生に叱られて「こんなに思ってくれる人がいてよかった」的な気分にさせてくれると同時に、まだまだ知らない事がいっぱいだとわくわくさせて貰えた一冊。 |
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ブラックマシーン・ミュージック 野田努 ☆☆☆☆ |
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サム・クックの「チェンジ・ゴナ・カム」という感動の名曲がある。60年代の公民権運動が激化した時、黒人音楽最高峰のシンガーと言われた彼は「変化は必ずやってくる」という希望にも似た願いを3分間の奇跡的名曲に詰め込んだ。英語も分からない、ただただ、彼の悲痛な叫びだけがずっしりと伝わってくる名曲だ。こういった音楽を聞くと、文化とはある種の必然的状況の下に発生するものがあると信じる事が出来、その叫びを知る事が楽曲をより感じ取る手段になり得るのだと痛感するのだ。ロックをはじめとした音楽に夢中になった時、知らず知らずの内にそういった外国の歴史や文化の扉を開いて理解したり楽しむ事が出来た事は、音楽の神様に感謝したい気持ちになる。そういった好奇心の萌芽を促したのは、やっぱりロックだったり小説だったり映画だったのだ。本著は、そういった文化発生の源を、じっくりと観察して紡ぎ出された一種の思想書のようでもある。シンセサイザーが生まれ、テクノという音楽が誕生し、デトロイトという退廃した都市で、黒人のリズムを注ぎ込む事でダンスミュージックとしてのテクノ・デトロイトテクノが誕生した。その背景には、自動車産業が衰退し、荒んだ都市で、ある伝説的DJの登場と、シカゴのゲイカルチャーから生まれたハウスの影響が大きくあった事。家の外に出る事さえ危険な都市で、引きこもった青年達が遮断されたベットルームで丹念に作り上げた新しい音楽だった事にワクワクした。人と同じ事をしていても新しいものは生まれて来ない。そんな当たり前の事が、こんなにまでに新鮮で攻撃的で、そんな事が20世紀の終わりにあった事に驚き、拍手を贈りたくなった。デトロイトテクノという現象を理解する事であると同時に、ある種の黒人文化を知れる極めて優れた本だと言える。大拍手である。 |
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レヴォリューションNO.3 金城一紀 ☆☆ |
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凄いやりたい事は伝わってきた。作りたい作品も、ヴィジョンも、おこがましいけれど、言わせて貰えば伝わってきた。なのに、感動出来なかった。面白いとは思う。高校生、大学生の時に、これが読めればきっと勇気が湧いただろうと思う。「GO」の痛快さに比べれば若干落ちると思うけれど、この作品には少なくとも理想がある。そして、多くの人に伝えたいという力がある。それだけでも良いのじゃないか、と思う。きっと、この本は評価されないだろう。でも、無骨で不器用な作品として、多分、僕の記憶には残る。ブルーハーツの歌にも似た、なんだか清々しい作品。でも、今の僕は、これに呼応する程の青臭さは残念ながら無いのだった。 |
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ウィルソン氏の奇妙な陳列室 L・ウェシュラー ☆☆☆☆ |
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何だか、とんでもない本だった。ロスに実在する不思議な博物館。ここに陳列されているのは、人間の角やトーストの上で焼かれたハツカネズミなど。作者は、この展示物を目の当たりにして驚き、「本当なのか?」という疑問と、真実と虚実の間を右往左往する。しかも、本当かどうか確かめれば確かめる程に、曖昧な境界線の上を綱渡りする事になる。読んでいる方も同じように、真実と虚実の間をさまようはめになる。博物館の館主であるウィルソン氏の発言も白黒はっきりしない、ひどく頼りなげな曖昧なものだから凄い。歴史も真実も全てをうっちゃるだけのパワーが、この本にはあって、その危うさが、この本の魅力だ。まるでミルハウザーの本を読んでいるような不思議な感覚。ロサンゼルスに行った折には、是非寄ってみたい場所である。P・オースターやオリバー・サックスも絶賛したのは頷ける奇書。 |
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坊ちゃん 夏目漱石 ☆☆☆☆☆ |
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初心に帰る為に読んでみた。わずか百数十ページ。この短い小説の中に、どれだけ絶妙なキャラクターが潜んでいるか。坊ちゃんはいわずもがな、赤シャツ、狸、うらなり、山嵐、マドンナ。これだけのキャラクターを肉付けし、しかも、それぞれが激しく息づいていることに驚かざる得ない。しかも、松山を田舎、田舎と激しく非難するわ、何か都合が悪くなると「これだから田舎者は困る」と反省の色なし。我侭と言えば、我侭。実直と言えば実直。そこかしこに見え隠れする、計算高さへの反撥や、教師の入れ替わりの苦い経験等は、夏目本人の経験から出る愚痴のようにも思えて来る。ラフカディオ・ハーンが夏目漱石の帰国の為に職を追われた事を、ひどく悩んでいたという話があるが、彼が、そう言った体験を通して効率主義や、狭い世界の策略や謀議に対する嫌悪感を全てぶち込んだ小説だったのか?それにしても面白過ぎる。特に、何度読んでも清の話は良い。何だか胸の中が熱くなるような話だ。人間臭さに最も執着し、それを高める事に成功した日本文学というより日本の読み物の金字塔と言って良い、と実感した。 |
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2002・2002・2002・2002・2002・2002・2002・2002・2002・2002・2002 |
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SEPTEMBER 11 ☆☆☆☆☆ |
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上記参照 |
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ファストフードが世界を食いつくす エリック・シュローサー ☆☆☆ |
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2001年元旦。その日、お雑煮を作ろうと西友に向かう途中で、マクドナルドを覗くと、そこに家族がいてハンバーガーを食べていた。21世紀の始まりである、個人レベルで考えても、真剣にメニューを考えても良さそうな、そんな日にマックでハンバーガーを頬張る姿を見た時、なんだかとんでもないものを見たような気がしたものだ。マクドナルド、ディズニー、ハリウッド。どれもが無条件で肯定され、ちょっとでも非難すれば、なんとなく裏道を歩く者のように思えれてしまう状況とはなんでろう?と思うことがある。マクドナルドが、一体どうやって、あれだけの世界的チェーンになっていったか?これを追求する刺激的ノンフィクションである。巨大フランチャイズが抱える致命的問題点を洗い出す前半で、既に引き込まれる。中盤、牛肉産業の現状を執拗に追いかける部分は、少しばかり深追いしすぎな気もするが、結びで作者は辛辣なメッセージを華麗にまとめ上げてみせている。アメリカでマックがやってきたこと、それ以上にジャンクフードが目の前の問題はクリアしてくれるが、それが高い代償を課しているかもしれない現状を綺麗に描き出していて刺激的だ。21世紀の幕開けにマックで食事をする家族がいる状況について、深く考えさせてくれる著作。実は笑ってばかりはいられない話でもあることが分かる。 |
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青空の方法 宮沢 章夫 ☆☆☆☆ |
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以前、明石屋さんまが「笑いとは日常の視点をずらすこと。竹脇無我を4文字熟語だと思う事は、視点のずらしだ」というような事を言っていたけれど、宮沢章夫も、そんな視点のズレを上手く読ませる人だと思う。半ば、マンネリとも言って良い語り口調は、最早それだけで快感でもある。一時期、マンネリズムにはまった時があったように思えたが、大丈夫そうだ。何に対しても理由を求める現代の病理を逆手にとった軽妙なエッセイと言うのは誉め過ぎか?ただ、この人、凄いロマンチストなんです。幾ら世間を斜めに見ていても漏れ出るロマンチズム。その部分も含めて、絶対支持をしたい書き手の1人と言って良い。 |
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坊ちゃん忍者幕末見聞録 奥泉 光 ☆☆ |
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奥泉光を知らない人ならば、何で、こんなタイトルの、と思うに違いない。しかし、あの奥泉である。暴力の舟、石の来歴、吾輩は猫である殺人事件、とすさまじい筆力で、これでもかという作品を書いてきた奥泉が書くのだから、このタイトルには何かある、と思うのは仕方がない。しかし、一体何をしたかったのか、私にはさっぱり分からない。天才、奥泉、凡人の伺い知れないものがあるのだろうか?とも思うが、分からないものは分からない。なので、駄目です。この作品は。恐らく、多くの人に読まれる物としての小説(読み物)を目指しているのでは。彼は夏目漱石になりたいのではないか?もしそうだとしたら、もっと違うアプローチが出来る筈。 |
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模倣犯 宮部みゆき ☆☆☆☆☆ |
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上記参照 |
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転がる香港に苔は生えない 星野博美 ☆☆☆☆ |
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大宅壮一賞受賞作。僕にとって、この言葉は魔力だ。数々の刺激的なノンフィクションに出会えたのは、この賞を目安に読んできたからでもある。この作品も例外ではなく、香港を愛した一写真家が、返還を前にした香港での生活で出会った人々や文化的摩擦、破天荒な香港の文化を語り尽くす痛快ノンフィクション。この作品が面白いのは、むしろ作者が常に日本を忘れていない事にある。香港で生活していながら、やはり常に母国である日本を意識しながら文章を紡いでいる。確かに、香港の知られざる一面には、驚き、知的興奮を味合わせてはくれるが、それ以上に作者が出来事の背後に見る日本を凝視している所が面白い。先日、チャラやジュディマリのユキが作ったバンド「ミーンマシーン」の刺激的な全面広告「この国はまずい方向に向かっている」というコピー。声高ではないが、じっとりとした湿り気を持った焦燥感が、この本からは臭い立つ。意識的にならざる得ないのか?不安感は、目に見えて来てはいるが、まだまだ湿気の如く暗闇に隠れているだけに厄介だ。香港が持つダイナミックさは、驚愕の連続で、息つく暇もなく読み終えてしまうが、この本が教えてくれる漠然とした生活の強さは、やっぱり羨望の眼差しで見てしまう。何回も繰り返し密航を謀る男や、路上でゴミを売り続ける人々、差別される大陸(中国)の人々の生の声などは、決して日本ではお目にかかれない凄みがある。そして、そんなむきだしの生き方こそ、今日本が一番必要としているものかもしれない等と、殊勝に考えてみたりもするのだった。傑作。 |
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ニッポニア・ニッポン 阿部和重 ☆☆ |
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「アメリカの夜」で衝撃的デビューを果たし、「インディヴィジュアル・プロダクション」でその人気を確かなものにした阿部和重の新作。個人的には、「アメリカの夜」で驚きはしたものの、この人の作風が、一辺倒になっていっているので、離れている所があった。奇をてらったアイディアは、お!と思うのだが、その中身は、意外と普通だったりして、なんとなくそのスタイルも含めて、タランティーノと同じような気がしていた。つまりは、スタイル重視で、その中への洞察力や突き詰めていく表現が少ないような気がしたのだ。意図しているかどうかは別にして、ハードボイルドタッチも初めは格好良かったが、ずっと続くと意外と飽きてしまったりしている部分がある。設定は面白く、日本の象徴であるトキを密殺するか逃がすかする事に使命感を感じている少年の話だ。ところが、その後の膨らみがない。文章もリアルさを構築しようとしてはいるが、リアルに固執する余り、文章が機能的過ぎて素気ない。主人公のキャラクターに意外性がなく、徐々に紋切り型にはまりこんでいくのもどうか、と思うのだ。これが今なのだ、と言われれば、そうなのかもしれない。ある意味、時代を映しとっているのかもしれないのだが、僕が今読みたいのは、こういう小説ではないのは確かだ。 |
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インストール 綿矢りさ ☆☆☆☆ |
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17才での文藝賞受賞作。どうしても読んでみたくて雑誌「文藝」を買う。他にも、特集が中原昌也である事、彼が渡部直巳と対談してる(この対談、すげえ面白い!)のもあったのだけれど。それにしても面白い。(雑誌全体も面白い。文藝誌なんて、ほんと今誰が読んでるのか分からないだけに面白く、沢山に読んで貰おうっていう努力が感じられます)高校生の少女が、理由もなく登校拒否をし、偶然出会った小学生と、チャット売春を始める、という話。またセックスと意味のないすさんだ現実の描写なんだろう、と思ったのだけれど、今話題の(?)17才ということ。そして、偶然見掛けた朝日新聞のインタビューで「携帯電話も持っていない」発言と、小説のストーリーとはかけ離れた無垢な顔。俄然興味が湧いて読んでみると、これが面白い。例えば、年齢のいった作家の同じようなすさんだ現実とセックスを題材としたものが持つ、あざとさがない。むしろ、それを無条件で受け入れた先のあっけらかんとした爽やかさがある。社会の先を憂うのは、純粋な時代を知ってるからである。そうではなくて、はじめから世界がすさんでいたら、その中で人は感覚を磨いていく。初めからあるものに嘆いてみる事など出来ないのだから、その状況で自分を磨いていくものなのだ、と思った。ありきたりな事だけれど、あるのは自分なのだ、周囲の状況も、時代も、流行も、事件も揺さぶりはするけれど、足をデンと踏ん張って、前を見据える人がいる。そんな簡単な事を、この小説は、実に軽々と教えてくれる。清々しい読後感でいっぱいになりました。はい。 |
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アメリカンスクール 小島信夫 ☆☆☆☆ |
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読んでいて、いつから外国に敬意の念を失ってしまったのだろう?と考える。「外人だ」驚いて見るのをやめたのはいつからだろう?日本が豊かになり、僕らの考えも変わった。外人が歩いていても、別段揺さぶられる事もなく、淡々とそれに接する。外人が、白人だけでなく、アラブ人とかアジア系の人が増えたからか?それとも僕らが傲慢になったからか?なのに、何故海外へ行くと、日本人は群をなし、外人を恐れるのだろう?テレビで「嫌なら帰ればいいじゃん」と言ってしまう感覚は、いつ生まれたのだろう?そんな事を、この小説を読んでいて思った。しかし、この人、凄い面白い人ですね。とても昭和30年代とかに活躍したとは思えないユーモアとシニカルさに驚きました。設定がいかにもなのが多く、漠然と最近の人ではないのか、と思ったけれど、ここまで前の人とは思えない。文章が、テーマが古びていない。最近の人が昔に憧れて書いたと言っても信じてしまいそうな、普遍的な人物描写と、心理描写に驚く。そう、人間を描いている限り古びれる事自体がおかしいのかもしれない、等と思う。他の短編でも人生に悩む事に憧れる人々を茶化してみたり、俄然、この作者に興味を抱かずにはいられなかった。 |
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フーリガン戦記 ビル・ビュフォード ☆☆☆☆ |
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ワールドカップを前に、この本を読めば不安倍増!ある意味、フーリガンに対する考えを新たにしました。フーリガンに対する深い理解よりも嫌悪、いやあフーリガンって生やさしいものじゃありませんねえ。この本は、イギリス在住のアメリカ人が、フーリガンに肉薄した迫真のドキュメントで、暴動のシーンの描写などは、凄い臨場感と描写力です。それにも増して、フーリガンの中には、悪名高きナショナルフロントとのつながりまである人種差別、女性蔑視など、作者も書いているが嫌悪感を持つ有様。しかも、社会的背景(労働者階級から抜け出せないとか)など、余り関係ない理由なき暴動である。この意味のない暴動が厄介だ、暴れたいだけだから解決法も見あたらない。しかも、自分が悪いことをしているという意識もなく、ひたすら集団的興奮に身をまかせた上で暴れ回るだけだから反省などする訳がない。知性とか良識のない人間に、一体どんな対処法があるというのだろう?良心の呵責もない人間に反省などある訳がないのである。反省のない人間に進歩もない。ましてや、この本で描かれている群集心理は、人間を悪への境界を軽く飛び越えられる脆い人間性も鋭く描いている。怖いものだ。人間とは、げに簡単に悪へと転じられる。それを防げるのが、良心という人間ならではのものなのだろう。興味深い筆記は、次の一文にもある「国家に養われ・・自分自身と自分の子供たちに対していかなる責任ももたなくなり、その結果、ただ浪費するだけの国民となり果てたのである」(R・ペイデン=ボーウェル。ボーイスカウトの創設者の言葉) |
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だれが「本」を殺すのか? 佐野眞一 ☆☆☆☆ |
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本好きの川下にいる僕としても、この本は実に興味深い。気鋭のノンフィクションライター、佐野眞一の渾身の1作と言って良いでしょう。何故?本がここまで停滞したのか?という疑問に答えるのは一つしかない。全体的に面白くないから。これに尽きる。「本は為になる」「本を読むことは良いことだ」と言った教義主義と、全く色気のない業界全体が、この状況を招いたと言って良い。この本で指摘されているのは、出版元、取次、書店、大手古本屋、図書館、読者、総てにその刃を向ける。やる気のない書店。下手な鉄砲数打ちゃ当たる式の出版元と取次。貸出至上主義に傾いて行った図書館。想像力を駆使する面白さを忘れた(もしくは面倒臭がった)読者。それらと相対する、希望に燃えた書店や、意欲溢れる地方出版。さりげなく本に希望を持たせる構成も、必ずや本好きを魅了してくれる筈だ。本を現在進行形のエンターテイメントにする為の工夫とは何か?ここまで停滞した原因と言える総てに、その可能性がある。本が今も死んでいない事が、それを如実に証明していると思うのは、僕のロマンチズムの為せる業だろうか?そんな訳はない筈。 |
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この一秒〜極限を超えた十人の物語 畠山直毅 ☆☆☆ |
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要は、意識、無意識に関わらず「いっちゃった」人のノンフィクションである。しかも、相当「いっちゃった」人ばかりであるから凄い。事実は小説よりも〜ではないが、この本に出てくる人々の突き抜けぶりは、かなり凄い。しかも、凄いとか強調するでもなく、市井の人々が「いっちゃった」感じでサラリと描写されている、この本はある種の「いきる事の素晴らしさ」を教えてくれている。そこには、楽しい話もあるが、哀しい話もある。それらが雑然と並んでいる。何か一瞬にして起きたことに対する接し方が、切々と書かれている。一つの作品としてでなく、小粒な短編集的な趣が、妙に心を打つ一冊。 |
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それは僕が楽しかったから リーナス・トーパルズ ☆☆☆ |
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何かと話題のリナックスの創設者リーナスの自伝。とりあえず、ネットで金儲けをしようとしている人に読んで貰いたい本だ。ネットが、どんなコンセプトの下に成り立っているかが、しっかりと分かる本になっている。60年代のカウンターカルチャーの考え方が、ネットの大本にある、とは良く言われる事だが、このリーナスには、また違うが、結局根本には同じ考えがあることが分かる。オープンソースのメリット、そして、勿論そのメリットを活かす為には大企業などのサポートが必要である事。そういう事がサラッと言える、かなり柔軟な人のようだ。勿論、書き言葉は作られていると言うべきかもしれないが、かなり興味深い。彼が、フラワーチルドレンの本場だったサンフランシスコに今いるのは、シリコンバレーのある場所だから、だけでは括れないものがあると思う。 |
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センセイの鞄 川上弘美 ☆☆☆☆☆ |
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上記「本をめぐる冒険」内、「新しいものはいつも懐かしく 古いものは不思議に懐かしい」を参照 |
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メロン牧場〜花嫁は死神〜 電気グルーヴ ☆☆☆☆ |
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真剣な評価です。これだけ笑わせてくれる本は珍しい。でもって、電気グルーヴの会話の妙は、決して巷に溢れる不条理な事を口走っているだけのコメディアンのそれではなく、大仰に言えば、凄く深い所に根ざしたものがあると本気で思っています。突き詰めていけば哲学にいたるような、漫画で言えば中崎タツヤのそれに達するものがある。想像力と言葉の選び方は、アドリブ、思いつきとは言え、舌を巻かざる得ない。やはり、本職の音楽で深淵まで達しているだけあって、突き詰め方は半端じゃない。特に瀧が電気グルーヴである必然性は、この突発的にひらめくイマジネーションに一因がある。それくらいに思っています。究極の電気グルーヴの対談集。ただ、買って笑うべし。 |
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体の贈り物 レベッカ・ブラウン ☆☆☆☆ |
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例えば人に対する優しさとは何かと考えた時、不器用なのか、どうなのか人と違う態度をとる事が多いように思う。そして、優しいのか冷たいのか分からないと言われる事が多々ある。そして、紋切り型の優しさとか見ると、笑ってしまうか、気色悪くなる事が多い。「大丈夫?」と言われて、「じゃあ、大丈夫じゃないと言ったら何かしてくれるの?」と思う自分がいる。強制的に大丈夫と言わせてしまう同情に近いもの。優しさとは実に捏造しやすい代物だと思う時があるのです。そんな事を書くと、またまた「このひねくれ者が」と言われるのですが・・・。そして、こんな僕でも「本当は優しいのよねえ」と言ってくれる人が、ごくわずかに居て、そんな人の理解で何とかやってけてる気がしてならない。で、この本は、素直に優しいという事を飲み込める温かい話だと思ったのです。ある人が読めば暗いとか言うかも知れませんが、僕にとっては凄く人に対する優しさについて素直に飲み込めて心が温かくなりました。バブルを通過して、甘っちょろい人間関係で十分になってしまったこの国で、もっともっと、この物語が読まれれば少しは違うんじゃないか、等と思った、ひねくれ者の僕を少しだけ素直にさせてくれた希有な小説。 |
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スプーン〜超能力者の日常と憂鬱 森達也 ☆☆☆☆ |
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「放送禁止歌」等、著作も評判のテレビプロデューサーでもある森達也の新作。とりあえず、この人、そろそろ信頼のブランド入りしそうです。とにかく切り口が斬新。今回は、題名通り超能力者の等身大の姿と、社会との関わりで起こる摩擦や軋轢を(森達也自身が思う)中立な立場で見たノンフィクション。エスパー清田、秋山真人、ダウジングの堤裕司の3人のノンフィクション番組を作りながら見えてくる様々な思いが綴られています。必死に超能力を証明しようとカメラの前で悪戦苦闘する彼らや、邪見に超能力を否定したり、鼻から信じない人々、または盲目的に信じる人、それらの全ての人々を見ながら当惑する筆者の姿に共感します。超能力は本当か?という疑問に答えるのでなく、「超能力、もしくはオカルトを見せられた時に起こる一種の居心地の悪さは何か?」が、この本のテーマです。社会的に完璧な価値観、正義感への疑問、これこそが筆者の感じた所です。それは24時間テレビ等に嬉しそうに参加する人々の姿や、喧嘩の時に「まあまあ」と言う人や、「大人だろ?」と訳知り顔で言う人にも共通する「何か」のような気がします。それを突き詰めようとする筆者の姿勢は「誠実」以外の何物でもない。名著です。 |
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あの有名な「七年目の浮気」のモンローのスカートがめくれるシーン。地下鉄の排気口から扇風機で風を送って、めくれさせてたが、その扇風機のスイッチを誰が押すかで揉めた。なんて愉快なエピソードも満載の映画論の対談。「あの頃ペニーレインで」で評価を上げたキャメロン・クロウと、映画史に残る名監督ビリー・ワイルダーの対談は、共に脚本家としてもウィットの効いた作品を作り出しているだけに、絶妙の掛け合いが面白い。高齢のビリーを気遣いながらも、ビリーの映画に対する過度な愛情とマニアならではのストーカー一歩手前の食い下がり方が、面白おかしく書かれている。互いに気の利いた事を言ってやろうとするプロ根性も端々に見られて、楽しく話してるんだか、競いあってんだか分からない所も含めて絶妙の映画対談集。圧倒的な分析も含めて、ヒッチコックとトリフォーの「映画論」に匹敵する本です。 |
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居酒屋ゆうれい / 山本昌代 ☆☆☆1/2 |
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今は小説界も、女性の方が強いのかなあ?と感じる。それこそ桐野夏生、金井美恵子、笙野頼子、松浦理英子とか。「面白いよ」と言われる現代日本小説の作家は女性が多い。で、この山本昌代も、そんな勧められた女性作家の1人です。で、これが読みやすくて、パパッと1日半で読めるんですが、面白い。読みやすいけれど、作者の細かい配慮が色々見られて「良く出来てるなあ」と感心する。ほぼ半分くらい「」(会話)なんだけど、キャラ設定も良いし、落語を聞いてるような場の雰囲気がビシビシ伝わってくる。とにかく雰囲気が良い。お勧めですよ。ちょっぴり幸せになれるほのぼのさが良いです。 |
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裏ヴァージョン / 松浦理英子 ☆☆☆ |
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初め、新聞で題名を見た時に、ドキッとした。この題名が、実に「今」を的確に表現しているように思えたからだ。普通だったら、ちょっと待ってから図書館で、等と考える所だけれど「買ってでも読みたいな、すぐ」と珍しく思って購入。読むことにした。しかし、僕は松浦理英子を誤解していたようだ。この人、非常にユーモア感覚のある人ですね。ニヤニヤしました。作品の構成が凄く良くできている。虚実が曖昧になっていく展開は、実にスリリング。虚がジワジワと実に染み込んで、実がジワジワ虚に染み込んでいく。これを実にさりげなく読ませる辺り、ハッキリ言って舌を巻きました。ラストは、ちょっと期待はずれでしたが、これはこれで許せる。凄く興味が湧いた。 |
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カーラのゲーム(上・下) / G・スティーヴンス ☆☆☆☆ |
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この小説が面白いのは、とにかく主人公のカーラと、SASの特殊工作員フィンの二人の登場人物の魅力に他ならない。ラストの怒涛のような感動も、正に二人の設定あってのこと。だからこそラスト近くでの、ちょっと臭い展開も許せる。それに後半、もっと読みたいカーラのエピソードがなかったり、平面になってしまう所もカヴァーしてしまう。欠点をあげつらうのは簡単だが、この小説凄い力技で読者を泣かします。作者の大胆な書き方も凄いが、とにかく、この冬泣きたかったこれ、ですね。 |
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死者の書 / ジョナサン・キャロル ☆☆☆ |
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とある方に勧められて読みました。この小説の不気味さは、ツインピークスとかに似ている。アメリカ人にとって、南部の田舎町とは不気味な世界なのだろうか?しかし、この舞台の匂いを素晴らしく表現している。そう言う部分の実力は凄いかも。ただ、ラストにドンデン返しが!と言われると呼んでる僕は過剰に期待してしまう。その過剰の期待を越える事は出来なかったのが残念。ただ、面白いですよ。他の作品も読んでみたい。 |
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美しく見えるものを、美しく見せるのより、そうでないものを美しく見せる方が、個人的に好きだ。野坂の作品には、そういった表現が多く見られる。そして、その優しい視点に感心すると共に、日本が忘れてしまった人々や風景がクッキリと浮き上がってくる。そう、日本なんて、ちょっと前に戦争に負けてボロボロだったんじゃないか、って当たり前な事に気付いて、しかも、そんな中で生きていた、今で言えば汚いけれど、何か動かされる人々を丁寧に描いた素敵な作品集です。 |
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サーカスの息子 / J・アーヴィング ☆☆☆ |
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アーヴィングが「物語」に固執した、壮大な失敗作かもしれない。アーヴィングのファン以外にはお勧めできません。ここで書かれているのは、アーヴィングが自らの描いてきた世界を、最も分かりやすくしようとした為に、構造的に破綻した壮大な作品が横たわっています。ただ、ファンとしては、各々のエピソードの中に、今まで以上に分かりやすくアーヴィングの世界を見る視線のエキスが凝縮されていること。全体としては、とっちらかっているけれど、個人的には読んでいて満足感溢れた一作です。 |
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東京アンダーワールド / ロバート・ホワイティング ☆☆☆ |
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今の日本は、高度成長期〜バブルと続く中で、求め続けた「豊かさ」を考え直さなければならないような分岐点に来ているような気がする。そんな時に、この本が描き出す外側でも内側でもない人間の見た「日本」は、非常に意味のあるものだと思う。ベストタイミングと言える。しかし、前半の戦後〜ロッキード事件あたりまでのダイナミックさに比べて後半トーンダウンするのは否めない。というより時代がつまらなかったのか?バブルって真の悪役が居ない、のっぺらぼうな時代だった、と痛感。 |
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マリ&フィフィの乱暴者日記 / 中原昌也 ☆☆ |
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うちの兄激賛の中原の処女短編。凄く原石のような気もする。ただ、どうにも、僕は、この人が描く世界が性に合わないようだ。凄く引っかかるものはあるのだけれど、それは好きとは、明らかに違うモノ。不条理とは違う、ひどく現代的なモノを感じた。 |
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朗読者 / ベルンハルト・シュリンク ☆☆ |
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翻訳モノとしては異例の売り上げを上げている、この作品。そんなに面白いかあ?と個人的には思った。確かに、読ませるが、揺さぶられるような感じがなかった。「go」のような荒削りな熱さもなく、キングのような強烈なストーリーテリングもない。なんとなく読み終わってしまった。ちょっと肩すかし。 |
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ぼっけいきょうてい / 岩井志摩子 ☆☆☆ |
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キングとかアメリカのホラーを読んで思うのは、非常にドライな事だ。常に、正義と悪があって、その戦いがある。唯一「ペットセメタリー」だけは、その関係が希薄。で、アメリカでは怖すぎると言われたりする。日本の怪談などは、非常にウェットだと思う。人間関係のひずみから恐怖が始まる。妬み、嫉妬、怨念。大体、人間の奥底に普段は眠っている感情が、ゆるりと起き出して、話が始まる。この作品は、通常のホラーとは言えない。むしろ、人間の暗部を描くのに、幽霊のようなものを描く。しかし、出てくるのは形にならない「怨」に近い思いのようだ。だからこそ、ゾッとする。 |
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エッセイとしては大傑作でしょう。松尾スズキ、この作品では、相当本気だったと見た。とにかく、その観察眼が凄い。人間の奥底を、深く洞察する姿は、村上春樹より深い。井戸どころじゃなく、マリアナ海峡ばりの深さだ。しかも、今回のエッセイは、時に真面目な姿さえも垣間みせて、恥ずかしそうにごまかしている。それくらい本気だった。このエッセイを読んで、人間を見る、別の角度の視点を感じてみるのは、刺激的だと思う。 |
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ハイフィディリテイ / ニックホーンビィ ☆☆☆ |
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元気な英国文学で、しかも音楽ファンから賛辞の送られた小説。偏屈なレコードコレクター(他人事とは思えない)の生活をリアルに描いた佳作。前半の疾走感が後半落ちていくのは残念だが、グイグイ読ませる。全世界津々浦々、レコードコレクターの性癖は、殆ど変わらない、と実感できるのは嬉しいやら哀しいやら。やっぱりコステロからとってるんだろう、この題名は。 |
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子猫が読む乱暴者日記 / 中原昌也 ☆☆☆ |
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殺伐とした世界を描く、タランティーノなどに見られる世界は、もう良いよと思う。実際のニュースの方が凄いし、余り見たくないなと思っている。暴力温泉芸者(ナイスなネーミング、これと並ぶのはハイテクノロジースーサイズくらいのものだ)の中原昌也の、この作品は、殺伐の先を見ようとしているような気がした。荒削りな構成と言葉。ただ、何故か、のんびりとした雰囲気が漂う。和ませる殺伐?そんなものがあればの話だが、そういう世界を、ひょっとしたら見せてくれるかもしれない。醒めたユーモアが良い。 |
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犬婿入り / 多和田葉子 ☆☆☆☆ |
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最近の日本語は、良い悪いではなく貧相だと思う。流行語を、どこかの言語学者が「若者の方言」と言っていて、正しく!と思ったのですが、日本語を格好良く使うとか、粋に使うって事が、日本には最近ないのかな、と思っている。この多和田さんの小説は、微妙にずらされた言葉が非情に印象的。そのユーモラスな言葉のずらし、は刺激的だ。二編収録されていて「ペルソナ」は今一歩だが、「犬婿入り」は非情に面白い。言葉、ストーリー、設定が面白かった。田辺弘美の「蛇を踏む」は、これのパクリか? |
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映画史に即した評論集とは違った、スピルバーグ以降を中心にした映画論。特撮、コンピューターグラフィックといった技術的進歩がアメリカ映画に、どんな影響を与えたか?についての刺激的な論争の数々は、正に知的エンターテイメントと言えます。特に、最近活躍著しい塩田明彦(「月光の囁き」「どこまでもいこう」の監督)、黒沢清の語りは、今後のアメリカ映画を観るにあたって興味深い発言の数々だと思います。ある事柄を、どう見せるか?から何を見せるか?への変化。ストーリーが映し出すものへの従属へと変化していった事、等など。マジで面白いです。今後自覚的にアメリカ映画を観たい人に、お勧めです。 |
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唐十朗血風録 / 唐十朗 ☆☆☆ |
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伝説の紅テント。状況劇場の歴史を唐十朗の軽い語り口で読ませる面白本。まあ、往々にして、劇団の貧乏話とか、信じられないような逸話の数々は、大概面白いのだけれど、状況劇場位、破天荒な活動をしたの劇団も珍しいかもしれない。これに匹敵するのは寺山修司率いる天井桟敷くらいかも。とにかく、この劇団を卒業している根津甚八、小林薫の話もそうだが、唐十朗が作品を、どう捉えているか、と言った話が興味深く、やっぱり、あの熱い時代に状況を見ると言うのは格別の物があったんだろうなあ、と思いを馳せる。 |
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ドンキホーテの論争 / 笙野頼子 ☆☆(全体的に見れば) |
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この本の本質は、前半の純文学はダメになったのか?論争に尽きる。後半のエッセイはおまけです。純文学とは何か?と聞かれれば、巧く答えられないけれど、その存在は本を読む時に大きな存在になる。純文学とは何か?って考える上で、読んでみても良いかもしれない。さて、僕が感じる純文学は、人間が描かれた物語、出来れば、全く予想もしないような観点を教えてくれるような作品。最近読んだので痛切に純文学と感じたのは「永遠の仔」です。マジで。 |
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田紳有楽・空気男 / 藤枝静男 ☆☆☆(全体的に見れば) |
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「田紳有楽」は、相当楽しめた。以前、兄から勧められた時は、「何じゃ?こりゃ」と思ったけれど、再度読んでみたら実に面白い。この藤枝さん、結構曲者。作品の底に流れる考え方が、凄く共感できた。期待して、「空気男」を読んだが、こちらは、どうも良くなかった。ん〜、創作って難しいのね。 |
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アメリカ文学のレッスン / 柴田元幸 ☆☆☆ |
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アメリカ文学に入っていくきっかけとしては、かなり親切な本。ただ、ある程度知っている方々には少し物足りないだろうと思う。ただ、様々な作家のセレクションは、さすがに柴田元幸らしい。特徴のある「ほのぼの」とした文体は好感が持てる。しかし、柴田さんの著書としては、「生半可な学者」が未だに最高傑作なのは、少し寂しい。 |
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沖縄文化について、知るにはうってつけの一冊。沖縄民謡から探る沖縄の文化は、確実に一つの文化フィールドを切り取っている。戦争、抑圧、搾取、不思議な位共通点のあるアイルランドとだぶる沖縄の辿った歴史が、音楽の中に反映されている。音楽が生活、もっと言えば、人生の中で必要なアイテムになっている琉球文化に、嫉妬さえ感じる。そんな沖縄の民謡の深いバックグラウンドを丁寧に追ったノンフィクション。ヒット曲や流行りの曲をBGMで聴くようには聴いちゃいけないと思う程、沖縄の歌は深く、だからこそ、素晴らしい。世界に通用する文化とは、やはり、こういう深みのあるものだ、と読めば思える筈です。沖縄の音楽についてであると同時に、ある種の文化論とも言うべき作品。これと映画「ナビイの恋」を見れば、沖縄の姿が朧気ながら見えてくるのでは? |
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半分くらいしか理解できてないなあ。読後に感じたのは、先ずこれ。で、今年は2000年なので年末に、もう一回チャレンジしてみようと思っている。なぜなら、この作品自体が20世紀を総括しようとする壮大な、あまりにも無謀な作品だからだ。ピンチョン同様、頭の中身が破裂しそうな情報量を含んだ作品で、何度か読みたいと思わせる。しかし、ピンチョン以上に僕を、そう思わせるのは、より叙情的な部分が琴線に触れたからだ。よっぽど自信のある人以外には勧められる作品ではありませんが、良いです。これは。 |
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別に文章を書くための本ではなくて、如何に文章を読む本と思って貰って良いようです。文章を、こんな読み方が出来るんだ、と発見出来る事請け合い。特に野坂昭如の「エロ事師たち」の文章には大共感。様々な書き手の思惑を推測したり、考えたりしながら、なおかつ楽しいのが読書の楽しみであって、その視点の置き方の指南書だと思って読むと、実に、良く出来ている。日本文学の評論家では渡部直巳が個人的には贔屓だけれど、この人も今後参考にしたい人物になりそうだ。 |
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5人の目撃者が全員、犯人を特定している、でも物的証拠が何一つない。そんな事件で容疑者は、本当に犯人か?人間の記憶力から、犯罪を見た衝撃のノンフィクション。人間の記憶の構造から、曖昧さや不完全さが書かれていて、実に興味深い。記憶は未だ解明されていないことが多いが、警察、司法共々、そんな曖昧な記憶が重要な意義を持つ事の怖さ(だけじゃないけど)を告発する、この本の意義は大きいのではないか?特に陪審員制をとっているアメリカでは大きな問題なのは確かなようだ。読み手を刺激する、痛快な一冊お勧めです。 |
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ハンニバル ☆ |
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前半は面白かったんだけどねえ・・。レクター博士の内面に迫った今回の作品。Tハリスの意気込みは買うけど、成功しているとは言い難い。確かに「羊たちの沈黙」から怒涛のように繁殖したサイコミステリーに楔を打ちたい、って気持ちもあったのかもしれない。しかし、この作品が楔になるとは、到底思えません、僕には。サイコサスペンスの犯人がレクター博士のように深みが与えれてないのは読者は当然分かっている訳で、それだけにレクター博士を、より人間的に描こうとする努力は、むしろ無駄なんじゃないか?と思った次第。映画化して面白くなるんだろうか?この作品が・・・・。 |
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様々なジャンルのアーティストに音楽を聴かせて感想を言わせるのだが、そのメンツがコステロ、ホルガーシューカイ、ジョンケールからフィリップグラスまで、そりゃあ凄いメンツ。で、読んで思ったのは音楽の聞き方が様々だ、の一言につきる。そして、どれくらい僕がロック的なアプローチで音楽に接していたか、って事。音楽の奥深さを痛感させられる一冊。 |
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零歳の詩人 / 楠見朋彦 ☆☆☆ |
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世間で言う文学だ。芥川賞を受賞した「月蝕」の時も思ったのだけれど、世間一般で言うところの極めて文学的なテーマを描こうとした時、最早今の日本には、それを支えるだけの素材がないのでは?と思ってしまう。この作品もユーゴスラヴィアの戦争に巻き込まれた日本青年の話なのだ。生とか死を扱うだけのものがない、ってことだろうか?とにかく良く調べ、綿密に描かれた、この作品には敬意を表する。しかし、好きな部類の小説か?と聞かれると違うのだ。まるで海外文学。もっと等身大の日本人を描いた小説が出るべきなのでは?と思ってしまう。 |
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ぬる〜い地獄の歩き方 / 松尾スズキ ☆☆ |
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エッセイ集が出れば大体目を通す松尾スズキ。しかし、今回のはインタビュー&エッセイになっている。インタビューの方が本題の「ぬるい地獄の歩き方」にまつわるインタビュー。いじめ、若ハゲ、義足など。こっちはなかなか面白いが、後半のエッセイはつまらない。なんかやっつけ仕事っぽい臭いもする。「大人失格」等で見せた切れのある観察眼が見られないのが悲しい。 |
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屈辱ポンチ / 町田康 ☆☆☆ |
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非常に楽しめました。まず、文章が面白い。読んでいて楽しいって感じですね。夏目漱石を読んでいた時に「〜かしらん」なんて表現にホンワカするような感覚。非常に落語っぽくて文章自体が滑稽。何気ない表現に笑ってしまうような文章が良いです。しかしながら、設定は面白くても展開がいまいちなのが不満と言えば不満。もっと物語を読ませる、そういうモノが出てこないかなあ、と思う今日この頃。 |
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無情の世界 / 阿部和重 ☆☆☆ |
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今、新進の作家の中では一番注目している作家。「アメリカの夜」「インディヴィジュアルプロダクション」とインパクトの強い作品は、かなり衝撃だった。何となく見えてくるのは、今小説を書くには二通りのアプローチがあって、一つはリアルな今を書くこと。もう一つが、全くリアルから離れた所から書くことで文学性を醸し出すこと。現代をリアルに書くと、この得体がしれない文学性が消えてしまう。今は言葉、文化ともに高尚さはないと言った所だろう。で、この阿部和重は、現代をリアルに書いて、文学を成立させようと考えている人の中では筆頭かもしれない。そのチャレンジ精神は評価されるべき。しかし、だからと言って「素晴らしい」と素直に感動するかというと、それは別の話。 |
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リヴァイアサン / ポール・オースター ☆☆☆ |
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オースターの変革の作品。今までのオースターよりも生々しい人間像が浮き彫りにされている。オースターのアメリカに対するイメージを詰め込んだ印象が強く、それが鼻につくのが難点か?ドキュメンタリーでオースター自身が語っていた、アメリカは実験の国、失敗も成功も繰り返している。の言葉を忠実に作品にした感じがする。この人の小説は、ミステリーの手法を使って、読ませるのが巧いけれど、何作か読んでいると、多少食傷気味になる。ストーリーの展開の仕方が、結構ワンパターンになっているのが、少し不安。しかしながら、相変わらずグイグイ読ませて考えさせる手法は鮮やか。 |
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サーチエンジンシステムクラッシュ / 宮沢章夫 ☆☆☆ |
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待ちに待った宮沢章夫の処女作。小説はどうなるんだろう?という期待を込めて読んだが全くの宮沢ワールドだった。遊園地再生事業団で作り上げていた世界観そのまま。いつも異業種に挑戦する作家を見ると、それぞれのジャンルの方法論がハードルになる。鴻上尚史の映画にしても、結局演劇的な発想が、その作品のトーンを決定づけたりしていて、苦笑することが多い。宮沢章夫は、そこら辺をクリアしているとは思う。巧い具合に斬新な表現方法に昇華しているとは思うが、しかしながら、宮沢章夫の世界観を知らない人が、この本を面白がれるか?と言われると、疑問符だ。 |
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叶えられた祈り / トルーマン・カポーティ ☆☆ |
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この作品はカポーティ未完成の作品です。太宰治で言うところの「グッドバイ」ですね。で、この作品は時代の寵児としてNYの上流階級に潜り込んだカポーティが書いた暴露本的な内容なのですが、途中からさっぱり何が言いたいのか分からなくなります。もちろん、合間合間に垣間見えるセンスの良さ、卓越した表現力には頭が下がりますが、カポーティは、この作品で何が書きたかったか?さえ分かりません。はっきり言ってカポーティ大ファンの人以外は読んでも時間の無駄かも。 |
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この作者はシンニードオコナーの実の兄である。って、こういう前置きは抜きにして面白いです。この本は。アイルランドの文化に興味のある方は、もちろんの事、アイルランドの事も余り良く分からない人でも面白いでしょう。あちらの方独特のアイロニーとユーモアがない交ぜになった素敵な紀行文です。アメリカ各地にあるダブリン(アイルランドの首都ですね)を訪れて、その地にあるアイルランド的なものを探るのですが、空振りも多く、途中からやけっぱちになっている所がまた良い。適度ないい加減さが心地良しです。 |
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ニューヨークバナナ / マークフェイダー ☆☆☆ |
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私は、この人の事を知らない。単に訳者が岸本佐知子だったと言うだけで読んだ。しかし、なかなか面白い本だった。元々、ニューヨークでスタンダップコメディのような事をやっている人らしく、語りの中ににじみ出るユーモア感がたまらない。しかも、かなり自伝に近いようで同じようなエピソードが何回も出てくる。特に気の狂った母親の話が。その暗い話題を巧く書いていて面白かった。しかし、敢えて強く勧められる作品ではないです。 |
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永遠の仔 / 天童荒太 ☆☆☆☆☆ |
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簡潔な言葉に隠された大きな意味、とでも言うのだろうか?そういうものを、みんな忘れがちだなと思う。以前観た芝居の中で「お帰りなさい、話したい事がいっぱいあるんだ」と言う台詞に涙が止まらなかった事がある。これは2時間の芝居の中で積み重ねられた物語が、最後の、この台詞に集約されているからであって、芝居を観た者にしか分からない感動である。永遠の仔は、正に、そういう物語だった。上下巻会わせて1000ページを、登場人物と共に歩んだ者にしか与えられない感動がラストにある。「ごめんね」なんていう簡単な言葉に涙してしまった。久々に、読んでいて涙が止まらなかった。3人の主人公が抱えた全ての感情と、取らざる得なかった多くの選択。物語の全てが、最後の最後に多くの感情を沸き立たせてくる。この小説は、何も予備知識を持たずに読んでもらいたいですね。僕達が何気なく使っている言葉の怖さも、美しさも感じることが出来ます。そして、心の底から出る言葉が持つ力を信じることが出来ます。僕に、こんな臭い言葉を書かせる位、感動しました。必読。 |
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オウエンのために祈りを / Jアーヴィング ☆☆☆☆ |
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今まで会った人の中で、何時も不思議に思うタイプの人がいて、ひどく自分を良く見せようとする人がいる。「ああ、無理しているな」とか「随分と頑張ってるな」と思ったりするのだが、こういう中でも明らかに自分は優れていると思っている人がいて、得てして、そういう人は現実を歪曲して良いように捉えたりするものだ。それは、それで重要な側面もあるのだけれど、時として人間は、どこかに欠点があって、それを補おうとする力こそが生きていく糧になるんじゃないのかなあ?と思うことがある。そして、そういう不完全であることの積極性を美しく描きだす作家がアーヴィングだ。アーヴィングが優しいのは不完全さを補おうとする人間の悪戦苦闘をコミカルに描くことだ。その視線の優しさと、ユーモアが僕は凄く好きだ。正に、オウエンは、ガープの生まれ変わり、もしくはアンチフォレストガンプなのかもしれない。彼の独特の宗教観は分からない。しかしながら、彼の欠点を補おうとする力の強さこそ、僕が大好きなアーヴィングの得意とする所であり、この小説を彩る美しさになっている。 |
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「坊ちゃんの時代」シリーズ / 関川夏央・谷口ジロー ☆☆☆☆☆ |
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完璧です。これだけの饒舌で、美しく、楽しませてくれるエンターテイメントというのはなかなか出会えるモノではありません。これはマンガです。でも、マンガ、映画、小説などと比較しても比類ないものがあると断言できます。夏目漱石、石川啄木、森鴎外、幸徳秋水を中心に明治の日本を描きます。しかし、この明治の流れが、何故か現代の日本に対する不安に直結するのは何故だろう?それは、このマンガを読んでのお楽しみ。それぞれの作家の作品を、もう一度紐解こうと思わせるには充分なくらい面白いです。正に僕の理想とするエンターテイメントの一つの形です。これは。 |
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白夜行 / 東野圭吾 ☆☆☆ |
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面白い。ことは面白い。一気に読ませるし、伏線の引き方とかも絶妙かも。しかしながら興奮がない。これは何だろう?と考えてみるが、例えば憎むべき敵がいない、みたいな単純なことかもしれない。最近の日本のミステリーは総じてクオリティが高い。でも、物語として今一歩何かが足りないとおもうのだけど、ひょっとかしたら、身をよじるくらい難くなるような悪役がいないんじゃないか?と思うのですが、どうでしょう?そういう意味で「黒い家」が、とびきり面白かったのは、そういうことなんじゃないか?と感じたんですがねえ・・。しかし、これだけ読ませる作家がドンドン出ているミステリー界は、やっぱり充実していると言える。 |
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レイヴトラベラー 踊る旅人 / 清野栄一 ☆☆☆ |
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一つの新しい文化を個人の視点から描いた、と言う意味では興味深い一冊でした。レイヴとかって、小室の「今年はレイヴが来ますよ」宣言以来、なんか虚像が蠢いていて、どうにもインチキ臭い感じを払拭出来なかったのですが、これは凄く等身大のものに近づいていると思う。まあ、作者の思い入れが強すぎるせいか、何となく引いてしまう所もありますが、良く調べているし、好感が持てる。精神世界から見たレイヴというのは、分かるような分からないような感じもありますが、それでも説得力という意味では力強いものを感じました。日本がなくしている一つの音楽との接し方を思い出させてくれるという意味でも興味深い一冊です。 |
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柔らかな頬 / 桐野夏生 ☆☆☆ |
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前半は面白かった。全体の展開も面白い。ニュースステイションでも作者本人が言っていたけれど、犯人は考えていなかった、と言う話通り、ある意味意外なラスト。しかしながら、全体的に作者が自らの女性性に突っ走り過ぎたように、男性である私は思った。この感触は「ベティブルー」以来ですね。余りの不可解さに作品よりも作り手の感性を意識してしまう感じ。こんな女迷惑じゃん、と思っちゃった時点で、作品から一歩足を引きました。しかしながら前半は面白かった。この先どうなるんだろう?と言うのを人間の気持ちの中で展開する、正に本の醍醐味だと思いました。 |
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自由死刑 / 島田雅彦 ☆☆☆☆ |
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本当に5つ上げたいです。会心作ですね、これは。「君が壊れてしまう前に」など、ここの所、読後に素直に「ああ、面白かった」と言える作品を立て続けに発表している島田雅彦ですが、何となく自伝的内容が増えて危なっかしい感じがしましたが、そこはそこ、素晴らしいブラックユーモア的作品を出してくれました。後一週間で死のうと決めた主人公が自殺の準備を始めるが、そこにたかる元AV女優から殺し屋などが集まってきて、どうにも自由に自殺も出来ない、と言う内容。これを読んで、どう感じるかは、それぞれですが、どうにも生きづらい「今」を独特の作風で描ききってます。素晴らしい。 |
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大人失格 / 松尾スズキ ☆☆☆ |
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久々に、読んでいて笑ってしまうのを耐える(電車とかで、こうなると苦しくて逆に笑っちゃうんだよね)エッセイだった。人間が、基本的にダメな生き物だと言うスタンスを取っている松尾さんの姿勢は共感する。何処か間抜けなんだ、人間は、と言う視線は好き。この人、絶対に太宰治の事好きなんだろうなあ、と何時も思う。前に「生きていく不自由さを書きたい」みたいな事をしれっと言ったりしてるし。つまりは、結構真面目な人なんです、照れてはいるけれど。 |
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久々に、読んでいて来るモノがある小説だった。卑怯といえば卑怯な設定。60年代に何らかの感情を持っている人は、みんな「たまらん」なあと思ってしまうような話。しかし、この小説が素晴らしいのは、60年代をノスタルジックに扱う事で終わらせていない所だろう。とにかく、目一杯Bウィルソンやジムモリソン、ジミヘンを扱っていながら、最終的には現実に対峙する為の手段を模索するところ。そう言うスタンス自体はピンチョンとかに通じる所がある。 |
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カラス / 太田光 ☆☆☆ |
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爆笑問題は、ずっと好きだったコンビだ。僕が太田に興味を持ったのは、ビートたけしについて意見を求められた時に「影響を受けているのは否定できない。だから嫌ですね。死なねえかな早く」というコメントをした時だった。凄く分かるプロ的意見だと思ったのを覚えている。たけしは、崇拝出来る。でも、太田というのは好きだけど、何か距離を置きたい人であり、興味は凄く掻き立てられる。何となく暗黒部分が深いというか、どす黒いというか。で、この本は、そのダークサイドを、かなり見ることが出来る。巻末のエレカシ宮本、糸井重里、中沢新一との対談というセレクションもナイス。太田の、内面を、かなり忠実に浮き彫りにしている本だと思う。太田に興味がある方は是非。 |
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呆然とする技術 / 宮沢章夫 ☆☆☆ |
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今や、尊敬していると言っても過言ではないくらい、不条理を見据えてうん十年の大家です。この人の名著「彼岸からの言葉」は、余りの面白さに衝撃さえ走った程ですが、最近の著作には、妙な陰りを感じます。宮沢章夫が持っている独特の口調を、宮沢章夫が模倣する、という感じがするのです。何かを表現する人にありがちな病ですが、僕には、そう思えるのです。確かに、笑えたりもするし、独特の世界に対する視線(しょーもないモノがほとんどですが)は、さすがという所もあるのですが、でもでも、何だか衝撃が走らないのです。しかし、面白い事は面白いですよ。 |
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クロンカイトの世界 / ウォルタークロンカイト ☆☆ |
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アンカーマンの元祖と言われる人の自伝です。アメリカのメディア関係の本であれば必ず出てくると言っても良いくらい重要人物です。ところが、今まで読んでいた本から推察されるような人ではなく、この人は良い意味でも悪い意味でもアメリカと共に時を刻んで来た人なのだと感じました。つまりは、常に中立であり、アメリカの総意を代表する人だったようです。だからといって、面白くない訳ではないのですが、初めは自叙伝だったのにいつの間にかメディア論になってしまう辺りが悲しい。やっぱり自叙伝は主義主張ではなく、その人が生きてきた轍を読ませるモノだと、そう思う今日この頃です。 |
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蒲生邸事件 / 宮部みゆき ☆☆☆☆ |
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2.26事件の最中に、タイムスリップした少年の話。出た当初は、随分コバルト文庫みたいな話を書いたもんだ、と思ってました。が、ええ話です。これは。タイムスリップと言う使い古された題材を巧く処理した娯楽作。宮部みゆきは「火車」で、随分優しい視線を持った作家だなあ、と思いましたが、きっと、とても優しい人なのでしょう。女性らしい優しさのある小説を書く、希有な才能の持ち主だと思います。そして、タイムスリップする事で見えてくる歴史観も共感が出来ます。時が全てを証明してくれる、と言ったのはジョーストラマーというロック歌手ですが、時が、良いことも悪いこともハッキリとさせる。そして、一個人は、時には無力で・・・。堅い話なので止めましょう。でも、読めばきっと、そういうことに思いを馳せると思います。 |
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レディジョーカー / 高村薫 ☆☆☆ |
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う〜ん、重いねえ。面白い面白いと色々な人から言われたので読んでみました、今更ながら。しかし、どうも、この人の文章って、男に勝ちたいキャリアウーマンの文体に思えてならない。これが男だろうなあ、と思いながら書いてるような気がする。しかし、この小説は今の色々な汚い世界というか、まともそうで汚い世界を、かなり描いてるんじゃないかな?と思う。読みようによっては、凄い小説であることは間違いなし。しかし、キャラクターが好きになれないのは何故か? |
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西麻布ダンス教室 / 桜井圭介・押切伸一・いとうせいこう ☆☆☆☆ |
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モダンダンスというものが、どういうモノか?テーマとは?踊り手がダンスで作り上げようとするものは?っていう言葉にすると、何だか鈍くさいというかつまらないことを面白おかしく書いている対談集。まあ、ダンスってのは肉体が一番モノを言っている訳で、その鍛え上げた肉体こそが一番凄いのだけど、ダンスを見てみたくなる、そんな本です。個人的にはピナバウシュが見てみたい。 |
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突破者 / 宮崎学 ☆☆☆ |
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この本は、宮崎学と言う人が書いたってだけで、殆ど成功している。「わざと?」って思うくらいの生き様が凄すぎ。「真剣士 小池重明」も、そうだけど生きてるだけで奇跡という気さえしてくる。しかしながら、それ以上に戦後の日本が、というより、つい十数年前まで日本は、こてこてアジアだった、というか立派に混沌としていたのだなあ、と感心しきり。こんなにまで秩序が日本の津々浦々まで広がったのが奇跡に思えてくる。 |
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忘れられた帝国/島田雅彦 ☆☆☆ |
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今、気になる作家の仲間入りを果たしている島田雅彦の「帝国シリーズ」の第1作。この人の、この話は、かなり私小説的ニュアンスは高いと思う。「君が壊れて〜」と共通する登場人物など、かなり自伝的なのではないだろうか?しかし、その中で、確実に郊外という場を物語の中心にしている。「彼岸先生」とかとも共通するのだけれど、郊外と川と、変わりばえがないが奇妙な日常生活というのが、凄く刺激的だ。しかしながら、この作品は刺激的ではあるけれど、物語として少し壊れてしまっているような気がする。 |
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最悪/奥田英朗 ☆☆☆ |
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なんかにわかに本屋でも平積み状態になりつつある「最悪」。とにかく人間が堕ちていく様が説得力と情報力で緻密に書かれている前半が面白い。町工場の経営者、銀行の受け付け嬢、何の目的もないちんぴら。この3人が徐々に泥沼にはまっていく様は凄い。なんか、人間って本当に、こういう風に墜ちていくんだろうなあと思える展開。ところが、ラスト近くで半分強引なうっちゃりがあって、一瞬引いてしまう。それはなしじゃん?って思ってしまう後半50ページくらい。墜ちていってからの展開はガッカリ。しかしながら、前半の墜ちっぷりは凄い。ここだけで読む価値あり。 |
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百年目の青空/宮沢章夫 ☆☆☆(宮沢章夫だから辛く) |
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面白いんだよね、宮沢章夫は。とにかく、この世の中を見る視点。最早、面白いを通り越して尊敬してます。くだらないと言えば、それまでかもしれない。でも、こういう視点を持てない人が戦争をしてみたり、汚職をしてみたりしてるんじゃないかなあ、と本気で思うのです。「渡辺は、何故なべさんと呼ばれるか?」なんて、普通考えないって。「やきうどんを始めた喫茶店は、既に終わっている」なんて深いでしょ?しかも、その思索が不思議と哲学のように深い。この人が演劇では、ひどくロマンティックな作品を作っているのも、僕にとっては素敵な事です。大槻ケンジも激賛した「彼岸からの手紙」(とにかく永遠の愛読書です。これは)が絶版で手に入らない状態なのは絶対におかしい。とにかく、この人の本は読んでみるべきです。そこには絶対的に不思議で面白く、そして深い世界があります。価値観が凝り固まっている貴方。貴方こそ読むべきです |
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第三の役立たず/松尾スズキ ☆☆☆☆ |
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小劇場演劇界では、既に権威と言ってもいい松尾スズキの対談集。根本敬、庵野秀明、天久聖一、鶴見済、町田康など曲者ぞろい。とにかくセレクション自体に悪意さえ感じるのだけれど、とにかく面白い。どうにも社会の規範から外れてしまう人に焦点を当てた対談は、どうしようもないという雰囲気が漂っている。「いいかげん」である事を深く考えさせられる。いい加減=誠実という一見矛盾している公式を充分証明していて、その例えとしてフィッシュマンズや石野卓球が出てくる辺りは、さすが、と言う感じ。読んでいて「うんうん」と頷いてしまった。完全に世の中が狂ってしまった世の中で、狂いながら誠実でいたい人は読んで見るべき。ここには何かしらの「しょーもない」ヒントが埋まっていると思う。 |
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君が壊れてしまう前に/島田雅彦 ☆☆☆☆ |
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最近、島田雅彦が好きだ。出せば売れるMHよりも数倍刺激的で面白い小説を書いていると思うのだけれど、最近は余り注目もされていないような気がする。この作品は、恐らく自叙伝のようなものだと思うのだけれど、郊外という異様な空間を集中的に書いている島田さんらしい刺激的で面白い内容。主人公の過激な思想と、行動の幼稚さ。そのアンバランスさが、作品を一層刺激的で面白いものにしている。何よりも郊外という書くべき場を発見した時点で、島田雅彦と言う小説家は一歩先へ行っていると思う。そして、思春期というアンバランスな時間を、日記という形態を取ることで、ウェットになることなく書ききっていて、非常に好感がもてる。 |
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蚤のサーカス/藤田雅矢 ☆☆☆ 1999.2.2 |
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「糞袋」で落語調の不思議な小説を発表した作者の第2作。前回の装丁がしりあがり寿だった。今回は漫画☆太郎とくる、文学者らしからぬ行動がナイス。こういうセンスって今の文学界には必要だと思う。何でも世間から離れすぎると良いことはない。今回は不思議な童話調な作風になっていて、凄く器用な作家なのだと思った。蚤のサーカスというとチャップリンを思い出すのだけれど、今や消えてしまった文化を扱うことで、日本が無くしてしまった原風景を浮き彫りにしていくテーマには共感する。作中の描写も、とてもイマジネイションを喚起させられる場面が幾つもあった。ところが、後半ストーリーに無理が出てくるのが残念。心意気は買うし、読んで損するモノではないけれど、もう少しSFチックになることなく展開していけば面白かったのになあ、と思ってしまいました。 |
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もう一人の力道山 ☆☆☆☆ 1999.1.25 |
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とりあえず、プロレスファンの間では話題になった著作。しかしながら、これはプロレスファンの為の本にしておくには勿体ない位面白いノンフィクション作品であると言っておこう。力道山が朝鮮人であったということ。そして、戦後のヒーローとして力道山がしたことが、そのまま、朝鮮人として生きていく事と密着しているということ。このことが綿密に書かれている本である。とにかく第二次世界大戦後の日本を知る上でも非常に興味深い本であることに間違いない。日本の中に朝鮮人や中国人が入ってくるのは、何も「不夜城」等で書かれた今からではない。むしろ、戦中に行われた忌まわしい出来事の時から、ずっと続いていることなんだと改めて実感。そして、そのことがタブーとなっていたと言う事実を日本人は真摯に受けとめなければならないのだろう、と実感。そして、それを踏まえた上で、かの国と接するべきなのだろう。 |
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ゲルマニウムの夜/花村萬月 ☆☆☆☆ 1999.1.20 |
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スタジオヴォイスの2月号「小説家の肖像」は非常に興味深い特集だった。2,3年前、日本映画は死んでいるのか?みたいな事が言われた時期があって、その時の雰囲気が似てるなあ、と思ったのです。しかし、死んでいると言いながら、その停滞ムードとは裏腹にマグマがぐつぐつと煮えたぎっているって感じも似ている。現代日本文学は再生に向かっているのではないか?と感じるには十分の内容だったのです。小説を読む人は減っていようが、面白いものを次々と出していけば認められていく事になるでしょう。さて、本作何ですが、奇しくも「タイタンの幼女」と同様、宗教について、そして人間の根元的な悪について語られていました。それにしてもグロい。作者が意図的にグロくしているのが分かるので読めますが、きれい事を並べるHMみたいな人は結構駄目かも。でも、それさえ克服して読んでみれば、あまりにも崇高な作者の試みと、グロなのに清々しいラストに意外な壮快感を感じることが出来るんじゃないかと思います。好きとは言わないけれど、刺激的な作品として読んでおきたい一冊だと思います。面白いです。 |
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緋色の記憶/トマスHクック ☆☆☆☆ 1999.1.15 |
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「このミステリーがすごい」は、いつも年末に気にしているのだけれど、文春とともに評価が高かった、この小説を読んで見ることにした。どれくらいハラハラドキドキするかなと思っていたのだけれど、期待は裏切られた。とにかく美しい小説だ。これをミステリーと言っていいのか?明らかに、この小説は耽美小説と言われるべきモノではないのか?と痛感。とにかく、素敵な小説だ。小池真理子の「恋」を思い出したのだけれど、人間の異性を求める情熱を静かに丹念に描いている。とにかく語り口の巧さに脱帽。過去と現在を自由に行き来する構成の巧さ。まるで映画を見ているようだったP.オースターはミステリーを巧みに利用して文学を緻密に作り上げていったとしたら、この人はミステリーに固執して文学を緻密に作り上げていっている。どちらが良いかというと、どうとも言えないが、どちらが巧いかといえば、こっちなのだろう。ミステリーとしてでなく純粋に文学としても読む価値十分。 |
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タイタンの幼女/カートボネガット Jr☆☆☆ 1999.1.6 |
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アメリカの大学生に人気があった作家として、P.オースターがいて、その前がJ.アーヴィングがいて、その前が、このヴォネガットだったと言われている。概ね、僕はアメリカの大学生が好きな作家と言うのが好きらしい。以前は余りにもまどろっこしい語り口調が気に入らなかったが、最近凄く好きになった。とにかく、シヴィアに世界を見て、なおかつ優しく世界を語る、と言うのが3人の作家の特徴だろうか?一応SF作家という事になっているけれど、ヴォネガットは決してSFで括ってはいけない作家だ。「タイタンの幼女」も、そんな作品だろう。宗教の根元に迫る、もしくは、滑稽な人間を優しく語る時に、非現実的な設定を巧く利用しているだけで、明らかに、この人の作品は(語弊はあるけれど)純文学として評価すべき。ヴォネガットを読むと現代演劇の根幹を揺るがした平田オリザの父の台詞をいつも思い出す「人間は、何千年、何万年も愛をとかれるほど愛のない動物だ」。悲しいけれど、何処か憎めない愚かな人間が、この小説でも大活躍している。ちなみに爆笑問題の太田はヴォネガットの大ファンで、彼が設立している事務所のタイタンとはこの小説からとっているらしい。 |
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15才 天井桟敷物語/高橋 咲☆☆☆ 1999.1.2 |
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寺山修司率いる劇団天井桟敷に若干15才で入団し、奇異な青春を過ごした少女の実録もの。伝説と化している天井桟敷ではあるが、中を覗いてみれば、実に人間くさい、と言うより、結構陳腐な人間模様があった、と言う気が楽になるというか、何とも複雑な感じがする。しかしながら、作者自身がラストで劇団を離れていくのだが、読んでいて、作者自身に演劇と言うモノに愛情を持っていたのか?と言う疑問が残ってしまう。ただ、単に非日常に浸ってみたい、という思春期にありがちな動機からだったのでは?と思ってしまう後半は、少し説明不足か。それとも本当にそうだったのか?後半の失速が残念。 |
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偶然の音楽/ポール オースター☆☆☆ 1998.12.23 |
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お気に入りのポールオースターの、久々の新作。しかしながら、イマイチの感を拭えない。映画「キューヴ」や、ディックの世界のような「システムとしての世界」という設定自体が陳腐とも言えないだろうか?それを描くなら、ポールが得意とする「偶然」と言うキーワードは。実に説得力に欠けるのではないか、と感じた。逆に、必然が少しでもあれば良いのに、と思う。ごく日常的事件の中の「偶然」は光って見えるけれど、非日常的状況での「偶然」は、やはりご都合主義に見えてきてしまう、と言う事だ。 |
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貴方はピンチョンに対して偏見がありませんか?インテリが読むような難しい本だろう、とか。私はそうでした。きっと僕なんか理解不能で読めないだろうと。ところがどっこいです。この小説は、60年代のアメリカのサブカルチャーに少しでも興味のある方は絶対読んでみるべき。あの熱い時代を通った人だったら、きっと胸熱くなるに違いないくらい、あの時代を実に感傷的に、でも、不思議とポシティヴに描ききっています。特に、この小説はアメリカの文化の生の声を聞くことが出来ます。これはアメリカの現代史が好きな僕にとっては実に貴重な情報でした。あの時代は、結局無謀ではあったけれど、と言うより、むしろ無謀だったからこそ美しかったと言うことが分かる娯楽小説。未来世紀ブラジルとか好きな人にはお勧め。 |