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「暗いよ〜、狭いよ〜、助けてくれよ〜」的世界 「ダンサー・イン・ザ・ダーク」を評価するか、しないか?について |
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前に中学の同級生が、修学旅行に行った時の事を話してくれた。彼は別の高校へ行っていて、八王子は、大体京都・奈良コースが普通なのだけれど、珍しく広島の方へ修学旅行に出掛けたのだった。 で、感想を聞くと、もちろん「楽しかった」だ。 ただ、彼には不満があった。途中でコースに組み込まれていた、被爆者の方々との対面だ。比較的、真面目な彼は、その時、泣きながら被爆体験を語るおばあさんの話を、戸惑いを感じつつ一生懸命聞いたのだそうだ。 で、その対面が終わって、被爆の恐ろしさ、とか、哀しさの重みを背負った友人一同は、何とも言えない感情を抱えたまま、一日を終えたのだそうだ。最も盛り上がる修学旅行の夜でさえ、「果たして、こんなに呑気に楽しんで良いのか?」と何度も自問自答するような、やるせない夜だったらしい。 もちろん、修学旅行だ。「まなぶ」と付いている以上、そう言った貴重な社会勉強は付いていても悪くはない。ただ、親しい仲間と過ごす楽しみな旅行で、何も、そこまでヘヴィにならなくても・・・というのが、友人の不満の理由だった。
それを聞いた時、思い浮かんだ、同じような事。 学校で、たわむれに「はだしのゲン」を読んだ時。学校に存在する数少ないマンガを、「暇だから」なんていう軽い気持ちで読んだが為に感じた、今の気楽な自分を責めてしまう罪悪感を感じて落ち込んでしまう感覚。確かに、史実として存在する人類の愚行と、それに不運にも巻き込まれた人々の悲劇。これを、ただ知らないで「いいじゃん別に」と思うのも違う。かといって、「こんな悲劇が赦されて良い訳がない、僕らはこの事実を直視して、考えなければいけないんだ」などと声高に言うのとも違う感覚。 強いて言うならば、通りがかりにいきなりボディブローを喰らったような感覚だ。気が緩み、体全体が弛緩した状態での強烈な一撃。身構えていなかった為に効いてしまったのだ。緩んでたからいけない、果たしてそうだろうか?
ビヨーク主演、カンヌ映画祭で絶賛された「ダンサー・イン・ザ・ダーク」を観た時に、感じたのは、正に「はだしのゲン」を読んだ時のような居心地の悪さだった。 チェコからの移民であるセルマが、アメリカで子供と二人で貧しい生活を強いられている。セルマは遺伝的な問題があり、いずれ失明してしまう。せめて子供だけは、と少ない工場での給金を貯めて、子供の手術代を貯めようとしているが、そのお金を盗まれ・・・ まさに、悲劇だ。絵に描いたような悲劇だ。 ただ、映画の前半は、ビヨーク演じるセルマが苦境や、哀しい気分になると、ふっと目を閉じ、華やかに歌い踊る空想のシーンがある。ビヨークの極上の歌唱力と、従来のミュージカル的ではない、現代舞踊的な踊りが楽しく、正に映画の見所になっている。 この辺りの構成は、もう、僕が大好きな作りになっている。苦しい現実のシーンはハンドカメラを使って、わざとぶらしたり、色も粗雑にすることでドキュメンタリーのように映し、リアル感を出す。片や、ミュージカルシーンは色鮮やかで、カットも凝っていて映画的な作りになっている。この対比が素晴らしい。現実と虚構。この対比が、映画の中軸になっている。 ところが、セルマが殺人を犯し、死刑を宣告される辺りから、映画は一変する。セルマは妄想の世界に入れなくなり、全く音の無い世界の中でもがき苦しむ。一生懸命音を求めるが、最早高らかに響き渡る音楽はないのだ。 そして、迎えるラストは、それはもう、悲劇なのだ。もう、開いた口が塞がらない位の悲劇的なシーンが待っている。
ティム・ロビンスが死刑制度に非を唱え、ストイックに描き出した「デッドマン・ウォーキング」同様、映し出されるのは目を背けたくなる世界だ。 ただ、厄介なのは、描き出されたものが否定したり、無視したりすべき事柄では無いことなのだ。 突きつけられた事柄は、それはもう、「まずいなあ、無視したらいけないじゃん」としか言いようがないもので、しかも、夢も希望もない現実だ。 「暗いよ〜、狭いよ〜、助けてくれよ〜」の世界を突きつけられて、終わっても「泣いたねえ」とも「感動した」とも、「死刑って酷いよね、無くさないとね」とも言えない、何ともし難い気持ちになってしまう。 とどのつまり、ラストに希望を見いだせなかった僕が弱いのか? 個人的には中盤までのミュージカルシーンを差し挟みながら進む悲劇は、屈指の出来だと思っている。だからこそ、ラストに異を唱えたくなるのだ。何か救いがあっても良いじゃないか!ハッピーエンドじゃなくても良い。何かしら救いがラストに提示されていたら恐らく、僕にとっては忘れられない映画の一本になったと思えただけに残念だった。 それこそ、修学旅行中にダークになってしまった友人や、「はだしのゲン」を読んだ時のあの感覚が襲ってきたのだ。僕には。 この「ダンサー・イン・ザ・ダーク」は、12月23日から、(まるで映画の内容を無視したかのような)正月全国ロードショー。クリスマス、正月に、とことんまで落ちてみようという方は是非。(しかし、クリスマスに「ビヨークが出てるんだよ」なんて言いながら観てしまったカップルには同情するなあ) それ以外の方は、正月開けて一段落ついた頃に観ることをお勧めします。 |