大人計画「母を逃がす」
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さて、松尾スズキ率いる大人計画について。ですが、まず、これだけは言っておきたいのが、この劇団は好き嫌いがハッキリと分かれるということです。 1・人間は、他の動物より素敵だと思っている人 2・24時間テレビで募金したことがある(もしくは命が地球よりも重いとか訳の分からない事を信じている) 3・駄目な人が嫌いである まず、この中で一つでも該当する人は、好きになれません。観ていて腹が立つ人もいるでしょう。こういう人は観ない方が良いです。わざわざ劇場に足を運んで腹を立てるなんて損ですからね。 逆に 1・自分を駄目だと思って笑える人 2・人間は、動物よりも性質が悪いと思っている 3・下ネタを素直に笑える と言うのが好きになれる条件かも。もちろん、これだけではないけれど。実は、僕は松尾スズキは凄いロマンチストだと思っている。人間愛に溢れているとさえ思っています。(しかもひどく回りくどい表現しかしませんが) 変なたとえ話になりますが、例えば合コンがあります。お目当ての娘がいて、その人に積極的にアプローチをしている人が2人います。で、そのお目当ての娘は、泥酔しゲロをテーブルに吐き散らしたとします。そのゲロを吐いた人が「ねえ、キスして」と言って、ちょっと引く人と、ちょっと汚いなあとか良いながらディープキスをする人。どちらが優しいでしょうか? 松尾スズキと言う人は、笑ってディープキスをする人だと思います。「あ、お肉があった」とか軽くギャグを付け添えて。そういう優しさを僕は大人計画に見ることがあります。もちろんたとえ話ですけどね。 今回の芝居も、そういう優しい視点を僕は感じました。一部では失敗作(成功とは言えないけれど)とか言われたり、変わろうとしていると言われているようですが、ちっとも変わったとは思いません。変わったのは、大分優しさが増したと言うことでしょうか?それが生温いと思う人はいるかもしれませんが。過激であれば良いってものでもないと思うのですが・・。 ストーリーは、田舎の共同体というより、アウトサイダーが集まった閉鎖的な集団の住む閉じた共同体が舞台。その共同体のリーダーは、父の後を継いだ兄が逮捕されて、仕方なくリーダーになっている。そして、リーダーとしての風格とかが付かない自分に腹も立てている。その為独善的な行動もしている。共同体の一つのルールが多額の保険金を各自が払っていて、それはリーダーに掛けられていて、リーダーが死ねば多額の保険金が入るようになっている。その構成員たちが、様々な奇怪な行動を取って・・・。と言うストーリー。 まあ、とにかく登場人物が変わっている。修学旅行ではぐれたまま共同体に入ってしまった存在感のない女。スタインベックの「二十日鼠と人間」そっくりの、頭のおかしい男と、頭は良いが人間的に少しおかしい男(宮藤官九朗が好演)の二人組。レズビアンで警察を追い出された婦人警官。東京に憧れていてブランドものに滅法弱い馬鹿女(猫背椿が好演)。女に飢えている中年童貞男二人。家族に異様に憎悪を感じている少女。謎の保険関係の男(松尾スズキの風格さえ溢れるキャラ)など。とにかくアクが強いのは大人計画らしい。 この作品に解釈が必要か?というのはあるけれど、とどのつまり「それでも人生は続く」と言うことなんだろう。汚い事や、愚かな事や、くだらない事や、つまらない諍いが絶えることはない。女達が相手にしてくれないので、少女を育てるのを条件に、その少女が女になったらヤラせてもらおうとする男や、リーダー然としたいが為に絞首台を作るリーダー。いつまでも東京に対する憧れを捨てられず東京から来たものに無条件で近づく女。跡継ぎを作る為に少女を犯すリーダーなど。愚かな事この上ない。しかし、「愚行」は人間の特権なのかもしれない。そして、その「愚行」を笑い飛ばして、それでも人間は希望を持って生きていく。それを素直に肯定する松尾スズキに優しさを見る。 強いて言えば、今回の作品は希望に対する説得力が足りなかったと言うことに尽きるでしょう。突き抜ける感動を感じた「カウントダウン」のような強い説得力が足りなかった。それでも、ラストの向日葵は素敵な素敵なラストを飾ってくれていた。 |