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ちょっとちょっと、君はちょっと前の日本を知ってる? 〜ぶっとぶ内容に口あんぐり「昭和の劇〜.映画脚本家 笠原和夫」を読んで〜 |
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別に何が、という訳でもないが、本屋で見た時「これは面白いに違いない」と確信というより、突き動かされる物があった。強烈に頭に残っていて、近くの古本屋で売ってるのを見た時は、「これだから阿佐ヶ谷から離れられないんだよねえ」と溜息が出た。太田出版から発売、定価4286円の、庶民にはなかなか手が出ない代物です。興味があったら図書館に、すぐにリクエストだ! いや、とにかく「仁義なき戦い」など、東映やくざ映画の脚本を書いていた、その筋では有名な脚本家で、もちろん闇市から発生したやくざを描きつつ、戦後直後の日本を背中に背負った脚本家であるからして、その人のインタビューとくれば面白くない訳がないのだけれど、そのすさまじい洞察力と、脚本を書く為に集めたネタの数々には、驚く事間違いなし。勿論、脚本家としても非常に優れた人で、物語の構成や人間関係のあやへのこだわりなど、今のドラマ関係者に聴かせてあげたい位の唸る内容なのも忘れてはいけない。 でもって、この本が裏日本昭和史(庶民寄り)とも言える内容にもなっていて、脚本家の脚本創作術を取り上げたつもりが、それ以上に昭和の文化史になっているのに驚く。なんっつても地方の名のあるやくざやら、伝説的悪党がずらずらと出てくるだけでも、「むむむむ」と唸るのに、笠原自身が非常に人間、時代、国家といった物に鋭い洞察を入れて来るから、読んでいる間中、胸の高鳴りを抑え切れず「ああ、この思いを誰に伝えよう!」なんて、純な中高生の放課後チックな気分になってしまった。 中高生と言えば、記憶があるはずだ。縄文時代とか弥生時代とか、物証も少ない時代を何故か丁寧にやり、第二次世界大戦辺りから加速度を増し、遂に戦後になるとやったかどうかさえ、定かでは無いことを。あれはきっと国家的謀略だな。都合の悪い事は教えないんだ、きっと。 話は逸れたが、笠原という人物自体が、元々テロリズム、暗殺に、ある種のシンパシーを感じているような人だから、学者的な歴史解釈をする訳もなく、暗殺、テロリズムという物に何か惹かれていたらしく、そっち方面にやたらと詳しい。日本には数十年前は暗殺やテロがあったなんて、今「世界平和の為にイマジンしようぜ」と軽々しくのたまうJレノン気取りの脳天気君には、ちょっと想像出来ない世界を直視し、テロリズムには、どうしようもない貧困が根っこにあって、それが殺意まで昇華するのは理屈じゃない。陶酔感や衝動が常にある。みたいな事をいけしゃあしゃあとのたまう始末。天皇制から阿波踊り、戦中の人間達の営みまで、最早これは風俗史としても一級の書物と言えまいか? 極めつけは、2・26事件は、青年将校の軍事クーデターとして歴史上位置づけられているが、その意味合いとは別に天皇の後継者問題がバックにあったというエピソード。大正天皇に子供が出来ない為、貞明皇后に何人か男をあてた。初めにあてられた男を嫌がった貞明皇后は、裕仁に強い拒否反応があり、秩父宮の父を気に入っていた為、秩父宮を天皇の座に送りたがった。これを画策したのが山県有朋で、宮中某重大事件で失脚した後、正当な後継者としての自負があった秩父宮は軍に味方を作ろうと画策したとかしないとか。それが青年将校達の鬱屈と合致して事件が起こったと言う。当時の秩父宮は、天皇制ではなく、大統領制を作ろうと考えていて、初めは、皇族である自分がなるしかないが、いずれ一般から選ばれる大統領制にすると考えていた。と言う背景が、2・26事件にはある。なんて、本当か?と思うような話が出てくる。 いや、勿論全てを鵜呑みにする訳にもいかないが、周知の事実として大正天皇が薄弱だったとか、その後の昭和天皇が、今じゃ余り言われないが戦争でイケイケ状態だったにちがいないと考えるにつけ、この話がなまじ嘘とは言えないだけに興味深い。少なくとも、天皇制、天皇の戦争責任を見えない振り決め込んでいる、この国の歴史なんて、良いように改ざんされているとしても全然おかしくないのである。 読んでいて、少なくとも僕達は、つい100年前の日本の歴史さえ正確に把握していない事を実感せずにはいられない。所詮アジアの端っこの島国の歴史なのだ。ついこないだまで貧困に喘いでいた国なのだ。 その先達達の歴史くらい、きちっと把握しておかなきゃ、歴史の無い国になっちゃうなあ、などと思う。 とにかく、映画の副読本としてだけでなく、強烈な面白さを持った歴史本としても、是非読む事をお勧めする。 |