安部公房の小説の中に見える都市
序章
-
優れた小説は、それまでの自分の硬直した世界観を突き崩し、新しい世界観を与え
-
てくれることがある。それが、小説の持っている力のひとつである。そのようなもの
-
を与えられた作品が、彼のような、同時代に生きている者によるものだった場合特に、
-
自分が日常眺めている風景が一変する。全く違う人間の目で、自分の住んでいる町や
-
国、まわりの他人を眺めることができる。
-
安部の作品には、都市を舞台にしたものが多い。しかし、東京や大阪といった、具体
-
的な地名が出てくるわけではない。小説の中で描かれる世界は、どこにでもあるよう
-
な、どこでもいいような、俺にとってはとても平凡に感じられる風景だ。生まれてか
-
らずっと東京郊外に住み続けている俺に、平凡に感じられるということは、つまり、
-
東京なんだろうとひとりよがりな憶測が浮かぶ。だが、人は自分が拠り所にしている
-
ものを、他人も拠り所にすべきだと思いがちなところがあるからこの考えは間違って
-
いる。
-
平凡という言葉だけでは表せない、何かもっと別の、夢の中の世界のような、理性
-
だけでは計れないもの・・・…。飛躍したイメージと論理が、ある象徴を獲得している。
-
それは、最後の長編『カンガルーノート』において極まるのだが、彼はそれを、「言
-
葉の中を泳ぐように書く」と言っている。
-
(つづきを読む)
TOP MENU