夜中に、車の運転をしていたら欠伸が出た。涙をこぼさぬように目を細めると、眼球の表面に厚い水の膜ができて、そこに、道沿いに延々と続く、白く虚ろな街灯の明かりが屈折し、湾曲した光線は、まばらな建物の隙間に見える黒い空に向かって、突き刺さってゆくように見える。俺の視線と垂直の関係になる直線が数本ひかれる。それを、自分の指を使って、模倣してみた。それは、1回のまばたきによって、嘘のように消え、街灯はまたいつもの点の連続に戻る。
(中略)
  黒い背景が、唐突に一面の青に変わると、体の表面の温度が変わったように感じた。しばしばよぎる白。うずをまく白。その背景である青。そしてまた、突然視界いっぱいが茶色になった。くっきりと浮かび上がる青との境界線と、それを縁取るように緑の帯が、丸い地平線の向こうにのびてゆく。内陸部に行くにしたがって、茶色がだんだん濃くなってきた。やがて、それとはまったく対照的な白が、俺の目をひきつけた。
  はじめは、雲がぼんやりと光を吸い込んだように膨らんだようだったが、やがて闇の中に飲み込まれた。一点の光が次第に大きくなってくる。まだ小さいが、目の裏に異物が入り込んだような痛みが走った。その異物は、光が巨大化するのに比例して、大きくなっていった。まるでその塊が、眼球に代わって眼窩におさまろうとするかのようだ。
  強すぎる光は、もう俺の目には映っていない。俺の目は、外の闇の色と同じ、炭の切れ端になった。
(中略)
  ベッドの中で、シーツがたてる布どうしがこすりあわされる音。小さいが、聴覚ははっきりとそれをとらえることができる。スピード。町の風景。たぶん音速より少し遅いくらい。スピード。見えている。道なりに飛んでいる。スピード。低空飛行では、意志の力で飛ぶ方向を変えることはできない。なぜなら、道路があまりにも予測不可能にまがりくねっていて、ただあっけにとられて眺めているだけだからだ。しかし上に向けて方向を変えることはできる。町を飛ぶのにはいいかげん辟易したからというのもある。スピード。すぐに大気圏をつき抜けて宇宙空間へ。遮るもののなくなったスピードは、すぐ光速に近づく。暗黒の中にまばらに恒星が見える。もうはかりしれないほどスピードは増している。恒星は光の尾をひいて後ろへ流れてゆく。尾はなかなか消えずにしばらく残るので、次々に現れる光の尾は視界全体を覆い尽くしてゆく。まるで『スターウォーズ』の宇宙船の窓から見たワープの瞬間みたいだ。ここにおいて方向を変えられるのは右だけだ。理由は分からない。DNAの螺旋かもしれない。実際、はてしなく右へ飛んでいる時、もう一人の別の自分を遠方に飛ばして、右に向かう自分を眺めさせたら、まるでバネのような軌道を、光の尾を残しながら飛んでいた。果てしなく長い、光の螺旋。そして俺は、体が光でできた人間を・・・・・・
(中略)
  闇から光が生まれた。
TOP MENU