The Last Balloon

「Apple Venus Volume 1」収録。

哀切を帯びた曲調、そして愚かでいていとしい人間にわずかな希望を灯した歌詞で、ラストを飾るにふさわしい曲です。
XTC魅力を知っていただくために、鑑賞のてびきを掲載します。

 おぼえがき

そもそもこのThe Last Balloonの鑑賞ノートを作成することになったのは、XTCページをお持ちの「今浦島日記」のぱとさんが、The Last Balloonの最後のフレーズは「ぼくらみんなを降ろしてくれ」ではないか、と「Apple Venus Volume 1」日本盤に添付された翻訳に疑問を呈したことから始まりました。そして英語に堪能なみーさんにご協力いただきBBSで検討をした結果、次に続く各フレーズの読み方が出来ました。

(その後「Apple Venus Volume 1」のデモ曲を収録した「HOMESPUN」が発売され、日本盤に添付された訳詞の全面改訂がなされました)

鑑賞ノートは、
みーさんがお書きになった文章に、ぱとさん、琴蕗(雛子)のコメントを付け加えて琴蕗が再構成いたしました。Andy Partridgeの言葉の豊かさを、ぜひ味わってください。

なお原詞は
こちらをご参照ください。

★The Last Balloon検討ログ

 The Last Balloon鑑賞のてびき

Form that line right here
さあここに列をお作りください
なんとなくサーカスの呼び込み調ですね。

Climb aboard
気球に乗る(乗り込む)わけなのだから、どうしても一段や二段*登んなきゃ*ならないので、
訳としては「お乗り込みください」という感じだと思います。

The last balloon they'll fly
これは The last balloon is leaving, the last balloon of allの言いかえだと思います。

つまり、「残された最後の気球が」と、強調されてるのだと思います。
  補足 they'll flyの "they"について
  それにしても"they"というのがアンディーらしい。私(みーさん)は「私達でない存在」、つまり「なんらかの「意志」と取りました。これが"He"となったら途端にイヤラしくなると思います。(まさにノアの箱船になってしまう。)
琴蕗は"
they"を「こども」として解釈しましたが、ここは文法というよりは、個人の取り方の自由になります。

And we won't qualify
僕達(=オトナ)は、気球に乗る資格はない」と言っているのです。
重いものをつけすぎているからです。

Move aloft while you're fleet and fast
身軽なうちに飛び立ちなさいというのですから、
罪という足かせがついていないうちに飛び立っていきなさいという事なのでしょう。
  補足1 fleet and fastについて 
  ここではfleet, fastともに形容詞です。
英語ではbright and clearのように、意味の似た言葉をつなげて強調する事がありますが、ここもそうだと思います。
ちなみにプログレッシブ英和中辞典だと
fleet (adj.) 1. (文語)(動物・人が)速い、快足の;急速に動く、すみやかな。
fast (adj.) 1.(仕事・動作などが)速い、敏速な。
とあります。つまり両方とも軽やかさを表わしてるのだと思います。
   
  補足2  aloft(上に、上へ)のニュアンスについて
  この行はMove aloft, while you're fleet and fastと軽やかなイメージの単語が列挙されて、
2行先の
We're weighed down by our evil pastと対になっています。
しかも次のように個々のフレーズが全部照合しています。

move aloft

weighed down

(上へ)

 

(下へ)

fleet and fast

our evil past

つまりは、先に子供たちの身がるさ、かろやかさを出す事によって、大人達の重さ、 「上がれない」という哀しさがさらに強調されるのです。
   
  補足3 このフレーズの訳について
  琴蕗は「身軽なうちに天空へ向かいなさい」という訳を考えていました。けれどもこの訳ではmove aloft、fleet and fastの軽やかさが表現されていません。また、このアルバムのオープニングの曲「River of Orchids」のタンポポと種という単語に対応させて、最後の曲「The Last Balloon」においてタンポポの綿毛がふんわり飛んでいるイメージで気球を飛び立たせるにも、この軽やかさの欠けた訳では似合いません。そこへ次のような意見をいただいて上記の訳が完成しました。

ぱとさん
「無垢な(白い)心と身体をそのままに、ここから逃れておくれ」と雑に言えばこんな風に解釈しておりました。おとなの汚い世界への耐性があるうちに、この地上からできるかぎりとおくへ離れなさいと、うまく説明できませんがそういう含みで聴いています。

みーさん
私がなぜ最初に「向かいなさい」で引っかかったかを考えてみたんですが、「向かう」では、その後の行為に運動性は予測されるんですが、「向かう」行為自体は運動する前なので止まってるのですね。
それで、すでに動いているニュアンスのある move aloftとずれを感じたのです。つまり、「向かいなさい」の代わりに、動きのある動詞を入れればよりニュアンスは近くなると思われます。



We're weighed down by our evil past
僕達は自らの忌まわしい過去に押しつぶされている」という感じだと思います。

Drop us all, you should drop us all
それまでは、サーカスの呼び込み調だったのがここで全く様相が変わります。
子供たちの親として、気球に乗れないものとして、子供たちに語りかけているのです。
ここのshouldは本当に悲痛です。
さあ、私達を残らず落としなさい」と言っているのです。

Drop us all and free your hand
その手を振りほどいて私達を残らず落としなさい」という意味です。

Drop us all like so much sand
気球が砂袋をどんどん落として上に揚がっていくように、私達を落としなさいと言っているのです。
なんか本当に悲痛です。(最後のsand、sinのようにも聞こえませんか?)
気球を上げる為には、自分達の重しを落とすか、それができなければ自分達自身が落ちるしかないのです。

でも本当はオトナ達も、自分達の重しを落として上に行きたいと願ってると思うんだけどな。
歌詞の下の遊園地の二人、空に上がっていく気球を見送っているようにも見えませんか?

  補足 「ノアの箱舟」めいたラストについて
  この歌は男性、女性、子供の順に呼びかけがなされていますが、子供のパートで時計のコチコチコチという音が鳴り始めます。
そしてwe won't qualifyの後で飛行機が飛ぶような音が聞こえます。
つまり、早くしないと最後の飛行船に間に合わないのです。
時計の音は気をつけないと聞き落とすのですが、鳴っていることは知らなくても、ちゃんとその音は聞きとっていて、子供だけでも乗せなくてはいけない、というニュアンスを知らず受け取るのです。


XTC index

IMMORTAL IN THE SAVAGE GARDEN
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