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雪国の人は、滑る路面を器用にスイスイと歩いていく。私などは、ちょっと路面が
凍ってしまうともうパニックである。
もう随分むかしの話であるが、東京から朝イチの新幹線で帰ってきてみると、
そこは一面の銀世界。山のような荷物を抱え、バスも運休。タクシーなんて影も形も
ありゃしません。家までの急な坂道を、ツルツルの革靴でどうやって帰るんだと
半べそ状態の私に、年のころなら30代後半、ちょっと細身の男性が「よかったら、
僕につかまってください。途中までご一緒しましょう。」とさわやかに腕を差し出し
てくれた。「ありがとうございますっ!!助かりました。お願いしますっ。」
九死に一生を得た私は、オコトバに甘え彼の腕にしがみついた。
その瞬間から私の悲劇が始まったのである。頼りの彼は私に腕を組まれたその時
から制御不可能な状態に・・。しかたなく私は彼の腕をつかんで、ものすごい勢い
で滑りまくる彼を支えながら、もう一方の手でデカイ荷物を抱え2キロほどの坂道を
必死で家路についた。
どのくらいの時間が経ったのだろうか、意識のモウロウとしてきた頃やっと我が家
が見えてきた。ボロ家が神々しくすら感じられた。結局、彼は私の家よりむこうに
あったらしく、最後まで私の腕にしがみついたまま、そして滑り続けたままであった。
「私の家、ココですから・・・。それじゃあ、お気をつけて。」
なんでやねんという気持ちを押さえつつ、引きつる笑顔の私に
「どうも、有難うございました。」とちょっと恥ずかしそうに会釈し、引き続き
滑り滑りしながら彼は去っていったのであった。
その日以来、雪道で人の手は借りないことにしようと固く心に誓っている。
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