
この季節、こんな本がおすすめです
今月のテーマ 
『青空のむこう』
アレックス・シアラー 著
金原瑞人 訳
空は不思議だ。どこからどこまでが空なのだろう。空には果てがあるのだろうか。空の向こうにはどんな世界が待っているのか。秋になると、空の色が違ってくる。夏の濃い青空とはどこか違った色。澄んで軽やかにハミングしているような青空。その青空にふと心を向けると、人間が小さな小さな生き物であることがわかってくる。その小さな生き物心の底にはとても優しい気持ちが本来的に潜んでいることを青空が教えてくれる。
『青空のむこう』の主人公は、少年ハリー。ハリーは姉とケンカしたすぐあと自転車で買い物に行き、トラックにはねられ死んでしまう。だが、この小説ではハリーの死後の世界が語られる。まるでハリーがまだ生きているかのようだ。
ハリーは、もちろん<死者の国>にいるのだが、ある日、青空から<生者の国>に降りてくる。姉とケンカしたとき「ぼくが死んだらきっと後悔する」と姉に言い、そのとき姉は「後悔するもんですか」と答えたのだ。その直後の事故だったので、姉はすごく悩んでいるだろう。どうしても姉に謝らなければならない。そう思って青空から降りてきたのだ。
なぜなら<死者の国>ではやり残したことがあると、<彼方の青い世界>に行けないからだ。その世界は、決して沈まない夕日の向こうの空の彼方にある。<死者の国>ではみんながその<彼方の青い世界>に憧れる。<生者の国>に降りてきた少年は、幽霊となって懐かしい学校や映画館、それに家に戻ってくる。だが、かつての友だちも先生も両親も、誰もハリーに気づいてくれない。やっとの思いで姉の部屋に入り込み、超能力を発揮して姉のエンピツを立たせ、おわびのことばを書くことに成功する。そしてハリーは虹を伝って空に帰り、思い残すこともなく、<彼方の青い世界>を目指すのである。
このちょっと不思議な、青空を舞台に死者ばかりが登場する小説で、作者は何を言いたかったのだろう。童話のような描き方だし、変な表現だが死者たちがじつに生き生きとしている。少年が空を飛ぶ冒険小説ともいえる。死後の世界がこんなに明るく描かれているのに驚かされる。
<彼方の青い世界>にいくとどうなるのか。それは、ここでは明かさない。だが、1人の人間の、いやすべての生物の永遠性を作者は教えているのだと思う。それに、人間が心の底に有している優しさの大切なことも。
人は死んだらどうなるのだろうか。生命は循環するのだろうか?そんなことを考えていると、これはずいぶん哲学的な小説のようにも思えてくる。
作者のアレックス・シアラーは、30以上もの仕事を経験し、子ども向け、大人向けの小説を多数発表するイギリスの作家だという。
「青空のむこう」に心を向けて生きていきたいと、私はしみじみ思った。
『空のうた』 おーなり由子
著者は童話作家で絵本も書く。「空はこわくてやさしくてほんとにきれい」。青空の写真や絵をちりばめたデザインに、詩のことばが豊かに躍る。「気がつくと/空ばっかりみている」著者がいる。
『あかね空』 山本一力
江戸・深川を舞台に小さな豆腐屋に命をかける一家のドラマ。ひたむきに生きる職人を励ますように「あかね色」の空が美しい。山本周五郎を思わせる2001年直木賞作家の筆致が冴える時代小説。
『空のレンズ』 片山恭一
ネットで更新する少年少女が主人公。「空のレンズ」というキーワードを軸に、現実とバーチャル世界をつなぐ再生の物語。新刊『満月の夜、モビィ・ディックが』(小学館)などのある気鋭作家だ。