“Some people try to fuck with you”
雨とコーヒーの街シアトルから下北沢の地下のとあるライブハウスへ戻ってきたhalは確かにそう歌った。前作『二十歳のころ』のリリースから1年近い歳月が経っていたことに気が付いたのはまさにその時だ。表現が深くなったなんていう生やさしいものじゃない。第三の眼が大きく見開かれたような、新しい歌の世界がそこには広がっていた。
もっとも、デビューしてから4年、ソングライターとして目覚めてからまだ日の浅い彼女だが、自らギターを手に紡ぎ出す習作の数々は歌うべき言葉とメロディに近づきつつあるような力強い予感に満ちていたし、なにより、歌いかける相手を見定めたかのような深い落ち着きが感じられるような声の変化は、近いうちに必ずや名曲をものにするだろうと思わせてくれるに充分だった。
そんなところに冒頭の素晴らしいライヴ・パフォーマンスと、そして手元に届けられた新作『低温火傷』である。あまりにも早い成長に一体何が?と思わずにいられないが、彼女はまだ21歳になったばかり。クラウドベリー・ジャムとの出会いから始まって、くるりの岸田繁、Dragon Ashの降谷建志に謎のソングライター、丸木土定男……多くの才能と触れ合うことで得た貴重な経験の数々は若い彼女を大いに刺激したことは間違いない。
実際、本作でも数々のメジャー・ワークスで経験豊富な渡辺善太郎、バッファロー・ドーターの大野由美子、そしてピールアウトの最新作を手掛けている上田禎を招いてはいる。が、ここでの主役は紛れもないhalその人。シンプルに歌を響かせる渡辺、音のアンビエンスに細心の注意を払った大野、力強いストリングスを施した上田とサウンド的には3者3様のアプローチを採りながら、各曲に共通するムード――それは胸をえぐるような焦燥や感情の振幅を生々しく伝えている――の核となる曲の息吹は、共作者にホフ・ディランの小宮山雄飛、ティーンエイジ・ファンクラブのノーマン・ブレイクを迎えたことで全く揺らぎないことからも明らかだ。
そんな本作は間違いなく聴く者に決して消えることのない傷を残すだろうし、それは歌うhal自身もしかり。彼女は決して少女期の彼女に戻ることは出来ないだろうし、まして振り返ることもないだろう。大人の、いや、本物のシンガー・ソングライターになるというのはそういうことなのだ。